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読書 「花芯」瀬戸内寂聴

2010-09-27 09:35:45 | 読書
 
                
 瀬戸内寂聴が30代の晴美時代に書いた作品。この本には「花芯」を初め全部で5作品が収められている。とくに「花芯」は女性が性愛を描いたとして、当時「子宮作家」というレッテルを貼られたといわれる。それは作品の中に、子宮という言葉が頻繁に現われるからだ。

 一読して断言できるのは、絶対男性作家には書けない部分があるということだ。それは女性のオーガズムだ。例えば「上り詰めた」とか「失神のめまいに襲われた」「殺して欲しいくらいの官能に溺れた」という通俗的な表現で誤魔化すしかない男性作家と比べ、瀬戸内寂聴は「出産のあと、私はセックスの快感がどういうものか識った。それは粘膜の感応などの生ぬるいものでなく、子宮という内臓を震わせ、子宮そのものが押さえきれないうめき声をもらす劇甚な感覚であった」

 女性ならこの感覚は、納得されると思う。私もつい最近ある女性からこれに似た話を聞いたので納得できた。この作品は、精神と肉体が対立しながら流れていくという、ちょっと難しいテーマが描かれていて一読では理解不足に陥る。

 主人公の園子が夫を愛せない。この感情に理由がいるのだろうか。また、園子夫婦の引越しの時、訪れてきた越智という男との出会い。「ゆっくり首をまわした私の目いっぱいに、越智の顔が映ってきた。肉の薄い精悍な顔の中から、まなじりの上った越智に目が、私の焦点のゆるんだいつもの煙ったまなざしをがっちり捕らえて、動かなくなった。
 レンズのしぼりをしぼられるように、私の目がひきしまり、瞳がきらきらと輝きをました。私のからだの奥のどこかで、何かがかすかな音をたててくずれるのを聞いた。あ、 と声にならぬ声を私がたて、越智がどこかを針で刺されたような表情をした。私は越智が私を感じてくれたことをさとった。不思議な震えが、私の内部のもう一つのいのちに伝わっていった」この感情に理由がいるのだろうか。
 また、越智は下宿の未亡人の家主と深い関係にあった。この初老の女性の越智に対する官能的な執念も。理由がいるのだろうか。
 そして、園子は完璧な娼婦へと流れていく。「死というものを、私は、セックスの極におとずれる、あの精神の断絶の実感でしか想像することができないのだ。私が死んで焼かれたあと、白いかぼそい骨のかげに、私の子宮だけが、ぶすぶすと悪臭を放ち、焼けのこることを一番恐れている」読んで損はないし、一時的にも思索にさ迷うのも悪くない。