この映画のエンディングには悩まされる。そのせいかどうかは知らないが、批評家の評価はよくない。が、私は楽しめた。
「言葉The Words」の著者クレイ・ハモンド(デニス・クエイド)は、自身の著書紹介の朗読会で一人の男の人生にとってあまりにも重い過ちを語る。
シャワーからでる水のような雨の降る夜、リムジンに乗り込んだのは「窓辺の涙」でアメリカ文芸奨励賞を受賞して、そのパーティに出席するローリー・ジャンセン(ブラッドリー・クーパー)とその妻ドラ(ゾーイ・サルダナ)だった。
その二人をアパート入口ドアの陰から見送る初老の男(ジェレミー・アイアンズ)がいた。オープニングからミステリアスな展開。
クレイ・ハモンドが語る第1部が終わり幕間に謎の美女ダニエラ(オリヴィア・ワイルド)がクレイに近づく。
新緑のニューヨーク・セントラルパーク。ローリー・ジャンセンがベンチで本を読んでいる。隣りのベンチに座ったのが初老の男。何気ない言葉のやり取りから、「窓辺の涙」のストーリーを語る初老の男が、あの原稿を書いた本人だと知る。最後に彼は核心に触れる。「君は私の人生を盗んだのだ。その真実だけを伝えたかった」と言う。盗作した「窓辺の涙」は、初老の男の哀しいラブ・ストーリーだった。ローリー・ジャンセンにしても最初からこの作品を盗む気持ちはなかった。
時はさかのぼり、ローリーとドナのフランスへの新婚旅行。パリの骨董店で見つけた古い鞄を買い求めた。若き作家志望のローリーは、著作に苦しみながらも作品を出版社に送るが、表現力はいいが内容が現代に合わないので発刊は出来ないという断りが続く。
そんなある日、ローリーは自作の原稿をパリで買い求めたカバンにつめようとして古い原稿を見つける。読み始めると止まらない。読了後もその作品が頭から離れない。深夜眠れないまま、その原稿を句読点や綴りの間違いも含めてそっくりパソコンに入力した。
自分では何故そういうことをしたのか分からない。ただ、言葉を指先から感じたかった。そうすれば自分の作品に命を与えてくれると思っただけかもしれない。
入力したパソコンを読んだドナは、ローリーの作品に感動した面持ちで息つく暇もないほど言葉が飛び出してくる。彼女の熱気は「盗作になる」という言葉を挟めなくなる。こうして世に出たローリー・ジャンセン。出版を拒否された作品も名前のおかげでつぎつぎと発刊される。
順風満帆、人生の頂点で初老の男に出会った。それからは眠れない日が続く。妻に真実を打ち明けたら「信じられない」と言って距離をとり始める。出版社の編集長は、「公表するな。おれも破滅だ」。ローリーは、重い過ちを抱えながら人生を歩まなければならない。
そしてニューヨークの高級アパートメントにあるクレイ・ハモンドの部屋。謎を秘めたダニエラとヴィンテージ・ワインを傾ける。クレイが「ローリー・ジャンセンは、今後どうなると思うか? 当ててみろ」「彼は破滅よ」とダニエラ。ダニエラの蠱惑するまなざしは、男を求めていた。熱いキスも途中でクレイが力をなくす。「私はいいのよ。あなたを求めているから、なぜ?」ダニエラの言葉にクレイは「僕は……」言葉が続かないまま、エンドロールに場面は転換する。
一体クレイは何者なのだろう。私が思うに、初老の男が別れた女の息子ではないかと。と言うのも初老の男の若い頃、出勤途上のニュージャージーのある駅で、車窓から別れた妻を見た。そこには夫が抱いた男の子が見えた。別れた妻も別れた夫に気がついたらしく凝視している。列車が動き出して思わず片手をあげて挨拶を送った。別れた妻も少し右手をあげて挨拶を返してきた。遠い昔の切ない思い出ではあるが、その時の子供がクレイではないか。
クレイは詳細に母から聞いている筈だ。クレイは復讐を企てているのだろう。そうなるとダニエラとの関係も深入りは避けねばならない。謎の女に秘密を打ち明けることは出来ない。2012年制作アマゾン・プライムで観る。
監督
ブライアン・クラグマン1975年9月ペンシルヴェニア州生まれとリー・スターンサール1980年ペンシルヴェニア州生まれとの共同監督。
キャスト
ブラッドリー・クーパー1975年1月ペンシルヴェニア州フィラデルフィア生まれ。
ジェレミー・アイアンズ1948年9月イギリス、ワイト島生まれ。1990年「運命の逆転」でアカデミー賞主演男優賞受賞。
デニス・クエイド1954年4月テキサス州ヒューストン生まれ。
オリヴィア・ワイルド1984年3月ニューヨーク州ニューヨーク市生まれ。
ゾーイ・サルダナ1978年6月ニュージャージー州生まれ。