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読書「凍りつく心臓IRON LAKE」ウィリアム・K・クルーガー

2021-05-07 16:10:29 | 読書
 コーク・オコナーは、元保安官。有能ではあるが欠点も持ち合わせている。唯一称賛するとすれば、不屈の闘志を持っていることだろう。

 カナダと国境を接しているミネソタ州オーロラ、3752人の町。ある年の12月、空はどんよりと曇り降る雪に視界は水墨画のように白と黒。ダーラ・ルポーの息子ポールが、新聞配達の途中行方不明になる。不安を抱えたダーラの依頼にコークが探し始める。
 配達先を書いたメモを片手に一軒一軒辿り最後の配達先、湖の突端にあるロバート・パラント判事の屋敷にたどり着いた。しかし、そこには判事の死体が転がっていた。ポールの姿は見えなかった。

 これが端緒となってアメリカ合衆国大統領を目指す狡猾で非情な息子、上院議員のサンディ・パラントの悪行を暴き出す。

 コーク・オコナーは、先住民族インディアンのアニシナアベ族の血が入っている母親と白人の父親との間に生まれた。従って居留地のアニシナアベとの交流もある。この物語では、大自然を知悉するアニシナアベ族の存在も大きい。

 一方で人と人との微妙な関係も描かれていて、雪と氷の世界に暖か味を与えている。とはいっても何のわだかまりもないハッピーなものではない。

 コークには、妻ジョーと三人の子供がいる。ジョーは、地元で弁護士業を営んでいる。しかし、ジョーとは別居状態にある。それはある事件がきっかけで職を追われ挫折感から家族を顧みなくなり、ジョーから離婚を迫られ追い出されたのだ。

 そんな折に出会ったのがモリー・ヌルミ。深い関係になるが、コークは背徳の行為に悩んでもいた。

 死んだロバート・パラント判事と親しかった元海兵隊員のハーラン・リットンが殺される。コークは、リットンの家の暗室から大量の写真のネガを発見する。コークが仔細に調べていくと、ジョーの浮気現場のネガが出てきた。相手は上院議員のサンディ・パラントだ。ジョーにそれを叩きつける。夫婦関係は泥沼化する。

 事態は急変する。モリー・ヌルミが凍死体で発見される。ここから物語は、アクションを伴って終局へとスピードを上げる。エンディングは、余情を伴ってコークが天にいるモリーへの思慕が切ない。
 「雪は天からまっすぐに降ってきて、夢のようにそっと地面に舞い降りる。コークは最後に一度だけサウナまで下りていき、モリーが最初は激しく憎み、その後はあれほど愛した場所から湖を眺めた。(モリーは体を鍛える一環として、サウナで体を温めてから厳寒の湖に飛び込むことをしばしばやっていた)

 コークは四輪駆動車のブロンコに戻って、後部座席から緑色の金属の鉢に植わった小さなクリスマスツリーを降ろした。いちばん上には、パイプクリーナーと白いレースを使って作った天使を飾ってある。キャビンの中には入りたくなかった。―――モリーがいなければ、そこは世界で最も空虚な場所だった。
 だから、彼はツリーを外の雪の中に立てた。“飾りはあまりうまくできなかったんだ“ “それでもいいツリーになったと思うよ“とモリーがいるかのようにつぶやく。雪がコークの顔に落ち、溶けて涙のように頬を流れていった。彼は泣いてはいなかった。もうすでに、涙は流しつくしていた。
 それに、もしモリーに自分が見えるのなら―――そんなことはないと、誰が言えるだろう。―――この朝、微笑んでいる自分を彼女に見てほしかった。だから、彼はそうした。天から降ってくるすべてのものに対して微笑んだ。
「メリークリスマス、モリー」
クリスマスツリーの枝の上に、そしてペーパーチェーンの輪の中に雪がたまり、彼が作った天使の肩の上にも静かに降り積もったとき、コークは向きを変え、歩き去った」

 こういう場面の適切なBGMは、やはりカントリー・ミュージックだろう。以前エミルー・ハリスで紹介した「Today I started loving you again」がいいと思う。
 今回はぐっとスローテンポで今は故人となったサミー・スミス(SAMMI SMITH)で聴きましょう。
 サミー・スミスは、1971年「 Help Me Make It Through the Night」でヒットを飛ばした。「一人ぼっちの夜を過ごすのはイヤだ」この曲もいい。ハスキーヴォイスでグッとくるし、このころのサミー・スミスはなかなかの美人。これもどうぞ!

 著者のウィリアム・ケント・クルーガーは、1950年ワイオミング州に生まれる。現在ミネソタ州に在住。16編の著作のうち邦訳が8編ある。


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