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読書「ネヴァー・ゲームThe Never Game」ジェフリー・ディーヴァー著

2022-04-14 15:42:04 | 読書
 人生は短い。誰かにこんにちはって言うチャンスを逃してはいけない。さよならを言うチャンスも……そう言ったのはプロゲーマーのマディー・プール。赤毛の柔らかい髪、しなやかな体の持ち主。コルター・ショウがカフェで会った女性。

 ジェフリー・ディーヴァーの新しいキャラクター、コルター・ショウの登場なのである。コルター・ショウを紹介しておこう。
 身長180センチ、肩幅広く筋肉質、額に小さな傷痕、首筋にも傷痕。ロッククライミングを愛好、大学時代はレスリングの選手、武器に関しては、リボルバー、セミオートマチック拳銃、セミオートマティックライフル、ボルトアクションライフル、ショットガン、弓と矢、狩猟用のゴム銃の扱いに精通している。ルックスはハンサムの部類に入る。

 全国を仕事のフィールドにしているため、愛用しているのはキャンピング・カーのウィネベーゴ。これは大きな車で小回りが利かないので、うしろにヤマハのオフロードバイクYZ450FXを積んでいる。RV(Recreational Vehicle)パークを拠点にバイクで走り回るというわけ。ちなみに最新のこのバイクは、価格が約100万円、重量115kg。

 そのコルター・ショウが生業としているのは、いわゆる「懸賞金ハンター」である。平たく言えば「賞金稼ぎ」だ。例えば、行方不明の子供を探すのに懸賞金をつけて一般大衆に呼びかける。それに応じてその子を発見すれば懸賞金を取得する。これには二通りのアプローチがある。西部開拓時代の「生死を問わず」式のものと賞金も一度でなく分割払いも受けるという良心的と言えるのもある。コルター・ショウは、良心的な部類に入る。

 行方不明の女性を探すのは、大変な労力がいる。いろんな情報から最後に立ち寄ったカフェを特定し、そのカフェで聞き込みを始めるということもある。マディー・プールと知り合ったのは、「クイック・バイト・カフェ」だった。彼女は任天堂などが発売するゲームに精通していて、行方不明だった女子大学生のソフィー・マリナーの救出にも力を貸した。

 ところが彼女の行動や言質から、ショウは容疑者の一人に加える。そしてマディーの留守中に証拠探しを実行した。しかも、前夜には情熱的な二人の夜を過ごしたというのに。人は間違いを犯す、マディーが犯人などではなかった。証拠探しの最中に、マディーの詰問を受け二人の関係は雲散霧消した。

 いくら有能なショウでも警察権にはかなわない。警察から見る懸賞金ハンターは、うさん臭く感じるだろう。捜査に悪影響も否定できない。幸いショウには、重大犯罪合同対策チームの刑事ラドンナ・スタンディッシュと良好な関係を維持している。

 ラドンナ・スタンディッシュは、黒人でレズビアン、白人のカレンと結婚している。
昇進の早かったスタンディッシュに、男たちからの風当たりはきつい。黒人でレズビアンとなるとまだまだ保守的と言える。

 ショウとスタンディッシュのコンビはピューマと遭遇したり、遊漁船に閉じ込められたエリザベス・チャペルの救出に向かったりと獅子奮迅の活躍ぶり。スタンディッシュが重傷を負うというアクシデントもあったが、ショウが体温が35度以下になる低体温症の危険を冒して、海中からエリザベス・チャペルを救出する成果もあった。

 もう一つ、ショウは大きな事件を解決した。実は、この本の核を占めているのがビデオゲームだ。私は一度も経験がない。アクション/アドベンチャー30%、シューティング22%、スポーツ14%、ソーシャル10%というジャンル別人気度なのだ。

 この中で「ソーシャル」ってどんなゲームなのか知りたくてネットで調べてみた。雪合戦ができるゲーム、蜘蛛恐怖症克服ゲーム、カジノ・シュミレーションそれに体を動かせるトレーニング・ゲームなどなど。しかも記事によると、例えばカジノ・シュミレーションなどはギャンブル依存症が治ったという報告もあるという。

 多彩なゲームを悪用する輩がいる。ナイト・タイムというゲーム会社の創業者トニー・ナイトとゲーム開拓者ジミー・フォイルが、自社配信のゲームを利用してフェイクニュースを流し。そこから金銭的な利益を得ていた。

 手口はロビイストや政治家、政治行動委員会、企業のCEOに接触し、望み通りのニュース――――噂、誹謗中傷、捏造したニュース―――を配信すると持ち掛ける。ゲーマーはゲームを始める前に必ずこれらのニュースを観ることになる。当然法に触れるし、もっとこまるのは政治情勢が一変することだ。

 例えば、アメリカ上院の数は、民主党と共和党が拮抗している。議長が民主党だから現在は有利な位置にいる。フェクニュースによって民主党議員辞職を誘発し、それよって共和党議員が位置を占めれば勢力図が変わってしまう。そんなアコギな人物を葬り去ったのがショウなのだ。

 行方不明者や銃弾を受けた刑事を助け悪徳を社会から排除したが、自らの失策とはいえマディーという女性を失ったことが残念なのだ。

 ショウがバイクでキャンピングカーに戻ってきたとき、自分の車のフロントフェンダーにもたれてビールを飲んでいたマディー。そのマディーが言った。「今夜あなたから電話をもらっていなかったとしても、会いに来るつもりだった。私なりの人生訓があるの。人生は短い。誰かにこんにちはっていうチャンスを逃してはいけない。さよならを言うチャンスも……」二人は短いハグを交わした。マディーの車は尻を振りながら遠ざかっていった。

 これからもこのシリーズが続くだろう。別の女性との短いロマンスも語られるのではないだろうか。そういう余情とともに聴くのは、ショウの愛聴リストにもあるアコースティック・ギターの名手トミー・エマニュエルの演奏だ。

 著者のジェフリー・ディーヴァーは、1950年イリノイ州シカゴ郊外生まれ。ウォールストリートの大手法律事務所勤務の傍ら小説を書き始め、40歳で作家人生に転換する。

 それではショウが好んでいるトミー・エマニュエルの演奏でビートルズの「イマジン」をどうぞ!
こういう演奏はキャンプで焚き火を前にして聴くのもいい。
コメント (1)
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