1995年「アメリカの小さな町」という作品でピューリッツァー賞を受賞した作家ネイサン・フォウルズは、35歳だが20年間もボーモン島の隠遁者として人々の好奇心の的になっている。世の中には、作家志望の人々が雲霞のごとく存在する。24歳のラファエル・バタイユもその一人。出版社からは鄭重にことわられ続けている。最後の手段として自作「梢たちの弱気」の評価を求めて、ネイサン・フォルズの住居に押しかけようと画策する。
繊細でありながら力強い、太陽のような何かしらに一瞬魅惑され、ジャカード編みの丈の短いワンピースにライダース・ジャケット、細いベルトを足首の横のバックルでとめたヒール付きのサンダルという装いだった。このブロンドの女性の美しさに魅了されたのが、ネイサン・フォウルズなのだ。女性の名前は、マティルド・モネーと言い新聞記者だった。ほとんどの男性作家は、女性を事細かく描写をする、しかも詩的に。作家の好みの反映かもしれない。多分そうだろう。
この複雑なストーリー展開に疲れを覚えながらも、ネイサン・フォウルズの隠された人生が明らかになり、それぞれの人生がハッピーになるというお話でした。ストーリーを追いながらワインやウィスキー、音楽にも触れられていて楽しめた。
ネイサン・フォウルズが飲むワインは、白のワイン「テッラ・ディ・ビー二」、赤「サン・ジュリアン」。ウィスキーは日本製。聴く音楽は、クラシック。グレン・グールドのピアノ曲。ネイサン・フォウルズがマティルド・モネーと会ったときの心境は、「ネイサン・フォウルズは晴れやかな気分で目を覚ましたが、それは久しくなかったことだ。グレン・グールドのレコード5曲目が始まったところでこの晴れやかな気分の原因を考えてみた。それはマティルド・モネーとの出会いだった。彼女の雰囲気がまだあたりに漂っていた。輝く光の詩、ほのかな香り。それはすぐに消えてしまう。捉えどころのないはかない何かであるとフォルズにはわかっていたが、それでも心ゆくまで味わっていたいと思った」本作は、2019年に発表されたギョーム・ミュッソの17作目になる。