オックスフォードシャー、キドリントンのテムズ・バレイ警察本部CID(警察刑事捜査課)所属の主任警部モースは、プッチーニのオペラ「トスカ」を大音量で聴きながらジャガーマーク2のハンドルを握り、幾多のクラシック音楽とウィスキーとビールをこよなく愛し、エドモンド・スペンサーやジョン・ウィルモットの詩集に親しみ、ミルトンの「失楽園」の一節を朗唱する教養人ではあるが、暇を見つけては女性に色目を使う初老の独身男なのだ。
ずる休みがしょっちゅうのようで、上司の警視正からは小言の嵐。ある捜査の過程で女性三人がシェアする住宅を訪問した際、その中の女子学生が持つエドモンド・スペンサーの「妖精の女王」の本を見て、“気高き騎士は、野へ進みゆけり“と詩の一節を口ずさむ。
“刑事と詩“なんて取り合わせが奇妙に映ったのか、その女子学生は「警部さんが詩を?……」と目を丸くする。以後彼女は「チャーミングな警部さん」と言うようになった。
このモース警部を演じるのは、1942年イングランド生まれのジョン・ソウ。本作で英国アカデミー賞テレビ部門主演男優賞を1990と1993年の2回受賞している。その彼は、2002年2月食道がんのため60歳で他界している。
モース警部は酒飲みの上、仕事の合間に女性をランチやディナーに誘ういわば普通の男だが、捜査能力は高く、パートナーの巡査部長ルイス(ケヴィン・ウェイトリ)ともども事件を解決していく。
この作品は、1987年に放送されているので当時の治安状況が想像される。モース警部もルイス巡査長も拳銃の携帯はない。最近作られた作品を観ていると、刑事は必ず拳銃を携帯している。しかも、どの国も。治安の悪化が世界的に蔓延している証左なのだろう。
後にルイスを主役とした「オックスフォード・ミステリー・ルイス警部」やモースの若いころを想定したスピンオフ作品「刑事モース~オックスフォード事件簿」も作られている。
「刑事モース~オックスフォード事件簿」は観て損はない。主演のショーン・エヴァンスが味わいのある演技で好感が持てる。
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