殺し屋稼業を引退したいと思っていたケラーに舞い込んだのは、アイオワ州の白人の男が標的の依頼だった。その男も確認してるが、どういうわけか実行の延期命令が続く。そんな中重大ニュースが飛び込んできた。
オハイオ州知事ジョン・テータム・ロングフォード暗殺事件だった。ジョン・テータム・ロングフォードは、フットボールのラインバッカーで鳴らしプロのチームにも入ったがひざを痛めて退団、ロースクールに進んだカリスマ性を備えたハンサムな黒人男だった。アイオワ州には大統領候補として遊説中だった。全国的重大ニュースとして耳目を集めていた。
ケラーはドットに電話した。二人の意見は、どうも変で罠かもしれないというものだった。それがハッキリしたのは、テレビ画面に指名手配犯としてケラーの顔が映し出されたからだ。
こうなると人に顔を見られるのは大変危険だ。どのようにしてニューヨークに帰るか。飛行機や長距離バス、電車は危ない。今乗ってるニッサンのレンタカーしか選択の余地がない。このようにしてロード・ノベルの様相を呈し、インターステートを避け国道を走ることになる。
アイオワ州の北の州境に接するのは、ミネソタ州でそこはカナダとの国境に接している。平面な地図を見るとアメリカ合衆国の上の位置にある。ニューヨークまでかなりの州を横断しなければならない。全国チェーンのモーテルを避け、地元の個人が経営するモーテルを探して泊まったり、レストランにも入れないのでドライブスルーで食品を購入したりしてニューヨークの自分のアパートメントに到達した。
ここも安全ではなかった。FBIか警察かわからないが、部屋が徹底的に捜索された痕跡がある。ケラーは放浪の身の上となった。
そしてたどり着いたのがルイジアナ州ニューオーリンズだった。しかもジュリアという女性とも出会ったのだ。ニューオーリンズの街を歩いていると公園の中から「助けて」という女性の声。ケリーの足が自然に動き走っていた。
男が女に覆いかぶさるような格好だった。ケリーに気がついた変態男がナイフを取り出した。それに怯えるケリーではない。ナイフを持った手を足でけり上げると、ナイフがどこかへ飛んで行った。首に腕を回して揉めていると男はぐったりした。首の骨が折れて死んだのである。警察への通報は避けて、その場に放置した。命の恩人だというジュリア、後で自らの立場をジュリアに説明するケラーだった。
理解したジュリア、二人の関係は急速に親しくなっていく。ルイジアナ州はテキサス州の隣でメキシコ湾に面している。ニューオーリンズは食の街といってもいい。
その辺を本の文章を拝借しよう。「ケラーはここ数年間のあいだにニューオーリンズを二、三回訪れたことがあり、カフェ・デュ・モントで出されるベニエ(四角形のドーナッツ)やチコリコーヒー(チコリの根の入ったコーヒー)の味が今でも忘れられなかった。しかもそれはタバスコの瓶のふたに過ぎない。ニューオーリンズの名物料理のほんの一端に過ぎない。
ガンボスープ、オクラを入れスパイスを利かせたルイジアナ特有のシーフードシチューを食べずして、ニューオーリンズを去ることなど、果たして人間に出来るものだろうか。あるいは、レッドビーンズ・アンド・ライス、赤インゲン豆と豚肉のシチューをライスの上にかけた料理やオイスター・ポーボーイ・サンドウィッチ、カキフライのサンドウィッチやジャンバラヤ、ルイジアナ特有の炊き込みご飯やクロウフィッシュ・エトフェ、ザリガニのシチューをご飯の上にかけた料理といった、ニューオーリンズではたいていどこの店でも食べられても、ほかの地域では決して出されることのない素晴らしい料理を味わうことなしに別の地域に行く? 出来ない」そんなわけでケラーはこの地に落ち着こうとしていた。
しかし、やり残しの仕事があるんじゃないかな。罠にはめたヤツを探し出すということを。ローレンス・ブロックはそれを忘れることをしなかった。このケラーというネーミングだが、英文でKELLERだからKILLERS殺人者のもじりではないかと思っている。いつものように冗談多いけど面白く読了した。
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