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読書 ジョナサン・キング「真夜中の青い彼方」

2008-06-02 12:51:04 | 読書

              
 元フィラデルフィア市の警官マックス・フリーマンは、エヴァーグレイズ国立公園の湿地帯の川で子供の死体を発見する。動悸が早くなり顔を背けたくなる。フィラデルフィアの街角で十二歳の犯罪者を射殺したトラウマを抱え込んでいるマックスには耐え難い光景だった。
 事件の渦中でもがき殺人犯からの襲撃に死線をさまよう羽目になる。都会のジャングルでなく自然のジャングルを背景にハードな物語が展開される。特に気負いのない自然な描写が印象的だ。

 「わたしは水路のまんなかを進んだ。聞こえるのは、パドルが水中に滑り込み、ブレードが水を捕らえる密やかな音だけ。立ち枯れたヌマスギのてっぺんにミサゴが一羽、止まっていた。
 小枝でこしらえた巣の端から、黄色い眼で川の流れをじっと観察している。ミサゴは猛禽の一種で、潮の差す河口域に生息し、音もなく水面に急降下しては釣り針並の鋭い鉤爪で魚を捕らえて餌としている。
 初めて見たときはその姿からてっきりワシだと思ったが、公園レインジャーに、そうではない、ワシとは身体の大きさと羽の色と翼の形がちがう、と教えられた。 アメリカ合衆国の偉大なるシンボルなんて、ただなりがでかいってだけで、ミサゴの敵でもなんでもない――レインジャーはそうも言った。ミサゴは自分らの巣に危険が迫ってると思えば、ハクトウワシにだって向かっていって追い払っちまう。 そういう場面を何度も見たことがある。それにワシは掃除屋だ。自分じゃ狩をしないで、出来合いの屍肉を食らう。その点、ミサゴは本物のハンターだよ。
 ヌマスギのてっぺんに止まったまま、ミサゴは眼下を通り過ぎるカヌーをじっと眺めていた。カヌーの立てるゆるやかな小波が一瞬で消えてなくなり、漁場が荒らされずにすんだことを見届けたいのかもしれなかった」

 そして、郡保安官事務所の女性刑事リチャ―ズとマックスの淡いロマンティックな雰囲気は今後のシリーズを楽しいものにするだろう。現在マックス・フリーマン・シリーズは、四作目まで上梓されている。これから訳出されるのだろう。

 著者は、ミシガン州生まれ。フィラデルフィア・デイリー・ニューズ紙を皮切りに、20余年わたり、主に犯罪と刑事裁判を専門とする記者として活躍。2002年、本書で作家デビュー。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を受賞している。
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