原題はGood Economics for Hard Times うまくいかないときの良い経済学、MITの2教授(夫婦)19年ノーベル経済学賞、貧困の経済学で有名
経済がなぜうまくいかないかを述べている、特にバナジーにからむインドの経済分析が新しい。知見は:
・移民は労働供給と労働需要両方を右にシフトするため賃金は上がらない
・貧困地域から職のある都市に移らないのは、リスク(機会費用:生命、費用、故郷なら安心)と住環境悪化や住宅負担(2極分化し高級かスラムか、故郷なら住居がある)、家族の面倒を見る人手が必要
・企業は群れる:クラスター(集積は)は発展のメリットもあるが、産業崩壊の場合はその都市を死滅のリスクとなる。モレッティは劣位のクラスターの補助金より労働者移動の促進を提唱、これに対し筆者は移動の進行遅れとその間の薬物・アルコールの「絶望死」が急増するコミュニティ問題の発生、短期的に復活は望めないと指摘し補助金の必要性を説く
・リカード:比較優位(どの国も相対的に得意な産業をやるべきだ)
・サミュエルソン:労働集約と資本集約の産業があれば負け組の労働者に、勝ち組の税金を「政府が再配分」しないと生活向上がない(ストルパー=サミュエルソン定理 https://en.wikipedia.org/wiki/Stolper%E2%80%93Samuelson_theorem )
・労働者の移動も資本の新規投資や土地所有も硬直的ならリソースの移動が進まない、リスクを恐れる体質
・自由貿易は良いのはリカード以来根を下ろす、クルーグマンは賛成、マンキューは反対
・全要素生産性(TFP)は労働者の教育水準による技能と機械の性能の向上、この2つ以外を説明できないためこの名前にした「無知を計量化したもの」(ソロー)
・モレッティは地域開発が成長の終焉を回避するてこにはならないと指摘、都市間の雇用機会のやりとりであり国家全体には寄与しない
・シカゴ大ブースの研究では、富裕層10%への減税は雇用と所得の増加もなかったが、それ以外90%への減税は効果があった、つまりトリクルダウンは絵にかいた餅
・教育のリソースがあっても雇用のミスマッチがあると就職せずに「ひたすら待つ」
・ラッダイトの背景は1755~1802年にイギリスのブルーカラーの賃金は半減、1820年に回復(65年を要した)
・高い最高税率は税引後だけではなく税引前の所得格差も減らす(報酬が税金になるから高報酬の価値が下がるため)
・アメリカでは教育水準の低い白人の死亡率が上昇、70年代以降の喪失感(→トランプの出現か)
・デンマークFlixicurity:解雇の自由性と手厚い失業保障、NIT(負の所得税)の現金給付も有効
なかなか奥が深い