金融バブルがはじけると、世界の債券市場や株式市場が収拾のつかない投げ売りの修羅場となる可能性があり、それを引き金に、あらゆる金融商品が崩れ落ちて瓦礫(がれき)の山と化す。それはやがてインフレを巻き起こす。財政赤字や債務問題を抱える各国政府や中央銀行に歯止めを利かせる余力は残っていない。結果、人々の生活はズタズタにされる──。

 そんなバブル崩壊のシナリオに備えて、どうすればしっかりと身の回りを固められるのか。今回の記事では、澤上会長インタビューの第1回をお届けする。古今東西の歴史を振り返って「バブルの仕組み」を冷静に分析し、経済の本質を知り、自分の頭で考えることが肝要だと語り始めた。

(聞き手はクロスメディア編集部長 山崎良兵、経営メディア局編集委員 藤田宏之)

澤上 篤人(さわかみ・あつと)
さわかみ投信代表取締役会長。1947年、名古屋市生まれ。1973年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。1999年に、日本初の独立系ファンド「さわかみファンド」の運用を始める。純資産は約3400億円、顧客数11万6000人を超え、長期投資のパイオニアとして熱い支持を集めている。(写真:北山宏一)
草刈 貴弘(くさかり・たかひろ)
さわかみ投信取締役最高投資責任者兼ファンドマネージャー。東洋大学工学部建築学科卒業。舞台役者、SBIフィナンシャルショップを経て、2008年10月さわかみ投信に入社。2013年1月より最高投資責任者兼ファンドマネージャー、2015年6月、取締役に就任。(写真:北山宏一)

 

株価が上がり続け、バブル期超えという水準まで見えてきている状況の中、最新刊『金融バブル崩壊 危機はチャンスに変わる』はかなりショッキングなタイトルですが、どのような思いから執筆されたのでしょうか?

澤上篤人氏(以下、澤上氏):まず、申し上げておきたいのは、おどろおどろしい話で読者を脅かすような気持ちは全くありません。しかしながら長期投資を手掛けている立場から言うと「健全な経済」こそが大歓迎なのです。その視点で見ると、今はあまりにも異常な状態になっています。

 ただ、こうした異常な状態が永久に続くことはないのもまた道理です。そして、今起こっている金融バブルが壊れた時が怖い。異常な状態が長く続けば続くほど、事態は深刻になります。できるだけ早く崩れてくれたほうが、健全な経済、社会への回帰が早まります。

 もはや、いつ崩れてもおかしくない状況なので、それに備える姿勢を投資家はもちろん一般の生活者にもお伝えしたいというのが、執筆のきっかけです。

マグマがたまればたまるほど、その反動は深刻なものになると。

澤上氏:落差がどんどん大きくなります。実体経済はいつも変わらず、動き続けています。その傍らで、金融バブルが何十倍にも膨らんでいます。でも、中身がありませんから、崩れた後には何も残りません。そのことが、実体経済の一部に大きな悪影響をもたらすのです。社会や経済がガタガタになる部分も出てくる。だから、一刻も早くバブルから抜け出たほうがいいのです。

バブルが崩れる時、どのようなシナリオ、崩れ方をするとお考えですか?

澤上氏:正直言って、全く分かりません。そもそも、今なぜここまで相場が上がっているかも分からないのですから。だから、崩れるきっかけも当然予想できない。

リーマン・ショックの時は、投資銀行の破綻がきっかけとなりましたが…。

澤上氏:実は、2008年のリーマンショックの時は、それ以前に兆しはありました。例えば、2007年にフランスの商業銀行BNPパリバが新規契約をストップ。思えば、それが兆候でした。そして翌2008年9月に米投資銀行大手のリーマン・ブラザーズが破綻。それから2~3カ月くらいかけてだんだんと経済が悪化し、年末にかけて、一気に崩れたという印象です。

 私は1971年のニクソン・ショックの頃から投資の世界に身を置いてきていますが、あのときは、米国の双子の赤字が問題になり、同時に日本の貿易収支の黒字も膨らみ、日本バッシングも始まっていました。それがどういう風に経済に現れるかな、と思っていたら、ニクソン大統領によるドルと金との交換停止、そして変動相場制への移行という発表となり、経済が大混乱に陥りました。今回は、そうした兆しさえ見えない。ある意味、「完璧なバブル」と言えるでしょう。

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