温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

東鳴子温泉 高友旅館

2013年05月25日 | 宮城県
 
皆様おなじみの東鳴子「高友旅館」へ、黒湯に浸かって全身アブラ臭にまみれたくなり、先日日帰り入浴で訪問してまいりました。多くの温泉ファンによって愛され、そして語りつくされているこの高友旅館に関して、いまさらあーだこーだと申し上げるつもりはございません。日帰り如きでこの旅館のお風呂を語ることは野暮であることも承知しております。今回は余計なことを書くつもりはございません。もしこの旅館や黒湯について詳しく知りたいのでしたら、ネット上に素晴らしいレポートがたくさん上梓されておりますので、是非検索して他の方のサイトをご覧ください。今回は館内に複数ある浴室のうち2つについて、ただ冗長に、利用した時に感じた描写やお湯に関するインプレッションを述べてゆくつもりです。



玄関にて「ごめんください」と声をかけ、帳場から出てきたご主人に湯めぐりチケットを差し出して入浴をお願いしました。こちらには何度か訪問しておりますが、清掃のために一部の浴室が利用できない場合があり、前回までは運悪くそんなタイミングばかりだったのですが、今回は日帰り入浴で入れるお風呂すべてが利用可能でした。


 
いかにも東北の湯治宿らしい鄙びきった館内。廊下のガラスケースで口を大きく開けて牙を光らせているトラにもご挨拶。


●黒湯&プール風呂
 
黒湯へ向かう途中の小ホール。いつのものかわからないマッサージチェアや、メリーゴーランドから1頭だけ持ってきたような子供が跨る子馬の遊具など、明らかにここだけ時空間軸が周囲とねじれをおこしていますね。子馬は今でも稼働するのかな。


 
黒湯の入り口。木造の学校の廊下みたいですね。黒湯の浴室は混浴ですが、殿方と一緒に入るのはイヤッという淑女のために、奥にはこぢんまりとした婦人専用風呂もあり。脱衣室の壁に貼られていた「ケロリンカプセル」の古い広告に胸キュン。温泉とケロリンは切っても切り離せない関係ですね。ちなみに現在カプセルは販売されていないかわりに、カプレットやチュアブルなら販売されているそうですよ(参考:内外製薬のサイト)。でも私は服用したことないんだけどなぁ…。


 
戸を開けた途端に鼻孔をくすぐる芳醇な油臭に早くも陶酔。この香りを嗅がないと東鳴子に来た気になりません。目の前の勾玉のような形をしている浴槽が黒湯。実物を見るとそんなに黒っぽくないのですが、こうして画像で見ればたしかに黒いですね。
洗い場のシャワーの配管には「適度な温度になるまで一分三十秒程かかります」と記された案内がぶら下がっており、実際にシャワーのコックを開いてみると、きっかり1分30秒後に温かいお湯が出てきました。すごい。


 
黒湯の投入口では白い湯花がユラユラ。黒と白の対比が綺麗ですね。浴槽の内部こそ黒いのですが、お湯自体は鼈甲のような黄色と琥珀色の中間のような色合い。溶き卵のような湯の花が多数浮遊しており、上述のように強い油臭が放たれ、口に含むとインクを口に入れたかのような苦味・えぐみ・痺れが口腔に広がりました。完全掛け流しでやや熱めの湯加減。重曹のおかげで少々ヌルっとした感触が混ざるツルスベ浴感が爽快です。アブラ臭に酔い、重曹の浴感に惚れる・・・黒湯は何度入っても飽きることがありませんね。


 
黒湯と同じ室内にある四角い大きな浴槽はプール風呂。長方形でちょっと高い位置に設けられているその姿は、たしかにプールみたいだ。



このお風呂は夥しいカルシウムの析出が特徴的。


 
プール風呂の湯口まわりは噴泉塔のような鱗状の石灰華が形成され、お湯がこぼれてゆく流路には瘤のような丘ができ、とにかくすごいことになっております。いや、私は以前にもこの光景を見ておりますが、何度見てもその迫力に心が鷲掴みにされ、目が釘付けになってしまいます。



お湯から突き出る手摺りの湯面まわりにも析出がこびりつき、UFOみたいになっていました。
プール風呂に注がれているのは「顕の湯」源泉で黒湯とは全く性質が異なるものであり、見た目は白くぼんやりと霞む貝汁濁りで、溶き卵状の湯の花が無数に舞っています。硫黄臭や薄い油臭とともに石灰を思わせる粉っぽい匂いが湯面から漂い、炭酸的酸味や石膏味が感じられました。ちょっとぬるめの湯加減ですので、黒湯で体が火照ったらこちらに入って体温を落ち着かせるといいのかも。



●ひょうたん風呂

黒湯から一旦帳場へ戻って玄関の前を通り過ぎ、玄関右手へ延びる廊下を進んで旅館棟サイドにあるもう一つのお風呂へ。こちら側は男湯が「ひょうたん風呂」、女湯が「ラムネ風呂」というように分かれており、最奥に位置する「ひょうたん風呂」へ向かうには「ラムネ風呂」の前を通り過ぎて行くことになるわけですが、「ラムネ風呂」の手前にはいつの間にやらユニットタイプの新しい洗面台が置かれており、ドライヤーも用意されていました。


 
薄暗い通路をひたすら進んだ鉄格子の扉の先にあるのが「ひょうたん風呂」。どうして鉄格子なのかしら。悪いことをしたら収容されちゃう部屋に入っていく気分。


 
脱衣室・浴室ともコンパクトな造りで、名前通りひょうたん形をした浴槽は2~3人サイズ。室内には水道ホース以外のにカランが無いため、湯船から桶で直接お湯を汲んで掛け湯することになります。この日入浴してちょっとした違和感を覚えた私・・・あれ?「ひょうたん風呂」ってもうちょっと熱くなかったかな? 以前入浴した時の記憶を探りながら脱衣室内に掲示されている張り紙をよく読んでみたら、震災の影響によって湧出温度が低下していたんですね。低下したといっても40℃はありますから、入浴には全く支障ありません。


 
湯船では40℃前後ですが、湯口から出た直後ですと42℃くらいはあったように私の手は感じ取りました(いい加減な感触ですのであまりあてになりませんが)。お湯は暗い黄色に弱く濁り、油臭を漂わせ、炭酸味や苦味が感じられました。泡付きもしっかりしており、肌を滑るような滑らかな浴感がとっても良好。以前より若干ぬるくなった分、湯上り後の爽快感が増したような気がします。

館内にはこの他にも宿泊者用の家族風呂があり、今回紹介していない源泉が利用されていたりします。こちらのお宿をちゃんと知るためにはやっぱり宿泊しないとダメですね。


【黒湯】
幸の湯
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型) 57.8℃ pH6.7 溶存物質2490.2mg/kg 蒸発残留物1630mg/kg
Na+:518.9mg(85.30mval%),
Cl-:141.1mg(13.76mval%), HS-:2.5mg(0.28mvl%), HCO3-:1430mg(81.02mval%),
H2SiO3:228.1mg, CO2:385.3mg, H2S:3.8mg,
(平成21年10月2日分析)
完全掛け流し

【プール風呂】
顕の湯
ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩泉 74.6℃ pH6.8 溶存物質2252.6mg/kg 蒸発残留物1461mg/kg
Na+:375.7mg(64.76mval%), Mg++:34.1mg(11.14mval%), Ca++:105.8mg(20.93mval%),
Cl-:104.3mg(11.00mval%), SO4--:222.6mg(17.32mval%), HCO3-:1166.9mg(71.53mval%),
H2SiO3:228.1mg, CO2:385.3mg,
(平成21年10月2日分析)
完全掛け流し

【ひょうたん風呂・ラムネ風呂】
玉の湯
ナトリウム-炭酸水素塩泉 49.3℃ pH6.5 溶存物質1191.4mg/kg 蒸発残留物803.4mg/kg
Na+:234.3mg(83.52mval%),
Cl-:37.6mg(8.72mval%), HCO3-:659.2mg(88.82mval%),
H2SiO3:188.4mg, CO2:360.3mg,
(平成21年10月2日分析)
完全掛け流し

陸羽東線・鳴子御殿湯駅より徒歩3分(250m)
宮城県大崎市鳴子温泉鷲ノ巣18
0229-83-3170
ホームページ

日帰り入浴10:00~16:00
500円(鳴子湯めぐりチケット2枚)
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (5)
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鳴子温泉 ホテル亀屋

2013年05月24日 | 宮城県
 
私は鳴子エリアにおいては家族経営の小さなお宿や渋い施設を中心に湯めぐりすることが多いのですが、たまには規模の大きな旅館で入浴するのも面白いだろうと考え、鳴子警察の前に聳える「ホテル亀屋」で立ち寄り入浴してまいりました。玄関ドアの両側で守衛のように侍るでっかい提灯が目を引きます。



玄関の横には足湯も利用可能。


 
フロントで私が湯めぐりチケットを差し出すと、スタッフの方は実に丁寧な対応で入浴を受け入れてくれました。館内には1階と6階に浴室が設けられていますが、日帰りで利用できるのは1階のお風呂です。ラグジュアリ感がある絨毯敷きの広いロビーを歩いて、奥の方にある浴室へと向かいます。


 
鳴子こけしが整列している左側に浴室入口の暖簾が下がっていました。


 
さすがに立派な旅館だけあって脱衣室はとても綺麗で上品、使い勝手も良好です。ドライヤーを含めアメニティー類は鏡と鏡の間に出っ張っている収納棚にまとめられていました。洗面台まわりがゴチャゴチャしないので清潔感がありますね。



落ち着いた雰囲気の浴室に入ると東鳴子温泉でよく出くわす鉱物油のような匂いが充満していました。アブラ臭好きの私は中毒患者のように鼻をクンクン鳴らしながらその匂いを嗅いで悦に入ります。


 
浴室左側の洗い場にはシャワー付き混合水栓が5基本並び、また右側手前には立って使うシャワーが2基用意されていました。静かでシックな趣きの浴室内は清掃がぬかりなく行き届いており、桶や腰掛もきちんと整理整頓されています。素晴らしい!


 
鉄の亀が置かれた湯口からお湯が穏やかに注がれています。浴槽を満たしたお湯は縁から静々とオーバーフローしており、湯船に浸かると立って使うシャワー側に向かって勢いよく溢れ出ていきました。れっきとした放流式の湯使いです。浴槽の周りには小さな孔が無数にあいている軽石のような析出がたくさん現れています。
使用源泉は二見の湯でして、赤みを帯びた黄土色に濁り、その透明度は床がぼんやり霞んで見える程度です。上述のような油臭のほかに弱い金気臭や土気臭が嗅ぎ取り、重曹泉的な清涼感のあるほろ苦みが感じられました。館内表示によれば加水されているそうですが、この日は内湯・露天ともにやや熱めの湯加減となっており、油臭は室内空間である内湯の方が強かった一方で、露天風呂は金気が比較的明確でした。また塩素系薬剤による消毒も行われているようですが、それに関してはあまり感じられませんでした(油臭に隠れてわからなくなっているのか?)。重曹の影響なのかツルツル浴感が心地よく、それでいて肌にしっとりと馴染む感覚も楽しめました。


 
露天は岩風呂で、奥の湯口からポコポコと音を立てながら熱い源泉が投入されており、その流路は黒光りしています。内湯同様にこちらも放流式の湯使いであり、浴槽のお湯は手前側の穴から床へ流れ出て排水されていました。熱めのお湯ですが、外気のおかげで火照った体が適度に冷却されますから、暑い季節には露天で湯あみをすれば爽快ですね。


 
この露天風呂は陸羽東線の線路築堤下に設けられているため、入浴していると目の前を列車が走り去っていきます。ということは列車の車窓からもこちらが丸見えなんですね。脱衣室に列車の通過時刻が掲示されており、私が湯あみした時にはタイミングよく小牛田行の普通列車がやってきました。上の画像で列車が写っているのがわかりますか?
たとえ鳴子であっても大きな規模の旅館ですと肝心のお湯が循環されていたりすることがしばしばありますが、こちらでは風格ある旅館らしい綺麗なお風呂で放流式の二見源泉が堪能できますから、普段はゴージャス系施設を敬遠する私のような一部の温泉ファンでも、それなりに満足できるのではないかと思います。


二見の湯
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 78.2℃ pH6.9 溶存物質1764.1mg/kg 蒸発残留物1334mg/kg 
Na+:294.3mg(68.97mval%), Ca++:61.5mg(16.54mval%),
Cl-:148.1mg(23.52mval%), SO4-:132.2mg(15.48mval%), HCO3-:660.1mg(60.89mval%),
H2SiO3:374.6mg, CO2:191.9mg,
源泉が高温のため加水、衛生管理のため塩素系薬剤を使用

宮城県大崎市鳴子温泉字車湯54-6
0229-83-2211
ホームページ

日帰り入浴11:30~15:00
600円(鳴子湯めぐりチケット3枚)
貴重品は帳場預かり、シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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鳴子温泉 農民の家

2013年05月22日 | 宮城県
※残念ながら廃業しました。

 
前回に引き続き鳴子温泉です。今回は私が心の中で勝手に「鳴子温泉の九龍城」と呼んでいる「農民の家」で立ち寄り入浴したときのことを書き綴らせていただきます。なぜ九龍城なのかは後述しますが、農民の「家」と言っておきながら、家なんてものじゃなくほとんど要塞のような規模を擁する施設であります。



名前からして第三次産業に従事している私のような人間は門前払いを食らってしまいそうですが、職業を問わず誰でも利用可能な施設でして、日帰り入浴の場合は受付で入浴のみの利用であることを申し出て500円を支払います。カウンターでは年寄りばかりの「農民の家」に似つかわしくない若い女性が対応していらっしゃいました。なお初めてここを訪れる方は必ず受付で館内地図をもらいましょう。迷子になって泣きべそをかいても知りません。どういうことかと言えば・・・


 
増設に増設を重ね結果、構内は完全に迷路状態となっており、複雑怪奇に入り組んだ通路は訪問者の方向感覚を完全に狂わせてしまうからです。私は今回で2度目の利用なのですが、方向感覚には自信のあるこの私ですら、館内表示を頼りに目的の浴室へ向かおうとしても何故か違うところを彷徨ってしまい、館内表示と地図を見比べてようやく目的地へ辿り着いたような次第です。彷徨っているときに「農民の家音頭」の歌詞が書かれたプレートを発見。その姿をカメラにおさめていたら、傍で腰を掛けて休憩していたお爺さんが不思議そうな面持ちでこちらをぼんやりと眺めていらっしゃいました。


 
「農民の家」という名前の通りに宮城県の農協系列で運営している施設であり、そもそもは農閑期の湯治利用を主目的としているんでしょうけれども、長期間宿泊しても不自由しないよう、敷地内にはとても大きな売店、食堂、マッサージ室、大衆演劇、そして診療所までありとあらゆる施設が内包されており、売店前の廊下では露天販売のように服や靴まで陳列販売されていました。ばあちゃん向けの地味な服が並べられた一角で物憂そうにタバコをふかしていたおじさんは、きっとこれらを売っている業者の人なんだろうな…。そのおじさんの傍らでは、一昔前のアーケードゲームが耳障りな電子音をピコピコを発しています。無秩序無計画に増設を重ねた建物と古臭くて薄暗い館内、それらを連結するゴチャゴチャと入り組んだ通路、館内で生活できちゃうほど多様な店やサービスなどなど、あらゆるものが一か所に凝縮されてとってもカオスになっているこの状態は、まさにかつて香港に存在した魔境「九龍城」を彷彿させるのです。

館内には4つの浴室がバラバラに位置しており、すべてに入るのならばその都度着替えて長い廊下を歩かねばなりません。しかも混浴のお風呂には女性専用時間が設けられていたり、一部の浴室では昼間でも清掃を行っていたりするので、いっぺんに全てを制覇するのは意外と至難の業だったりします。そこでこの日は「硫黄湯」と「檜の湯」という2室に目的を絞って利用することにしました。


●硫黄湯

フロントから最も遠い位置にある浴室「硫黄湯」は、農民の家を代表するお風呂として位置づけられてるようです。脱衣室こそ男女別ですが浴室はひとつしかないため混浴です。浴室入口まわりは、いかにも湯治施設らしい渋くて装飾性の薄い様相です。脱衣室に設置されている棚はちょっと特徴的でして、棚の各スペースには下部に引き出し形のロッカーが取り付けられています。こうしたタイプの棚って他の施設では見かけませんが、「農民の家」のオリジナルなんでしょうか。


 
浴室は床が水色のタイル貼りで壁面はモルタル壁のペンキ塗り。高い天井の上の方ではステンレスの羽根の大きな換気扇がブンブン回っていました。また高い位置のみならず浴槽に近い低位置にも、硫化水素中毒を防ぐべく換気用のルーバーがあけられています。
男女両サイドへ延びるように横に長い四角形の浴槽も全面タイル貼りで、壁際中央の湯口から落とされたお湯は浴槽を満たした後、浴槽縁の左右にひとつずつある切り欠けから溢れ出てゆきます。湯口の段階でお湯は既に加水されているようでして、私が直接触った感覚ですと大体50℃ほどでした。源泉名は「農民の家1号」で、浴槽のお湯は薄く灰色を帯びながら底が霞んで殆ど見えないほどはっきりと白濁しています(槽内のタイルのために若干青っぽく見えることもありました)。病院の消毒液を思わせる刺激のある硫黄臭が鼻を突き、口に含むと硫黄味や痺れを伴う苦味、硫黄泉的な粉っぽさ、そして薄い塩味が感じられました。スベスベ感とサラサラ感を有するパウダリーな浴感です。湯上り後も体からは硫黄の匂いが放たれていました。



男女両脱衣室の入口付近にはシャワー付き混合水栓が1基ずつ取り付けられており、その金具は一部が硫化して黒く変色しています。
入室して10分程は私が独占しておりましたが、この「硫黄湯」は人気があるのか、程なくしてお爺さんが3人、お婆さんが2人やってきて、自然と室内は賑やかになっていきました。混浴のお風呂は男女が赤の他人だろうとお風呂という独特の空気のおかげで仲睦まじく談笑を楽しめるのが良いところでして、爺さん達は胡座をかいて手ぬぐいをお鉢に巻きながら掛け湯をし、婆さんたちは垂れ乳を放り出してトドになりながら、野良仕事のことや孫のことを機関銃のように途切れること無く喋り続けていました。その光景は富永一朗の漫画の世界です。


●檜の湯

続いて男女別の大浴場「檜の湯」へ。その手前には混浴の人気浴室「炭酸湯」があるのですが、たまたま利用した時間帯は女性専用時間だったため、残念ながら今回はパスすることに。



上述の「硫黄湯」と同じ施設とは思えないほど、ちゃんとした温泉旅館らしい佇まいの「檜の湯」入口付近。
今回はこの「檜の湯」をフューチャーしたくてブログの記事を書き起こしております。



ちなみに「檜の湯」を外(駐車場)から見るとこんな感じでして、一応棟続きながら独立した湯屋であることがわかります。建物の基礎に埋め込まれた竣工碑には平成5年と彫られていましたから、今年でちょうど20周年を迎えるわけですね。


 
湯屋内部の中央には太い大黒柱が一本立ち、それを軸にして八角堂のように八方へ梁が伸びており、そんな室内を半分に区切って男女に分けています。



洗い場にはシャワー付き混合水栓が5基設置されており、各ブースは仕切り板でセパレートされていて使い勝手良好です。


 
浴室に入って驚いたのが浴槽を湛えているお湯の色でした。数年前に訪問した時には黒い湯花が浮かぶ白濁湯だったように記憶しているのですが、この日のお湯は非常に美しいエメラルドグリーンだったのです。湯船の一番奥に据えられた岩の湯口はその流路が硫黄で白くなっており、かなり熱いお湯が流れているのですが、同時にここで加水も行われており、湯船では43~4℃くらいの湯加減になっていました。


 
お湯の翠色があまりに鮮やかなので、当初は入浴剤でも溶かしているのかと疑ったのですが、ためしに湯口のお湯を直接桶に受けてみたら、そのわずかな量のお湯ですら翠色であることは一目瞭然であり、そんなお湯が惜しげもなくザバザバとオーバーフローしているのですから、この色が源泉由来であることに間違いありません。色の美しさといい濃さといい、すぐさまドリフのコントに使えそうです。分析表によれば湧出時は無色透明なんだそうですから、源泉井で湧出して湯口へ引かれてくる間にこの色を帯びてゆくのでしょうね。なお湯中では薄いレモンイエローの湯花が無数に舞っていました。まさか鳴子で岩手県の国見温泉や信州の熊の湯に似た濃い緑色の硫黄泉に出会えるとは思ってもみませんでしたが、尤も、硫黄泉の濁りや色はその時々の光線の具合やお湯のコンディションによって変化しますから、もしかしたら私の訪問した時に偶々条件が重なってエメラルドグリーンになっていただけかもしれませんが…。
お湯からは硫化水素臭と病院の消毒液を思わせる刺激のある臭が嗅ぎ取れ、硫黄の味と爽やかなほろ苦味、石膏的な味、そしてわずかな塩味が感じられました。お湯に体を沈めるとローションの中に浸っているかのようなツルスベ感がとても気持ちよく、ちょっと熱めで長湯できない湯加減であるにもかかわらず、その浴感に後ろ髪をひかれて出ようにも出られなくなってしまうほどでした。良く温まりますが湯上りの爽快感も素晴らしく、熱が程よく体から抜けてゆくようでした。


 
駐車場の片隅にはコンクリの枡で囲まれた源泉が2つあり、中ではボコボコと音を立てて勢いよく温泉が湧出していました。


 
源泉のうち、ひとつは「檜の湯」の方へコンクリの溝が直結していました。その溝や周辺のアスファルト舗装は明らかに最近工事されたようです。あの美しいお湯は「農民の家3号」源泉とのことですが、ということはこの画像の源泉からエメラルドグリーンのお湯が湧いているのか。3号源泉の色が白濁から翠色へ変化した理由と、源泉周辺で最近行われた工事とは何か関係があるのか。そのあたりの詳しいことは全くわかりませんが、とにかくこの日の「檜の湯」のお湯が素晴らしかったので、今回ご紹介させていただきました。


硫黄泉
農民の家1号
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉(硫化水素型) 70.8℃ pH6.4 溶存物質2575.4mg/kg 成分総計2776.5mg/kg 
Na+:496.6mg(67.23mval%), Ca++:151.3mg(23.50mval%),
Cl-:78.6mg(6.88mval%), HS-:6.9mg(0.65mval%), S2O3--:1.0mg(0.06mval%), SO4--:982.0mg(63.41mval%), HCO3-:570.0mg(28.96mval%),
H2SiO3:198.7mg, HBO2:29.3mg, CO2:170.2mg, H2S:30.9mg,
源泉温度が高いため加水

檜の湯
農民の家3号
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩泉 86.1℃ pH7.1 溶存物質2365.3mg/kg 成分総計2498.5mg/kg 
Na+:481.1mg(71.43mval%), Ca++:118.0mg(20.10mval%),
Cl-:156.7mg(14.22mval%), HS-:25.7mg(2.51mval%), S2O3--:1.2mg(0.06mval%), SO4--:694.1mg(46.48mval%), HCO3-:696.0mg(36.70mval%),
H2SiO3:90.3mg, HBO2:48.9mg, CO2:110.0mg, H2S:23.2mg,
源泉温度が高いため加水

陸羽東線・鳴子温泉駅より徒歩6~7分(約500m)
宮城県大崎市鳴子温泉字河原湯5-6
0229-82-2121
ホームページ

日帰り入浴8:00~21:00
500円(鳴子湯めぐりチケット適用外)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (4)
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鳴子温泉 旅館岡崎荘

2013年05月21日 | 宮城県
 
最近私は毎月仙台へ所用で出かけているのですが、ただ単に往復するのでは芸がないので、時間を上手く遣り繰りして、なんとか界隈の温泉へ足を伸ばせるように努力しています。先月(2013年4月)は用件を済ませた翌日を上手い具合にオフにすることができたので、これ幸いと仙台市街中心部の東二番丁通・電力ビル前から高速バスに乗って鳴子へ向かうことにしました。
まず一軒目は昨年(2012年)12月に全面リニューアルオープンした「旅館岡崎荘」です。かつては「ファミリーじすい岡崎荘」という渋い佇まいのお宿でして、ネット上ではまだ前施設を紹介しているサイトやブログの方が圧倒的に多いかと思います。

予め用意していた「鳴子湯めぐりチケット(シール)」を片手にしながら訪い、玄関の前でお仕事していた女将さんにシールで入浴したい旨を申し上げると、明るく気さくな女将さんは仕事の手を休めて快く応対してくださり、お風呂へと案内してくださいました。玄関にはバリアフリー対策として車いす用のスロープが設けられていました。
館内に入るとどこもかしこもピッカピカ。新築の建物の匂いがプンプン。建物でもなんでも、新しいものって良いですね。「建もの探訪」の渡辺篤史だったら「ほっほぉ~」と感嘆しながらあたりを見回して何か特徴ある構造を見つけて褒めるのでしょうけど、愚鈍な私にそんな繊細な才能が無く、玄関左手に浴室の入口があることを確認するだけで精一杯でした。旅館と称する割には帳場周りが妙にすっきりしていますが、リニューアル後も従前のように素泊まりや自炊宿泊の客を受け入れる営業スタイルとしているため、余計なものは不要なのでしょうね。



新築だから当然かもしれませんが、浴室入口の引き戸が指先の力だけでスルッと軽快に開いてくれたので感心してしまいました。どんな部屋でも扉がスムーズに開いたり、あるいは衝撃無くしっかりと閉まったりすると、その室内にいる間はストレスが軽減されるような気分になりますよね。
脱衣室も明るくて清潔感が漲っており、材木の香りが漂っていました。籠が置かれている棚の下には貴重品を預けるロッカーがあり、棚の手前には洗面台代わりのシャンプードレッサーが2台設置されています。


 
浴室は窓に面して四角い浴槽がひとつ据えられ、(男湯は)手前右側にシャワー付き混合水栓が2基取り付けられています。内装としては腰壁部分がベージュのタイル貼りで、それより上は白い防水建材が貼られています。2つある水栓はシャワーヘッドが大きくて使いやすく、またそこから吐出される水流も気持ち良いものでした。なお左側の水栓の水道側には蛇口が増設されており、ホースが繋げられるようになっていました。この日はホースは未接続でしたが、必要に応じてホースを繋げて湯船へ加水したり清掃したりするのでしょうね。


 
正方形に近い形状の浴槽は約4人サイズ。縁には石材が、内部にはタイルがそれぞれも用いられており、湯面近くの壁面には硫化水素中毒を防止するための丸いルーバーが2つあけられています。
浴槽の角っこには小さな石板を組んでつくられた湯口があり、そこから熱いお湯がチョロチョロと注がれていました。こちらでは下地獄源泉を複数ブレンドしたお湯を引いていますが、温度が激熱のために温度調整をする目的で投入量を絞っているのかと推測されます。なお館内表示によれば加水しているとのことでしたが、訪問時のお湯には加水されているような様子が見受けられなかったので、加水を止めていたか或いは必要最低限にとどめていたのではないかと思われます。湯使いは完全掛け流し(場合によって加水あり)でして、浴槽を満たしたお湯は浴槽縁の切り欠けから洗い場へ溢れ出ていました。



こちらのお宿には小さいながらもれっきとした露天風呂があるんですから驚きです。といっても直ぐ目の前は駐車場であり、また周囲には他の宿や民家が建ち並んでいるため、さすがにあけっぴろげな状態にすることはできず、三方が大和塀によって囲まれています。大和塀は板を交互に張っているもので、目隠しと通気性を兼ね備えた目隠し塀として旅館などでは多用されますね。塀からは木材の匂いがプンプン香っていました。


 
浴槽はコンクリ造の2人サイズでこぢんまりしており、若干の圧迫感は否めませんが、外気に触れてクールダウンをする空間としては貴重だろうと思います。もちろん内湯同様にこちらも放流式の湯使いでして、塩ビ管から源泉がチョロチョロと落とされており、そのお湯の流路は黄色く染まっていました。なお12月から3月まで(つまり冬季)は露天風呂の使用が中止されるそうです。

さて肝心のお湯についてですが、下地獄源泉など計11の源泉をブレンドしたものが引かれており、内湯・露天ともほぼ無色透明ながら僅かに黄色を帯びているようにも見えました。湯中には薄い黄色の溶き卵のような湯の花がちらほら舞っています。浴室にはいわゆる硫黄の匂い(具体的にはタマゴ臭・砂消しゴム臭・噴気孔的刺激臭をミックスさせたような匂い)が漂い、お湯を口に含んでみるといかにも硫黄らしい味とともにホップのような清涼感を伴う苦味が感じられました。硫黄のお湯ですが酸性に傾いておらず中性ど真ん中ですので、入浴しても酸性泉のような体への負担を感じること無く入れるのがいいところ。掛け湯をするだけでもローションを浴びているかのような潤い感・しっとり感が肌を覆い、入浴すると全身でツルスベ感が楽しめました。
源泉温度の関係で投入量を絞らざるを得ないようですが、それゆえに混雑時にはお湯が鈍ったりしないかちょっと心配でもあります(そんな時には源泉投入量を増やすと同時に加水もするのかな?)。ま、そんなことはともかく、鳴子温泉では今のところ最も新しい施設であるかと思われますので、新しいもの好きの皆さんは是非足を運ばれてはいかがでしょうか。


下地獄1・2・5・6・9・12・13・14号泉、東北大学鳴子分院1・2・4号泉
含硫黄-ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 85.6℃ pH7.6 溶存物質1169.7mg/kg 蒸発残留物1096mg/kg 
Na+:301.mg(91.88mval%), Ca++:15.3mg(5.32mval%),
Cl-:160.7mg(31.86mval%), HS-:4.0mg(0.84mval%), S2O3--:2.7mg(0.35mval%), SO4--:393.6mg(57.67mval%), HCO3-:76.4mg(8.79mval%),
H2SiO3:163.7mg, HBO2:37.7mg, CO2:70.3mg, H2S:1.4mg,

JR陸羽東線・鳴子温泉駅より徒歩4~5分(350m)
宮城県大崎市鳴子温泉字新屋敷51  地図
0229-83-4050
ホームページ

日帰り入浴時間:18時まで(開始時間不明)
400円(湯めぐりチケット2枚)
ロッカー・シャンプー類あり、ドライヤー見当たらず

私の好み:★★★
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新府桃源郷と京王の切符あれこれ(100周年記念入場券など)

2013年05月20日 | 旅行記
※今回の記事に温泉は登場しませんのであしからず。また拙ブログでは毎度のことですが、今回取り上げる内容は1ヶ月ほど前の、とっくに旬を過ぎたものですのでご了承下さい。

●京王の補充券で新府桃源郷の花々を鑑賞しに行く
 
(画像をクリックすると拡大)(一部モザイク処理しています)
晴天に恵まれた今年(2013年)4月中旬の某日、春を全身で体感したくなり、安物の一眼カメラを小脇に抱えて、電車に乗って山梨県韮崎市の新府桃源郷へ出かけることにしました。新府桃源郷とは韮崎市新府の丘に広がる桃畑のことでして、毎年4月になると60haにも及ぶ果樹園で桃が一斉に花を開き、辺り一面が桃の花で覆われてまさに桃源郷という名前にふさわしい美しい景色が広がるのであります。俗物化してしまった桜よりマイナーで人出も少ない桃の方が自分の性分に合うので、春の花見は数年おきに新府へ行っています。

新府桃源郷の最寄り駅は中央線の新府駅ですので、訪問にあたっては当日に新府駅までの切符を購入したのですが、単に片道きっぷを購入するのでは芸がないので、ちょっと或る工夫を施してみました。拙ブログでは何度か記事にしていますが、私は昔ながらの紙の切符、とりわけ手書きの切符が大好きです。切符ならではのしっかりとした紙の質感を指先で感じながら、地名や必要事項が記入された券面をまじまじと見つめていると、現地に向かうまでの旅情がより一層高まるんです。もっとも、こんな感情に共感してくださる方が果たしてどれだけいらっしゃるかわかりませんが、今回はそんな私の奇特な嗜好を満足させる他、途中の甲府駅で途中下車しなきゃいけない用事があったため、その工夫を実践すべく京王線の某駅へ出向いて私の要望を満たす切符を発行してもらうことにしました。

通常、調布→高尾→新府という経路の片道乗車券を購入する場合は…
・京王 調布→高尾:310円 (営業キロ27.5km)
・JR 高尾→新府:1,620円 (同98.1km)
と会社ごとに別々に購入して、運賃は合計で1,930円となります。各社とも営業キロが100km以下なので乗車券の有効期限は当日限りとなり途中下車できません。でもこの日、私は甲府駅で途中下車をする必要があります。もし上記のように京王とJRを別々に購入し、更にJR券を甲府で買い直すのならば、
・京王 調布→高尾:310円
・JR 高尾→甲府:1,450円、甲府→新府:320円
となり、3枚合計で2,080円ですから、JR区間を通しで購入するより150円高くなってしまいます。そこで目をつけたのが営業キロ。調布・高尾間の27.5kmと高尾・新府間の98.1kmをたせば100kmを超えますから、途中下車が可能になるわけです。つまり調布から新府まで通しで買っちゃえば、運賃が高くならずに途中下車もできちゃうわけですね。調布駅を含む京王線各駅(※1)の場合、高尾で接続する中央線は小淵沢までが連絡輸送(連絡きっぷ取扱)の範囲内ですから、新府までの切符は問題なく購入できます(※2)。ということで、京王線某駅の窓口に赴き「途中下車したいので・・・」と申し伝えた上で、新府までの乗車券を購入致しました。京王では余程のことがない限り補充券での発券をしないそうですが、私が今回購入した券は駅の券売機や端末では発行できないため、手書きの切符(つまり補充券)での発券となりました。
(※1)本線系統でも新宿~代田橋間は適用除外なんだそうです。
(※2)新府の一つ手前である韮崎ですと、JRの東京近郊区間のエリア内ですから、100kmを超えていても途中下車できません。このため京王から通しで買う意味が無くなり、窓口で「JR線の切符はJRの駅で買って下さい」と通しの切符の発券を断られちゃう可能性が高くなります。

 
京王線の特急と中央線の普通列車を乗り継ぎ、途中の甲府で所用を済ませてから新府駅までやってきました。勾配の途中にホームが設けられている無人駅です。



駅から桃源郷までは歩いて10分くらいですが、駅ホームの左右両側には既に桃や菜の花が咲いており、そんな花々の中をかき分けるように、八ヶ岳を背景にしながら普通列車が駅へ滑りこんでくる風景を捉えることができました。


 
駅から10分も歩かないうちに新府桃源郷に到着です。花も山々も青空に映えており、桃もちょうど満開を迎えたところでした。


 
辺り一面に桃の花が広がり、その彼方に八ヶ岳が聳えています。蒼・桃・緑のトリコロールが目に鮮やかですね。


 
桃の花はただ人に見せるために咲いているわけじゃない。ちゃんと美味しい水蜜桃を実らせることが、本来の役割であります。呑気に花見をしている私のような観光客を尻目に、農家の方はひたすら受粉作業に勤しんでいました。長い時間にわたって腕を上げている作業は相当疲れちゃうでしょうね。ごくろうさまです。そんな農家の方のお陰で私たちは甘くてジューシーな桃を頬張ることができるのです。



八ヶ岳と逆の方向に聳えるのは、いわずもがな我らが日本一の山。


 
  
西を向けば南アルプスの山々。あぁ、なんて綺麗なんでしょう。
新府桃源郷の美しさは、畑を埋め尽くす桃の花もさることながら、その周囲に聳える碧々とした山岳の対比があるからこそ、余計に鮮やかに映えるんでしょうね。
この日は早く起床して自分でおにぎりを作ってきましたので、この南アルプスを目の前に見上げるところで腰を下ろし、春の麗らかな陽気に包まれながら、おにぎりを頬張ったのですが、何の工夫もないただの鮭やタラコのおにぎりでさえ、ここで食ったら格別の味でした。もうほとんど山下清の心境です。
もうとっくに花の時期は過ぎちゃいましたが、毎年4月にはこの光景が見られますので、もしまだ行かれたことが無い方は、来年以降ぜひどうぞ。


●京王の電車事業100周年記念入場券
 
(画像をクリックすると拡大)
京王のネタをもういっちょ。
南大沢(八王子市)のアウトレットで春夏物の服を買った2013年4月14日のこと。京王相模原線・南大沢駅の構内に貼られていた某ポスターを偶然目にし、そこで告知されていた入場券を一枚買ってしまったことが、私の蒐集魂にボヤのような小さな火をつけてしまったのでした。そのポスターが伝えていたものとは「京王の電車事業100周年記念入場券」です。文字通り、京王電鉄の電車事業開始100周年を記念する硬券の入場券でして、100周年を迎える4月15日の前々日(土曜日)から京王線全69駅で1000枚限定で発売されました。各駅とも自駅の券しか発売しないため、もし全てをコンプリートしたけりゃ1000枚が売り切れる前に69駅を全部まわらなきゃいけないという、かなりドMなマニア向きの企画でした。

さて肝心の入場券の券面に関して、京王側の説明によれば、A型硬券・横に引かれている赤い太線・旧字体など、かつて発行されていた券を模してレトロ調にデザインしたんだそうですが…
・日付は予め25.4.15とダッチング風に印刷されているため、いつ購入しても日付は同じ(しかも各駅とも全く同じ印影)
・たしかに「驛」や「圓」は旧字体だが、他は常用漢字。
・硬券は活版印刷だからこそ味があるのだが、今回の券は明らかにオフセット印刷。
・駅名以外は各駅とも全く同じで没個性。
・いかにも記念券な趣きがプンプン
などなど、正直なところ面白みに欠けるものでした(あくまで個人的な感想ですよ)。

私がまずはじめに買ったのは京王多摩川駅です。京王は今でこそ混雑の激しい通勤路線ですが、鉄道事業をはじめた当時の沿線は純然たる農村であり、人口があまりに少ない上にサラリーマンや通勤という概念すら存在せず、旅客事業じゃちっとも儲からなかったため、自前で建設した府中の火力発電所で生み出した電気を多摩地域の甲州街道エリアで売ったり、都心部の建設需要に応えるため多摩川の砂利を都電(当時は東京市電)に乗り入れながら運搬したりして、何とか経営を細々と成り立たせておりました。後者の砂利運搬に関しては、現在でも京王線の軌間(線路の幅)が都電と同じであること(馬車軌間)にその名残を見出すことができますが、砂利を採掘して車両に積載していた駅が京王多摩川(当時は多摩川原駅)でありました。京王の歴史を記念する入場券なのだから、その歴史に大きな役割を果たした駅で購入することに意義があるんじゃないかと考えて、敢えてこの駅で買い始めたわけです。当初はこの一駅だけでやめるつもりでしたが、その隣の調布は既に売り切れていたものの、歩いて行ける布田駅ではまだ数百単位で残っていたためにここでも買ってしまい、2枚買ったら3枚目・4枚目も欲しくなって西調布や飛田給で更に購入・・・なんていう感じで調布周辺の数駅と盲腸路線(競馬場線・動物園線)、そして調布以外の相模原線各駅の計17駅で購入してしまいました。
しかし、数駅まわって購入した券を見つめているうちに「黒字経営の京王の売上に貢献してどうするの?」「没個性の入場券を集めて意味があるの?」といった疑問がふつふつと湧き起こり、券が集まってゆくに従いその疑問は確信へと変わっていったため、17駅目の橋本駅に達した段階でプツリと蒐集意欲が失せてしまいました。ネット上では全駅コンプした方もいらっしゃるようですが、そんな地道な努力ができる方を、飽きっぽい性格の私は心底から尊敬します。
ちなみにこの入場券は新宿や調布など主要駅では発売初日(4月14日)に完売したそうですが、その他の駅では翌日以降も販売が続けられ、一部のマイナーな駅では発売一週間後も売れ残っていたそうです。そもそも大きなターミナル駅も各駅しか停まらない小さな駅も一律1000枚なのですから、そのようなアンバランスな事態となるのは自明ですよね。ま、今回の券は趣味として蒐集するというよりも、自分の最寄駅で小さな想い出がてらに一枚買うのが良いのかもしれません。なお、私が通勤で毎日乗っている井の頭線の駅でも購入できる機会はありましたが、井の頭線はもともと小田急ですから、今回の記念の意趣にそぐわないと思い、敢えて購入していません。

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