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わたしのレコード棚ーブルース87『DOCUMENT-5599 Field Recordings - Vol.9』

2020年04月10日 | わたしのレコード棚
 オーストリアのDOCUMENTレーベルは、民俗音楽としてのブルースを多く出してくれている。田舎のブルースが好きな、わたしの様な者にとっては、大変ありがたいレーベルだ。

 今回、取り上げるCD5599は、アメリカで戦前にフィールドレコーディングされたシリーズの1枚。1924年から1939年にかけて、ジョージア・南北キャロライナ・ヴァージニア・ケンタッキーなど東部で録音されたものが編集されている。かなりマニアックな音楽で、アメリカのフォークソングに興味の無い人には聞きづらいかもしれない。しかし、DOCUMENTのフィールドレコーディング・シリーズの中では、最も後のブルースマン達への影響が感じられる貴重な録音と感じる。



 東部の、いわゆる「イーストコースト・ブルース」では、ブラインド・ボーイ・フラー、ブラインド・ウィーリー・マクテル、ゲーリー・デイビス、などが代表的なミュージシャンだ。そして、わたしが影響を受けたブルースマンの一人であるブラウニー・マギーはテネシー州出身だが、ノースキャロライナ出身のハーピストのサニー・テリーとコンビを組み広く活躍。そのスタイルは、イーストコーストのものだった。それらの人達は録音する機会に恵まれた、言わば幸運なミュージシャン達だった。それらの背後に、隠れるように多くの優れたミュージシャン達が存在していた事を、このCDは教えてくれる。特に、名前の記録すらないミュージシャンが「UNKNOWN」と表記され、全体の半数にあたる15曲入っている。そのどれもが非常に安定したリズムとヴォーカルを持っており、今から90年以上前に、こんなにも洒脱な音遣いをしていたのか、と驚かされる。すでに、モダンジャズに近いようなヴォイシングすら聞き取れ、当時の無名のブルースマンの実力に驚かされるばかりだ。後の天才的と思えるようなミュージシャン達も、その背後に多くの無名な先人たちの工夫と努力があったのだった。

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