蓼科浪漫倶楽部

八ヶ岳の麓に広がる蓼科高原に、熱き思いあふれる浪漫知素人たちが集い、畑を耕し、自然と遊び、人生を謳歌する物語です。

コンクリート  (bon)

2013-01-27 | 日々雑感、散策、旅行

 何となく暗い、冷徹な響きすら感じるこの言葉・・物質。 
しかし、ちょっと見渡しただけでも、道路、橋、トンネル、ビル、住居・・この社会になくてはならない存在なのですね。

 そんな、身近な社会のインフラを構成している基盤、コンクリートが、やや軽視されてきた? というより、
“コンクリートから人へ”などのキャッチフレーズで、さらに遠ざけられてしまった感がある。 

寿命はそれほど長くないという。 やがて、笹子トンネルの事故が発生した。 
この直接の原因は、コンクリートではなかったが、いわゆるメンテナンス(保守、補修)がおろそかに
されてきたツケが来たのだ。 笹子トンネルは、いつも蓼科の畑への道中で利用していたのです。

  中央高速道 上り車線 小淵沢を過ぎたあたりから・・



 先日、H氏から届けられたネットジャーナルを引用します。

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文藝春秋 2013年02月号 p376-382

     「トンネル、橋……
          危ないインフラを放置するな」   藤井 聡(京都大学大学院教授)

【要旨】2012年12月に起きた、山梨県の中央自動車道にある笹子トンネルの崩落事故は、
9人の犠牲者を出すとともに師走の交通・流通に混乱を招いた。
原因は「老朽化」によるボルトの欠落とみられ、多くの国民にインフラの点検・補修の必要性を感じさせることとなった。
本記事は、笹子トンネルだけではない、トンネルや橋などの老朽化の現状を指摘し、過去に同様の問題を
乗り越えたアメリカの例を紹介しながら、国による対策の必要性を訴えている。
筆者は公共政策を専門とする京都大学大学院教授で、第2次安倍内閣の内閣官房参与に登用されている。
著書に『列島強靱化論』(文藝春秋、2011年)がある。
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 我々が暮らしている近代文明は、「コンクリート文明」である。ビルも橋も堤防などと、
インフラは皆、コンクリートで作られている。コンクリートは堅くて頑丈だ。
しかし、その耐久性は、石や木や土に比べれば、著しく劣る。コンクリートはおおよそ50年から60年で寿命が来てしまう。
そして我が国に大量のコンクリートの橋や水門、堤防などが作られたのは、1960年頃の
高度成長期の時代であった。
そこから50年後といえば、「2010年」だ。このことは、今、日本中のインフラが、一斉に寿命を迎え、
老朽化しつつあることを意味している。我が国は、「人間の高齢化社会」だけではなく、
「インフラの高齢化社会」を迎えているのである。

 我が国よりもおおよそ30年ほど早い1930年頃に、様々なインフラをコンクリートで作り始めたアメリカでは、
1980年頃に、全国のインフラの老朽化の問題に直面し、貴重な人命が失われている。
その詳細は、『荒廃するアメリカ』という書籍の中で詳しく述べられているが、例えば、
1983年のコネチカット州にあるマイアナス橋が崩落している。この橋は、一日の交通量が約9万台という
地域の大動脈であり、そのため3名の人命の損失とともに、3ヵ月にもわたるアメリカ北東部の
大規模な経済混乱がもたらされたのであった。

 こうした混乱が起こった背景には、単にインフラが高齢化してしまったという問題に加えて、
当時のアメリカ政府が、「道路予算」そのものを削減してしまったという事情があった。

 そもそも、インフラのメンテナンスの費用は、寿命がやってくるまでは、さして大きな金額とはならない。
しかし、建設後50年程度が経過して高齢化すれば、抜本的な点検、維持、改修費用が必要となってくる。
ところが、当時のアメリカ政府は、この「自明の理」を失念していたのである。
それ故、新規の道路整備量が減少してくるにしたがって、道路予算を年々削っていっ
たのであった。
そのため1980年前後には点検や維持に十分な予算が付けられなくなってしまった。
この一点が、アメリカの1980年前後における、相次ぐインフラの崩落事故につながっていったのだ。

 複数のインフラ崩落事故の苦い経験を経て、アメリカ国家はインフラのメンテナンスに大規模財源を確保するべく、
抜本的な対策を図っていった。まず第一に、マイアナス橋の大崩落事故が起こった1982年に、一気に、
ガソリン税を「2倍」以上にまで引き上げた。そしてその後も値上げを繰り返し、その増加額の大きな部分を、
メンテナンス費用に割り振るような予算配分とした。その結果、80年前後に相次いで起こった橋梁の崩落事故は
激減することとなったのである。

 改めて指摘するまでもなく、以上に述べた「荒廃するアメリカ」の苦悩は、そっくりそのまま、
これから我々がこの日本で直面する苦悩そのものなのである。そうである以上、我々は今、
アメリカのように抜本的に財源を確保し、徹底的にインフラの老朽化対策を図らなければならない時代に
生きていると言わざるを得ない。ところが我が国では、たった10年余り以前には約15兆円

インフラ関係費であったものが、今やもう既に6兆円程度という水準にまで削減されてきたのである。

 ある試算によれば、今後50年間のインフラの維持・改修費用は、実に 337兆円にも及ぶとも、あるいは、
400兆円を上回るとも言われている。つまり、平均で1年あたり7~8兆円程度の予算が、インフラの
維持・補修「だけ」に必要であるが、6兆円程度では新設はおろか、十分なインフラの維持・改修すら
不可能となっているのである。
その背景には、民主党政権が平成21年の総選挙で掲げた「コンクリートから人へ」というスローガンに象徴される、
インフラ関係費を大幅に削減しようとする大方針があった。

 そんな「荒廃を放置する日本」でもとりわけ危ないのは、やはり「橋」である。そもそも「橋」という構造物は、
重力に逆らってつくられているものであるから、老朽化が進行すれば、落ちてしまう。
日本国内では大規模な事故は起こっていないものの、激しく老朽化している大型の橋は、いくつも知られている。
 例えば、三重県の桑名市にある「伊勢大橋」は、2メートルもの地盤沈下が発生している橋桁もあり、
橋梁自体が大きく湾曲している。国土交通省は、この橋梁の大改修をかねてから計画してきたのだが、
民主党政権の方針のために差し止められ、そのまま放置されている。

 この問題を回避するのは、実に簡単だ。内容を取り立てて査定せずに、とにかく一面的にインフラ関係費を削減し、
インフラ事業を「凍結」してしまうような不合理な政策方針を解除しさえすれば良いのである。

 報道によれば、笹子トンネルでは、ハンマーで叩いて音を聞きながら異常を察知する「打音検査」が
2000年を最後に実施されていなかったという。打音検査さえ実施されていれば、今回の事故は回避できたのでは
ないかと報じられている。では、なぜ実施されなかったのだろうか。その原因のひとつと考えられるのは、
笹子トンネルを管理する NEXCO中日本が「道路公団」から分割民営化してできたときに、維持・管理費用を
3割削減したという事実である。
 例えば国から打音検査をすべしという強い指導があったのなら、 NEXCO中日本もそのための予算を確保し、
適正な検査を行っていたということも考えられよう。しかし、そうした強い指導が行われた形跡も見られない。

 こうした「人の命」に関わる事業については、何もかもを民間の裁量に任せるのではなく、
政府による安全に関する適切な「規制」が欠かせない。そして、それを実行させるための十分な予算措置も当然、必要となる。

 コンクリート文明に生きる我々にとって、インフラの老朽化の問題は「文明社会の荒廃」そのものを意味している。
したがって、インフラ老朽化問題を放置するという態度は、文明社会の荒廃そのものを放置することに他ならない。

 折しも我が国には、デフレ脱却と経済成長を目指した積極的な財政、金融、インフラ政策のポリシーミックスである
「アベノミクス」を掲げる安倍新内閣が誕生している。「アベノミクス」における大規模な政府支出項目に、
復興、防災に加えて「文明の荒廃を乗り越えるための徹底的なインフラ老朽化対策」を掲げるべきである。

 とりわけ、平成24年度の10兆円規模ともされる補正予算においては、景気対策として即効性ある予算の執行が
求められている。そんな時、用地買収等が必要とされる大型のインフラ「整備」は必ずしも実務的には容易ではなかろう。
しかし、老朽化対策ならば、短期的な点検や附属部品の交換なども含め、柔軟、かつ、実質的に効果的な予算の執行が
可能であろう。

コメント: インフラの多くが老朽化しており、実際に死亡事故も起きている。点検と補修が必要であり、
そのための予算を確保し執行する。至極当然のことであり、ほとんどの人は納得するだろう。
しかし、公共事業においては、利権や利益誘導に関し国民のあいだに根強い警戒感があるのも事実だ。
整備が必要なところはどこか、どれくらいのコストが発生し、そのための予算はどの程度必要か、
といったことを透明度の高い公正なデータで示す必要があるだろう。
人命にも関わることだけに、客観的で冷静な議論を望みたい。

Copyright:株式会社情報工場













三橋貴明 
コメント
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