昨日、元プロ野球選手のその後の人生を追った番組をやっていました。その中の一人、高橋智選手が、オリックス・ヤクルトで活躍していた姿は、私も覚えています。一流とまでは言えないかもしれませんが、十分な実績を残した選手と言ってもいいでしょう。
引退後は、コーチなど野球に関する仕事に就けるだろうと本人は思っていたそうで、貯金もまったくないまま引退したものの、現実は厳しく、月に数回のTV解説の仕事では家族を養うことが出来ず、接骨院のバイト、精密機械工場での正社員を経て、現在は景気に左右されないエレベーターの保守管理の会社に勤めているそうです。
別にエレベーターの保守管理の仕事がダメだというわけではありませんが、高橋智という元プロ野球選手の価値を十分に引き出す仕事かといえば、疑問が残ります。
日本で最難関の東京大学に入学するエリートは、毎年3,000人くらいです。一方、プロ野球に新入団する選手は、毎年100人に届きません。プロ野球選手になるというのは、それくらいすごいことなのです。選手たちが、辞めったって何とかなるだろうと思ったとしても無理はありません。
しかし、現実には、同じくらいの選手がプロ野球から辞めていくわけで、多くの選手がわずか数年でプロ野球を去っていきます。そして、その選手たちの多くは、社会人としての教育も受けていないまま、野球とはまったく関係のない世界に放り出されるのです。高橋選手のようにプロの世界で活躍した選手も、派手な生活で蓄えがない選手も珍しくないそうですし、その後活躍する前提で、入団時の契約金を使い果たしてしまう選手もいるのでしょう。年にわずか100人にも満たない人しか入れない世界に足を踏み入れた人のその後としては、あまりに寂しすぎます。
その大きな原因は、プロ野球とアマチュア野球の断絶から、事実上、アマ球界への道が閉ざされていたことです。紳士協定破りの選手獲得から、アマ側が態度を硬化させ交流が断絶しました。元プロ選手のアマチュア指導者への道が開かれたのは1984年ですが、教諭歴10年という条件が課され、実質的にはプロ野球選手になる以上に狭き門でした。
1994年に5年、1997年に2年と短縮され、そして今回ようやく教諭歴がはずされ、座学での講習でアマチュア監督の道が開かれることになりました。元プロ選手だからといって、必ず優秀な指導者になれるという保証はもちろんありませんが、年に100人足らずの野球エリートだった彼らが、野球に携われないというのは、あまりに理不尽です。今回の決定は、ひとまず歓迎すべきことですね。
しかし、それだけでは十分ではないでしょう。プロ野球に入った選手たちに対する社会人教育や、プロを引退してから指導者になる時の指導者教育の体系をしっかり構築することが必要でしょうね。昨日の番組を見ていて思いましたが、入団するまではちやほやするものの、選手生活よりもはるかに長いその後の人生についてのケアがなさすぎです。指導者育成などの面で野球よりはるかに進んでいるサッカーでも、時折、元選手のトラブルが報道されます。折角の価値、才能を社会として生かす方法ももっと真剣に考えた方がいいですね。
そして、高校・大学の指導者などに限定せずに、少年野球なども巻き込んでいけば、元プロ野球選手が活躍する場はもっと広がります。そして、出身チームのユニフォームを着て指導すれば、チームの宣伝になりますし、何よりも少年たちへの影響ははかり知れないですよね。東大出身者は、ちょっと周囲を探せば見つかると思いますが、元プロ野球選手は、なかなか見つかりません。それだけ価値のある資源を社会として生かした方がいいですね。