中学校での生徒の失踪・殺人事件を背景に、子どもの頃から他人には見えない友人ヒカルと過ごしてきた少年トオルの揺れ動く心と、少年の心と少女の体を持つ性同一性障害のシラトへの想いを描いた小説。
失踪・殺人事件から幽霊の登場、異次元と思われる地下の中学の登場と、オカルトっぽい舞台が用意されていて、ミステリー風に展開しますが、ミステリーとして読むと、最後まで解決も謎解きもなく歯がゆい思いで終わります。最後まで読んでもどこまでが客観的事実でどこからがトオルの空想なのか判然としませんし。
むしろこの作品のメインテーマは、思春期の揺れ動く心、自分の中に潜む悪意・破壊衝動や募る恋心と相手の気持ちを読み切れぬ(思いやる余裕のない)焦りにあると思います。すべてが結局は自分の頭の中の悪意の問題で、希望を持ち続ければいい、その希望の源は愛ということに収斂していく感じなのは、いろいろ難しく問題と舞台を設定した割りにはちょっとあっけない気がしますけどね。その愛も、性同一性障害でひねってはありますが、キスして抱き合うことでエネルギーをもらえるって位置づけは、予想外に純情。
でも、中学生時代の揺れる思いや不器用な恋愛感情を割りと上品に描いていて、私たちの世代にはちょっと甘酸っぱくもほほえましいノスタルジーに浸れる作品ですね。

辻仁成 文藝春秋 2007年4月15日発行
失踪・殺人事件から幽霊の登場、異次元と思われる地下の中学の登場と、オカルトっぽい舞台が用意されていて、ミステリー風に展開しますが、ミステリーとして読むと、最後まで解決も謎解きもなく歯がゆい思いで終わります。最後まで読んでもどこまでが客観的事実でどこからがトオルの空想なのか判然としませんし。
むしろこの作品のメインテーマは、思春期の揺れ動く心、自分の中に潜む悪意・破壊衝動や募る恋心と相手の気持ちを読み切れぬ(思いやる余裕のない)焦りにあると思います。すべてが結局は自分の頭の中の悪意の問題で、希望を持ち続ければいい、その希望の源は愛ということに収斂していく感じなのは、いろいろ難しく問題と舞台を設定した割りにはちょっとあっけない気がしますけどね。その愛も、性同一性障害でひねってはありますが、キスして抱き合うことでエネルギーをもらえるって位置づけは、予想外に純情。
でも、中学生時代の揺れる思いや不器用な恋愛感情を割りと上品に描いていて、私たちの世代にはちょっと甘酸っぱくもほほえましいノスタルジーに浸れる作品ですね。

辻仁成 文藝春秋 2007年4月15日発行