しゃべるモトラド(二輪車)「エルメス」を駆って旅を続ける少年/少女キノの旅を描いた物語。アニメ化もされたシリーズのスタートの短編連作集6話分。
キノはこの本(1巻)の第5話で入れ替わっていて、最初のキノだった少年が殺され、少年キノに助けられた少女が次のキノになっています。他のお話のキノがどっちのキノなのかは、読み切り連作で前後関係が示されていないのではっきりはしませんが。
いずれのお話もキノが変な国に行ってその国の人々と話し、あるいは戦い、去っていくという構成です。「変な国」を仕立ててパロディ化し、人の性を嗤い哀しむ手法は、私たちの年代の読者には「ガリヴァー旅行記」を、あるいは Le Petit Prince (日本語題はなぜか「星の王子様」)を想起させます。この作品がターゲットにする年代(中高生でしょうね)には単にRPGの感覚でしょうけど。
第5話まではシニカルでも、まあわかりますが、第6話で虐殺される一方のタタタ人がキノにも殺されて悪者扱いになるエンディングには、作者が何を言いたかったのか違和感ばかりが残りました。
一挙にHP掲載してから単行本化したという解説のわりには、毎回冒頭で「モトラド」などの説明が繰り返されるのは、ちょっと閉口しましたし。
時雨沢恵一 電撃文庫 2000年7月25日発行
追伸:2007年6月15日午後9時過ぎ
6月15日に「ちゃんと小説よんでんの? 間違えだらけなんだけど よくこんなのかけたね。 こっちが閉口だ(上手 」というコメント(途中で切れてるんでしょうね)をいただきましたので追伸。
こういう具体的事実の指摘なしの批判って一番めんどうなんですが、たぶん言いたいのは第5話以外ではキノが女だとほのめかしている、キノが1つの国に3日と決めているのは昔会った旅人がそう言ってたからというのだから第5話の後と示されているというようなことなんでしょう。それについては私はそうは読みませんでした。むしろ作者はできるだけそのあたりをぼかしてどちらとも読めるように書いていると読みました。プロローグの「少年のような、そして少し高い声」(11頁)は女だけどとも読めますが、年のわりに幼いとも読めます。第1話のエルメスの問いかけで男の人と「ラブラブだったのかい?」「あの男の人と結婚するんじゃないかとハラハラだったよ」(44頁)は冗談ですから、少年にそう言ってもアリだと思います。第4話でキノが老人に「嬢ちゃん」と呼ばれたのに「嬢ちゃん」は照れくさいのでやめてくださいねと答えている(126頁)のもどちらとも読めます。同じく第4話でキノから「知らない男の人にほいほいついていかないように言われていますしね」と言われたシズが犬の陸と話して驚いた顔をして納得する(164頁)ところはかなりキノが女であることを示唆していますが、そうでない読み方もできます。第5話以外でキノの性別を明言しているのは第6話で「キノと呼ばれた少女」(228頁)とあるところだけだと思います。そしてキノは1つの国は3日と決めているということが何度か出てきて、それを第2話でエルメスに「昔会った旅人が言ってた・・・それくらいがちょうどいいんだってさ」と説明しています(58頁)。この昔会った旅人が第5話の男のキノであれば、第1話、第2話、少しはっきりしないけど第4話も、第5話の後と言えることになります。そして第5話の男のキノは「1つの国は3日だけってボクは決めているんだ」と言っています(186頁)。しかし、第5話の男のキノのこの台詞はモトラドのエルメスがすっかり治されてからです(183~184、186頁参照)。そうすると少女のキノと旅をしているエルメス(このエルメスも2代目)は男のキノのこの台詞を聞いているわけですから、第2話で少女のキノが2代目のエルメスに語りかけているという前提なら、「昔会った旅人が言ってた」ではなくて「昔のキノが言ってた」となるはずです。またそのキノの言葉に対するエルメスの反応も「そんなもんかね」(58頁)ではなく「そうだったね」というようなものになるはずです。その意味では、第1話、第2話のキノが以前から別の旅人の心情に共鳴して1つの国は3日までと決めていてそのキノが第5話で「大人の国」に訪れたと読むことも可能です。私は、むしろ、この第1巻を読む限りでは、最初のうちは作者はキノの性別をぼかして(第4話あたりから少女の方向にハンドルを切り)第5話で男→女の入れ替わりをはっきりさせた、その後の第6話では少女と明言したということじゃないかと思います。
第6話のタタタ人については、もちろん、「平和の国」で一方的に虐殺されてきたタタタ人がキノに復讐すると言ってキノに襲いかかったからキノが殺したわけです(229~231頁)。私が言っているのはキノの行為の問題ではなく、作者がなぜ敢えて虐殺されているタタタ人に八つ当たり的にキノを襲わせて殺されることが正当となるような位置づけに持っていったかが、理解できないということです。
第1巻分がHPに一挙掲載されたものの単行本化であることはあとがき(238頁)参照。モトラドについて毎回「(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す)」と書かれていることは第1話16頁、第2話48頁、第3話83頁、第4話100頁、第5話170頁、第6話202頁参照。
キノはこの本(1巻)の第5話で入れ替わっていて、最初のキノだった少年が殺され、少年キノに助けられた少女が次のキノになっています。他のお話のキノがどっちのキノなのかは、読み切り連作で前後関係が示されていないのではっきりはしませんが。
いずれのお話もキノが変な国に行ってその国の人々と話し、あるいは戦い、去っていくという構成です。「変な国」を仕立ててパロディ化し、人の性を嗤い哀しむ手法は、私たちの年代の読者には「ガリヴァー旅行記」を、あるいは Le Petit Prince (日本語題はなぜか「星の王子様」)を想起させます。この作品がターゲットにする年代(中高生でしょうね)には単にRPGの感覚でしょうけど。
第5話まではシニカルでも、まあわかりますが、第6話で虐殺される一方のタタタ人がキノにも殺されて悪者扱いになるエンディングには、作者が何を言いたかったのか違和感ばかりが残りました。
一挙にHP掲載してから単行本化したという解説のわりには、毎回冒頭で「モトラド」などの説明が繰り返されるのは、ちょっと閉口しましたし。
時雨沢恵一 電撃文庫 2000年7月25日発行
追伸:2007年6月15日午後9時過ぎ
6月15日に「ちゃんと小説よんでんの? 間違えだらけなんだけど よくこんなのかけたね。 こっちが閉口だ(上手 」というコメント(途中で切れてるんでしょうね)をいただきましたので追伸。
こういう具体的事実の指摘なしの批判って一番めんどうなんですが、たぶん言いたいのは第5話以外ではキノが女だとほのめかしている、キノが1つの国に3日と決めているのは昔会った旅人がそう言ってたからというのだから第5話の後と示されているというようなことなんでしょう。それについては私はそうは読みませんでした。むしろ作者はできるだけそのあたりをぼかしてどちらとも読めるように書いていると読みました。プロローグの「少年のような、そして少し高い声」(11頁)は女だけどとも読めますが、年のわりに幼いとも読めます。第1話のエルメスの問いかけで男の人と「ラブラブだったのかい?」「あの男の人と結婚するんじゃないかとハラハラだったよ」(44頁)は冗談ですから、少年にそう言ってもアリだと思います。第4話でキノが老人に「嬢ちゃん」と呼ばれたのに「嬢ちゃん」は照れくさいのでやめてくださいねと答えている(126頁)のもどちらとも読めます。同じく第4話でキノから「知らない男の人にほいほいついていかないように言われていますしね」と言われたシズが犬の陸と話して驚いた顔をして納得する(164頁)ところはかなりキノが女であることを示唆していますが、そうでない読み方もできます。第5話以外でキノの性別を明言しているのは第6話で「キノと呼ばれた少女」(228頁)とあるところだけだと思います。そしてキノは1つの国は3日と決めているということが何度か出てきて、それを第2話でエルメスに「昔会った旅人が言ってた・・・それくらいがちょうどいいんだってさ」と説明しています(58頁)。この昔会った旅人が第5話の男のキノであれば、第1話、第2話、少しはっきりしないけど第4話も、第5話の後と言えることになります。そして第5話の男のキノは「1つの国は3日だけってボクは決めているんだ」と言っています(186頁)。しかし、第5話の男のキノのこの台詞はモトラドのエルメスがすっかり治されてからです(183~184、186頁参照)。そうすると少女のキノと旅をしているエルメス(このエルメスも2代目)は男のキノのこの台詞を聞いているわけですから、第2話で少女のキノが2代目のエルメスに語りかけているという前提なら、「昔会った旅人が言ってた」ではなくて「昔のキノが言ってた」となるはずです。またそのキノの言葉に対するエルメスの反応も「そんなもんかね」(58頁)ではなく「そうだったね」というようなものになるはずです。その意味では、第1話、第2話のキノが以前から別の旅人の心情に共鳴して1つの国は3日までと決めていてそのキノが第5話で「大人の国」に訪れたと読むことも可能です。私は、むしろ、この第1巻を読む限りでは、最初のうちは作者はキノの性別をぼかして(第4話あたりから少女の方向にハンドルを切り)第5話で男→女の入れ替わりをはっきりさせた、その後の第6話では少女と明言したということじゃないかと思います。
第6話のタタタ人については、もちろん、「平和の国」で一方的に虐殺されてきたタタタ人がキノに復讐すると言ってキノに襲いかかったからキノが殺したわけです(229~231頁)。私が言っているのはキノの行為の問題ではなく、作者がなぜ敢えて虐殺されているタタタ人に八つ当たり的にキノを襲わせて殺されることが正当となるような位置づけに持っていったかが、理解できないということです。
第1巻分がHPに一挙掲載されたものの単行本化であることはあとがき(238頁)参照。モトラドについて毎回「(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す)」と書かれていることは第1話16頁、第2話48頁、第3話83頁、第4話100頁、第5話170頁、第6話202頁参照。