中学高校の同級生野原と2人で劇団「おろか」を旗揚げした自意識過剰・自信過剰の脚本家兼演出家の永田が、渋谷付近の画廊で声をかけて不思議にも言われるままにカフェでおごってくれた青森出身の演劇志望で服飾系の大学に通う沙希と付き合い、いつしか沙希の部屋に転がり込んで暮らし、沙希の親の仕送りや沙希のバイト収入をあてにして公演を続け、若干の観客を獲得しながらも芽が出ないままにダラダラと演劇を続けるという展開の小説。
何かを目指しつつ何者にもなれずにいる独りよがりな男が、ふつうに考えて絶対引かれるというか相手にされないシチュエーションで若い女性と知り合い、身勝手なことばかりしても相手から嫌われず、笑顔で受け容れ続けてくれるという、男性向けの都合のいいファンタジー・幻想・妄想なのだと思います。しかし、主人公の永田が、そこまで尽くしてくれる沙希にまるで報いず(まぁさすがに暴力を振るったりするところまで人でなしではないのですが)、生活費を全て出させて、沙希にバイトを掛け持ちさせながら自分がバイトして収入があったときも光熱費さえ払わず自分のものを買い込む、それでも笑顔でかまい続けてくれる沙希を思いやるでもなく脚本さえ書けずにゲームをし続けるというあまりのろくでなしぶり、卑屈さ、ひねくれぶりに、読んでいてどうにも心情的に入れないものを感じます。どういう人ならこの作品に満足感を持てるのでしょう。
永田の自信過剰ぶりを、「永田が考えることは面白いと思うけど、こんな田舎の中学にお前みたいなんがおるってことは、全国のどの中学にも一人ずつくらい、お前みたいなんがおると思うねん。」と受け流す野原の言葉(42ページ)が、至言だなぁと思いました。
又吉直樹 新潮社 2015年5月15日発行
何かを目指しつつ何者にもなれずにいる独りよがりな男が、ふつうに考えて絶対引かれるというか相手にされないシチュエーションで若い女性と知り合い、身勝手なことばかりしても相手から嫌われず、笑顔で受け容れ続けてくれるという、男性向けの都合のいいファンタジー・幻想・妄想なのだと思います。しかし、主人公の永田が、そこまで尽くしてくれる沙希にまるで報いず(まぁさすがに暴力を振るったりするところまで人でなしではないのですが)、生活費を全て出させて、沙希にバイトを掛け持ちさせながら自分がバイトして収入があったときも光熱費さえ払わず自分のものを買い込む、それでも笑顔でかまい続けてくれる沙希を思いやるでもなく脚本さえ書けずにゲームをし続けるというあまりのろくでなしぶり、卑屈さ、ひねくれぶりに、読んでいてどうにも心情的に入れないものを感じます。どういう人ならこの作品に満足感を持てるのでしょう。
永田の自信過剰ぶりを、「永田が考えることは面白いと思うけど、こんな田舎の中学にお前みたいなんがおるってことは、全国のどの中学にも一人ずつくらい、お前みたいなんがおると思うねん。」と受け流す野原の言葉(42ページ)が、至言だなぁと思いました。
又吉直樹 新潮社 2015年5月15日発行