日本の教育は相対的で一元的な『能力』による選抜という垂直的序列化と特定の振る舞い方や考え方を求める水平的画一化が過剰であり、他方において水平的多様性に乏しいという特徴的な構造を持っており、それが『能力』『態度』『資質』という言葉に絡め取られたものだとして、それを乗り越えるべきことを論じた本。
著者は、冒頭からイギリスで本来的には個人が受けた教育歴や達成した業績を重んじて言及する『メリトクラシー』を『能力主義』と訳してむしろ個人の属性を重んじて用いたことが誤りであることを繰り返し指摘しています。また、日本の教育について論じるに際して中教審答申その他の行政政策文書に加えてそれと同じくらいの比重で教育学者の著書・論文の記載を取り上げています。言わんとすること自体はわかるのですが、その論証は、教育のプラクティスを世間に向けて論じているというよりも学者の世界を向いている感じがします。あとがきで著者の既発表論文を再構成したものだと書かれているのを読んでなるほどと思いましたが、一般人/学界外の者が読むのに適しているかには疑問を感じました。
著者は、高等学校の専門コースを増やす/普通科中心にしないことを水平的多様性を確保するものと評価し、1971年中教審答申が正しい道を示していたのに教育学者や教員が誤った批判をしていたかのように述べています(106~113ページ、215ページ~)。しかし、私は、むしろ49ページに示されている表で、分岐型モデル、要するに子どもを早期に選抜して学校別に分離する諸国(中東欧諸国)と受験競争モデルの日本、韓国では職業学校在籍率が高いのに対して、自由主義モデル(英米諸国)と平等主義モデル(北欧諸国)では職業学校在籍率はほぼ0であるというのを見て衝撃を受けたというか、目からうろこが落ちる思いがしました。日本で育つと職業学校があるのが当たり前に思えますが、それは当然ではないのだということですね。そういう視点を加味して言えば、職業高校、高校の各種コースを増やしても、それは子どもの早期選抜による垂直的序列化を促進するだけじゃないかと思えます。
また、『能力』『能力主義』という言葉で、垂直的序列化が当然であったり正しいものと理解されることの誤りを指摘し、『言葉』の重さを言う著者が、『能力』『態度』『資質』という言葉と闘う本で、『日本型メリトクラシー』『ハイパーメリトクラシー』『ハイパー教化』などという耳慣れない言葉を基本概念としているのでは、最初から勝負にならないように思えます。
示唆に富む部分もあると思いますが、高校の各種コースを増やすことを改革のポイントにおいている点、使用する言葉や論証方法が内向き(学者さんの中でのもの)という点で、一般読者の支持を得にくい本のように感じました。

本田由紀 岩波新書 2020年3月19日発行
著者は、冒頭からイギリスで本来的には個人が受けた教育歴や達成した業績を重んじて言及する『メリトクラシー』を『能力主義』と訳してむしろ個人の属性を重んじて用いたことが誤りであることを繰り返し指摘しています。また、日本の教育について論じるに際して中教審答申その他の行政政策文書に加えてそれと同じくらいの比重で教育学者の著書・論文の記載を取り上げています。言わんとすること自体はわかるのですが、その論証は、教育のプラクティスを世間に向けて論じているというよりも学者の世界を向いている感じがします。あとがきで著者の既発表論文を再構成したものだと書かれているのを読んでなるほどと思いましたが、一般人/学界外の者が読むのに適しているかには疑問を感じました。
著者は、高等学校の専門コースを増やす/普通科中心にしないことを水平的多様性を確保するものと評価し、1971年中教審答申が正しい道を示していたのに教育学者や教員が誤った批判をしていたかのように述べています(106~113ページ、215ページ~)。しかし、私は、むしろ49ページに示されている表で、分岐型モデル、要するに子どもを早期に選抜して学校別に分離する諸国(中東欧諸国)と受験競争モデルの日本、韓国では職業学校在籍率が高いのに対して、自由主義モデル(英米諸国)と平等主義モデル(北欧諸国)では職業学校在籍率はほぼ0であるというのを見て衝撃を受けたというか、目からうろこが落ちる思いがしました。日本で育つと職業学校があるのが当たり前に思えますが、それは当然ではないのだということですね。そういう視点を加味して言えば、職業高校、高校の各種コースを増やしても、それは子どもの早期選抜による垂直的序列化を促進するだけじゃないかと思えます。
また、『能力』『能力主義』という言葉で、垂直的序列化が当然であったり正しいものと理解されることの誤りを指摘し、『言葉』の重さを言う著者が、『能力』『態度』『資質』という言葉と闘う本で、『日本型メリトクラシー』『ハイパーメリトクラシー』『ハイパー教化』などという耳慣れない言葉を基本概念としているのでは、最初から勝負にならないように思えます。
示唆に富む部分もあると思いますが、高校の各種コースを増やすことを改革のポイントにおいている点、使用する言葉や論証方法が内向き(学者さんの中でのもの)という点で、一般読者の支持を得にくい本のように感じました。

本田由紀 岩波新書 2020年3月19日発行