伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

プロブレムQ&A 化学物質過敏症対策 [専門医・スタッフからのアドバイス]

2020-11-27 21:10:54 | 自然科学・工学系
 化学物質過敏症の診断と治療、食事等について解説した本。
 化学物質過敏症の診断について、問診票QEESIによる患者自身の回答のスコアでの診断(36~41ページ、148~152ページ)の他に、化学物質過敏症では安静時の末梢静脈血の酸素分圧が高くなる(化学物質過敏症患者以外では通常10~20mmHg、35mmHg以上だと有意に高い。重症・難治性の化学物質過敏症患者で50mmHg以上。ただし化学物質過敏症で静脈血酸素分圧が上昇する機序は未解明)のでそれを静脈血ガス分析で検査するそうです(44ページ)。不定愁訴が多い疾病と認識していましたが、そういう他覚所見・検査による診断が可能というのは診断、疾病の判定上心強く思えます。もっとも、それがすべての患者に当てはまるのか、その判定基準に当てはまらない症例は認定上不利になるのではないかという危惧はつきまといますが。
 香り付き柔軟剤ダウニーの販売で化学物質過敏症患者が有意に増加した(68~69ページ)という話は、気にとめておきたいところです。多数人が感じる「よい香り」が、一部の人には、それこそ「スメハラ」になっているわけですね。
 基本的には、専門医が専門医以外の医師や医療スタッフにアドバイスする本で、専門用語、専門的な概念が多くとっつきにくい本です。終盤には、障害年金診断書の書き方(119~128ページ)、それに対する日本年金機構からの照会書(155~158ページ:化学物質過敏症専用の照会書があるんですね)、民事裁判用の意見書を書く際の注意(128~132ページ)など、私たちの業界向けの専門的な記述もあり、私はとっても興味深く読み、また勉強になりましたが、このあたりはますます業界外の方にはお手上げかも知れません。訴訟での意見書については「現在まで筆者が関わった化学物質過敏症訴訟の結果は、敗訴3、和解受諾1、勝訴1、結果報告なし1でした。困難な道であることがお分かり頂けると思います」と書かれています(129ページ)。判例雑誌で読むときは患者勝訴例ばかりなので、化学物質過敏症でも意外に原因物質の特定や発症原因が立証できるものなんだと思っていましたが、勝訴が珍しいから勝訴例が紹介されているわけで、全体にはやはり厳しいのでしょうね。なお、執筆担当が書かれていないのに「筆者が」と言われても困ります(症例の患者の年齢は国立病院機構高知病院初診時の年齢だと書かれているので、ここは小倉英郎氏の執筆ということかと思われますが)。


水城まさみ、小倉英郎、乳井美和子著、宮田幹夫監修 緑風出版 2020年9月30日発行
コメント
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