伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

新版ウィルスと人間

2020-11-01 01:01:07 | 自然科学・工学系
 自らは遺伝情報(DNA、RNA)に基づいて子孫を作る機能を持たず、細胞に寄生して、宿主の細胞にウィルスのDNAないしRNA(ウィルスによりDNAを持つもの、RNAを持つものがある)を複製させ、ウィルスのDNA、RNAの情報によりウィルスタンパク質が合成されそれにより子ウィルス粒子が組み立てられることで増殖するウィルスの生態、宿主や他の動物との関係、ウィルスに対抗する手段、近年の新たに出現するエマージングウィルス多発の背景等について解説した本。
 興味深い話題が多数書かれていますが、エピソード間の関係がやや整理されていない感があり、雑多に羅列されている印象があります。
 移植臓器不足解決の手段として豚の臓器の移植やiPS細胞を用いて豚に人の臓器を造らせる研究が進んでいますが、これについて豚の体内では病気を起こさないウィルスが人の体内で新たな病原性を示すような新タイプのウィルスに変異する恐れが指摘され(115ページ)、野ネズミの繁殖を抑制する目的での不妊ワクチン開発の過程で人工的に免疫の効かない強毒性のウィルスができてしまったことが紹介されて(117ページ)いるのを見ると、科学研究の希望と危うさが隣り合わせであることを感じます。
 他方で、ウィルスも宿主を殺してしまうと/強力に殺し過ぎると自らの生存が持続できなくなるため、究極的には宿主との共存へと進み、HIVでも病原性が低下したウィルスが見いだされたり感染後十数年を経て発症しない人も見いだされるなど人との共存の道が始まっているのではないかという指摘(119~120ページ)などを見るとどこかホッとします。


山内一也 岩波科学ライブラリー 2020年9月11日発行(初版は2005年)
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