不動産の共有について説明し、共有不動産の賃貸や売却、共有物の分割請求の事例と処理等を説明して、それらの場合の不動産鑑定士の出番等について紹介した本。
この本でも繰り返し解説されているように、共有不動産は売却等の処分や賃貸等の際に他の共有者と意見が一致しないとそれができなかったりスムーズに行えないため、第三者が(全体であれば問題はありませんが)共有者の共有持分を購入することには躊躇するのがふつうで、共有者にとっては持分の売却は困難です。そのため、共有不動産の持分は、不動産の全体の市場価格に持分割合をかけた額より相当低く評価されざるを得ません。この本では、それを「共有減価」と呼んでいます。「共有不動産の鑑定評価」というタイトル、これを不動産鑑定士が書いていること、はしがきにもあるように「共有不動産の鑑定評価に関する限り、これに特化した書籍はきわめて少ない」ことから、不動産共有持分の評価、つまり「共有減価」について具体的に説明し論じているものと期待して、実務的な強い関心を持って読みました。
しかし、その点に関しては、「20%前後の市場性減価を行っているのが一般的です」という不動産鑑定士協会のホームページの記載を紹介し(108ページ)、著者の鑑定例で、賃貸目的利用の事例故に「共有減価として通常20%程度を織り込むところ」その半分(10%)にした事例(120ページ)、別の事例で共有減価を20%とした事例(126ページ)が紹介されているだけです。結局この本を読み通しても、共有者の数や共有持分、(賃料収入を得る目的かどうかという1点以外はまったく)物件の性質等について区分して検討することさえなく、共有減価の具体的な評価については、共有の内容がどうかは気にもせずに原則20%、ただ賃料収入が目的の場合はそこまで減価する必要がなく10%という以上のことは出てこないのです。
まぁ、共有不動産の評価に特化した本を書く人でさえ、共有減価は賃料収入が目的の場合以外は一律20%程度くらいしか考えがないんだ、とわかったことが収穫でしょうか。
裁判例がいくつか、比較的詳しく紹介されているのですが、そこでは共有者間の代償金の算定が目的のため、共有減価をする必要はないとされ、他の点については勉強になることもありますが、共有減価に関する不動産評価・鑑定という点では関係がないと思えます。
また、裁判例を始め、事例の紹介に際して、日付や金額を白抜き等にしているのですが、そうする必要性があるか疑問ですし、仮の数字でも入れてくれないと日付は前後関係、金額はどっちが多いか何倍くらいかの感覚もつかめずたいへん読みにくい。
第5章を始め、不動産鑑定士のニーズを語り、その利用を繰り返し呼びかけていますが、私たち裁判業界の者は不動産鑑定ができればいいなと思う場面が多々あると常日頃感じてはいるのですが、鑑定評価の判断に疑問を感じることも多々あり(例えばこの本の123ページや125ページのように原価法ではいくら、収益還元法ではいくらなどといくつかの評価方法が列挙されてその評価額が全然違うのに、さしたる根拠も示さずに本件ではこれが妥当とか書かれていることが少なくなく、まぁ専門家の意見として使うけど、あまり納得できていない)、なによりも裁判等の一資料に過ぎないのにそれをしてもらうのに1件数十万円も取られる、さらにはそれを裁判等で提出しても不動産業者の無料の査定と大して違わない扱いのこともけっこうあったりする状況では、使う気になれないのが実情です。
黒沢泰 プログレス 2020年9月30日発行
この本でも繰り返し解説されているように、共有不動産は売却等の処分や賃貸等の際に他の共有者と意見が一致しないとそれができなかったりスムーズに行えないため、第三者が(全体であれば問題はありませんが)共有者の共有持分を購入することには躊躇するのがふつうで、共有者にとっては持分の売却は困難です。そのため、共有不動産の持分は、不動産の全体の市場価格に持分割合をかけた額より相当低く評価されざるを得ません。この本では、それを「共有減価」と呼んでいます。「共有不動産の鑑定評価」というタイトル、これを不動産鑑定士が書いていること、はしがきにもあるように「共有不動産の鑑定評価に関する限り、これに特化した書籍はきわめて少ない」ことから、不動産共有持分の評価、つまり「共有減価」について具体的に説明し論じているものと期待して、実務的な強い関心を持って読みました。
しかし、その点に関しては、「20%前後の市場性減価を行っているのが一般的です」という不動産鑑定士協会のホームページの記載を紹介し(108ページ)、著者の鑑定例で、賃貸目的利用の事例故に「共有減価として通常20%程度を織り込むところ」その半分(10%)にした事例(120ページ)、別の事例で共有減価を20%とした事例(126ページ)が紹介されているだけです。結局この本を読み通しても、共有者の数や共有持分、(賃料収入を得る目的かどうかという1点以外はまったく)物件の性質等について区分して検討することさえなく、共有減価の具体的な評価については、共有の内容がどうかは気にもせずに原則20%、ただ賃料収入が目的の場合はそこまで減価する必要がなく10%という以上のことは出てこないのです。
まぁ、共有不動産の評価に特化した本を書く人でさえ、共有減価は賃料収入が目的の場合以外は一律20%程度くらいしか考えがないんだ、とわかったことが収穫でしょうか。
裁判例がいくつか、比較的詳しく紹介されているのですが、そこでは共有者間の代償金の算定が目的のため、共有減価をする必要はないとされ、他の点については勉強になることもありますが、共有減価に関する不動産評価・鑑定という点では関係がないと思えます。
また、裁判例を始め、事例の紹介に際して、日付や金額を白抜き等にしているのですが、そうする必要性があるか疑問ですし、仮の数字でも入れてくれないと日付は前後関係、金額はどっちが多いか何倍くらいかの感覚もつかめずたいへん読みにくい。
第5章を始め、不動産鑑定士のニーズを語り、その利用を繰り返し呼びかけていますが、私たち裁判業界の者は不動産鑑定ができればいいなと思う場面が多々あると常日頃感じてはいるのですが、鑑定評価の判断に疑問を感じることも多々あり(例えばこの本の123ページや125ページのように原価法ではいくら、収益還元法ではいくらなどといくつかの評価方法が列挙されてその評価額が全然違うのに、さしたる根拠も示さずに本件ではこれが妥当とか書かれていることが少なくなく、まぁ専門家の意見として使うけど、あまり納得できていない)、なによりも裁判等の一資料に過ぎないのにそれをしてもらうのに1件数十万円も取られる、さらにはそれを裁判等で提出しても不動産業者の無料の査定と大して違わない扱いのこともけっこうあったりする状況では、使う気になれないのが実情です。
黒沢泰 プログレス 2020年9月30日発行