伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

昆虫雑学事典

2007-06-23 08:57:45 | 自然科学・工学系
 昆虫の器官や生態の解説本。
 電子顕微鏡写真で見る昆虫の細部が興味深い。テントウムシやハエの足先の吸盤状の毛(52頁)とか、飛ぶときに前羽の後縁にフックがあって後羽を留めている様子(46頁)とか。スズメバチの針に抜けないように逆向きの反りがある(44頁)とか蝉の産卵管はとても丈夫で光ファイバーも貫く(62頁)とかは、あまり見たくない気がしますが。
 鈴虫の音は電話では聞こえない(38頁)とか雄カマキリは雌に頭を喰われても頭を失ったまま交尾できる(139頁)とか、知りませんでした。


阿達直樹 日本実業出版社 2007年5月10日発行
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新しい薬をどう創るか

2007-06-23 08:04:30 | 自然科学・工学系
 新薬の開発研究(創造と製造)の現状を解説した本。
 生体内のタンパク質の構造はX線結晶構造解析の分解能の向上でかなりわかってきたが細胞膜などの膜タンパク質の構造はごく一部しかわかっていない(99~107頁)とか、「正確にいうと、現在使われている薬の中で、なぜ効くのか、あるいはなぜ副作用が起こるのかが完全に解明された薬は意外と多くありません」(151頁)とか、わかっていないことの話の方がなんとなく私は納得したりします。
 カエルの皮膚で作られる抗菌性ペプチドが強い殺菌力がある(213頁~:カエル以外の生物にもあるそうですけど)とかいう話は興味ありますし。
 アルツハイマーの治療薬の効果があるという証拠として示されているグラフ(208頁)を見ると、確かに投薬中は効果があるけど、投薬をやめて6週間たつと最初から投薬しなかったときと同じところまで認知機能が落ちるのはちょっとショック。まだ「治療」じゃなくて症状緩和のレベルなんですね。


京都大学大学院薬学研究科編 講談社ブルーバックス 2007年4月20日発行
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うつつ・うつら

2007-06-22 08:42:52 | 小説
 表題作はほとんど客のいない場末の寄席で下の映画館の映画の音声や九官鳥に邪魔されながら漫才・漫談を続けながら壊れていく売れない芸人の人間模様を描いた作品ですが、ちょっと情念がこもりつつ観念的になっていき、わかりにくい。
 セットの「初子さん」の方が、京都の古びた商店街で貧しいながらに苦労しながら生きていく人々や夫に先立たれて苦労しながらもたくましく生きぬく母親の姿が描かれていて好感が持てました。
 「初子さん」の方が文体や文章の運びも新人(といっても当時30歳)にしてはこなれていて、読み応えがあります。
 後から書かれた表題作の方が、ちょっと小難しくなっているのが気がかりですが、今後に期待したい気もします。
 それにしても「文學界」2004年12月号と2005年10月号掲載作品が今頃単行本化されるのは何故?


赤染晶子 文藝春秋 2007年5月10日発行
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うつくしい私のからだ

2007-06-22 07:20:01 | 小説
 体の部分を表題にした雑誌連載短編作品集。
 どこかしらコンプレックスを持った20代終わり間際の女性が主人公のお話が続きます。年齢設定が20代終わりに集中しているのは雑誌の読者層がその辺なんでしょうか。
 主人公のコンプレックスが、解消されたり、それでいいやって開き直ったり、やっぱりだめだったり、話の持って行きようは様々です。
 それなりのウィットなり味は感じますが1つ十数ページですから、掘り下げはありません。作品間につながりがあるわけでもない十数ページの短編は、雑誌の中でさらっと読むにはいいでしょうけど、まとめて通し読みするのには辛いなあと改めて思いました。


筒井ともみ 集英社 2007年4月30日発行
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グスタフ・クリムト ドローイング・水彩画作品集

2007-06-21 08:27:04 | 人文・社会科学系
 19世紀末-20世紀初頭のウィーンの画家クリムトのデッサンを中心とした解説付き画集。
 学生の頃、クリムトの金ぴかで装飾的・2次元的でしかし退廃的な絵を見て、要するに成金趣味で寓意としても悪趣味でしかも見て元気になれない絵を好きになれませんでした。そのクリムトの典型的なというか有名な絵の1つ「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」が2006年6月には史上最高値で落札されたとかで、今ではクリムトは人気画家の1人だそうです。バブル期ならともかく何で今頃っていう気がしますけど。
 画壇で反体制グループの代表となりつつ金持ちのための婦人の肖像画ばかり描いていた生涯も解説されていますが、やっぱりあまり好きになれないですね。エピソードとして、ウィーン大学の講堂の壁画の一部を依頼されて、学問の進歩という概念に反する絵を書いてけんか別れになったところはおもしろいですが。
 この作品集では、ほとんどが婦人画の裸体画のデッサンで、クリムトが作品を仕上げる前に構想段階で何度も練り直しをしていたことはよくわかります。でもデッサン自体が作品として高く評価すべきと言われても、あまりピンと来ません。
 また私がこれまで見ていなかった絵でベートーヴェン・フリーズ(壁画)は、ちょっとゆっくり見てみたいなと興味を引かれました。
 2次元的・装飾はマチスの影響とされていますが、意外に浮世絵の影響もあるのかもと感じました。史実としての根拠はありませんが。


原題:Gustav Klimt : Drawings and Watercolors
ライナー・メッツガー 訳:橋本夕子
新潮社 2007年4月25日発行 (原書は2005年)
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守護天使

2007-06-20 07:56:38 | 小説
 鬼嫁の尻に敷かれてくたびれた生活を送る50歳おじさんが通勤電車でよく会う女子高生に恋して、その女子高生を陥れようとするブログと荒らし、襲撃者たちから女子高生を救うというストーリーの小説。
 ちょっと設定を大仰にしてしまい取材や経験が付いていけずにディテールが書き込めない結果浮き気味なところが残念ですが、新人の作品としてはかなりいけてると思います。まあ過剰な設定と過剰な表現はコメディなんだギャグなんだと思って読み飛ばせばいいでしょう。でも、ネットやブログ、掲示板が舞台回しに使われているもののやっぱり想定読者層は作者と同年代の中年男性でしょうね。
 うちの業界的には、最後で主人公が下半身裸で登場したのを「猥褻物陳列罪」(240頁)はやめて欲しかった。あちこちで言われて周知のことと思っていましたが、これは「公然猥褻罪」(人間自身は「物」ではない)。まあ猥褻物陳列罪の方が一般受けするからかも知れませんけど。


上村祐 宝島社 2007年4月6日発行
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ゲリラ流最強の仕事術

2007-06-19 19:14:34 | 実用書・ビジネス書
 大組織で仕事中毒になって働くよりも小組織で短時間働いて利益を得ようと提唱するビジネス書。
 著者はいろいろなことを言ってはいるのですが、この種のビジネス書にありがちなように抽象的スローガン的なものが大部分を占めています。
 印象に残ったこととしては、著者が商品よりも人を重視する姿勢。自分しかできないこと以外は人に任せろ、そのためにも従業員の採用を重視しろという点。新規顧客の開拓よりも既存の顧客の情報収集と綿密なフォローアップで感動させようという点。
 著者の言うとおりにすれば、著者が言うような週3日の労働で家族と過ごす時間や趣味の時間を十分取って利益を上げて暮らせるかどうかは疑問があります。
 今時の視点からはそれほど珍しいことをいっているのではないのに「ゲリラ」と強調し続けるのも違和感があります。原書が書かれた10年前はまだ珍しかったのかもしれませんが。


原題:The Way of The Guerrilla
ジェイ・C・レビンソン 訳:大西純子
フォレスト出版 2006年7月29日発行 (原書は1997年)
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大統領特赦(上下)

2007-06-19 08:45:16 | 小説
 某国が秘密裏に築き挙げた軍事衛星システムを意のままに操るソフトを書き上げた天才ハッカーたちの依頼でそのソフトを巨額の金で売りつけようとして20年の刑に処せられたロビイストの弁護士ジョエル・バックマンを主人公に、大統領に特赦をさせて誰がバックマンを殺害するかを監視して軍事衛星問題の真相を見極めようとするCIA、大統領特赦をめぐる収賄を捜査するFBI、中国・イスラエル・サウジアラビアの諜報機関のせめぎ合いを描いた小説。
 主人公が刺客との追いかけっこをする組立は、「法律事務所」「ペリカン文書」などでおなじみとも言え、グリシャムの得意技なのでしょう。
 CIAがトップの首のすげ替えで情報能力が緩み計画がガタガタにあるあたりは、イラク戦争のときの醜態でグリシャムの評価が下がったんでしょうね。
 初期の頃の作品に比べて主人公が金持ちで傲慢で強欲な人物にシフトしているのは、グリシャム自身の変化でしょうか。
 それはさておき、久しぶりの白石訳のグリシャムが読めたのはリーガル・サスペンスファンとしてはうれしい限り。この作品自体は、主人公が弁護士だというだけで法廷シーンもなく、リーガル・サスペンスとは言いにくいのですが。解説でそのあたりを「グリシャムの新作がこの新潮文庫で紹介されるのは久々のことだが、この本来あるべき形での翻訳紹介を待ち望んだ読者は少なくなかったに違いない」(下巻352頁)と書かせるのはあまりに大人げない。私も繰り返し言うように白石訳のグリシャムを待ち望んだ1人ですし、超訳のグリシャムには違和感がありましたけど、新潮文庫が「本来あるべき形」というのはバックマン並みの傲慢さじゃないでしょうか。


原題:The BROKER
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫 2007年3月1日発行 (原書は2005年)
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夕暮れのマグノリア

2007-06-18 08:53:15 | 小説
 中1の少女灯子と同級生や親戚のおばさんとの関わりにちょっと霊的な体験が混じる短編連作の小説。
 日常の中で生じるちょっと困った、解決困難な状況が、実際にあったか幻覚なのか微妙な霊的体験を機に収まっていく設定で、そのあたりで好みが別れるでしょう。読み物としてはホワンとした(キョトンとしたかも)読み口ですが、私には解決に向けた地道な努力が見えなくて今イチです。
 タイトルはおばさんの家にある「マグノリア」(もくれん科の樹の総称だそうです)の古木がジコチュウな隣人の要求で切り倒されそうになる最終話にちなんだものです。「マグノリア」といわれると私はついハリー・ポッターがらみかと思ってしまいました(ダーズリー家のそばの通りが「マグノリア・クレッセント」;そんなこと連想する奴いないって・・・)が、ハリー・ポッターは全然関係ありませんでした。


安藤みきえ 講談社 2007年5月16日発行
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プロポーズはいらない

2007-06-17 09:35:57 | 小説
 弱小広告プロダクション勤務の三十路寸前女性コピーライターが、恋人が他の女とできちゃった婚して振られてから紆余曲折を経て新しい恋人ができて前向きになるまでを描いた小説。
 元恋人の相手、会社の後輩、妹、母・・・の生き様に反発を覚えていたけど、どこかなりたくてもなれなかったもうひとりの自分を見いだし、連帯感につなげていく流れは、ちょっといい感じ。
 「愛って感情じゃなくて概念なんじゃないかしら。つまりね、感情のように明快な生理的現象ではなく、頭の中で創り上げた抽象概念だからこそ、人によって定義が違ったり、言葉で説明しなくちゃコンセンサスが取れなかったり、肉体レベルで共有できなかったりするんじゃないのかな。でも、あたしたちは愛を、概念じゃなくて感情だと思いこんでいるから、ついつい相手に説明しなくても通じてるものだと錯覚してしまう」(113頁)という下りも言い得て妙。
 HP連載からの小説のせいか、少しぶつ切り感があるのと、結局のところキャリアウーマンの主人公には自分を出さずに徹底的に相手にあわせる年下ハンサム男をあてがってハッピーエンドというあたりの安直というか都合よすぎ加減が、ちょっとね。


中村うさぎ 中央公論新社 2007年2月25日発行
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