伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

リスクの正体 不安の時代を生き抜くために

2020-07-18 00:11:53 | エッセイ
 2014年秋から「朝日新聞」に連載されたコラム「月刊安心新聞」を整理して出版したもの。
 新技術をめぐる方針の決定に関して、専門家の判断と民主主義の調整、「専門知を備えた第三者」の存在の重要性が繰り返し語られています。例えば、ドローンの功罪を巡り、「新しい技術が現れた時、それがどのような経緯で誕生し、功罪含め、いかなる社会的影響を及ぼしうるかについて、調査し評価することが求められるはずだ。当然、それは中立的であることが望ましい。また専門的な観点と、市民社会的な眼差しの両方から、丁寧に検討される必要がある。だが、そんな役割を果たすことができる者は、どこにいるのだろう。科学技術に関する理系的な知識と、法や倫理に関する文系的な素養の両方を、バランスよく兼ね備えている人物。そして何よりも、検討すべき対象と直接の利害関係がなく、公益を基準にフェアな判断ができる人物。結局、そういう人材や職業を育てることを、この社会が怠ってきたことが、種々の問題の本当の原因ではないか」と論じています(77ページ)。もんじゅと豊洲市場の安全性(91~93ページ)、AI利用(85ページ)、量子コンピュータ(117ページ)でも同趣旨の記述があり、それはなるほどねと思います。コンピュータ好きで工学部に進学したが文転して科学史を専攻した著者(244~245ページ)のような人物がそういう人材だと主張しているのではないでしょうけれども。
 高齢ドライバーの事故に関して、統計上むしろ高齢の歩行者が圧倒的に交通事故の被害者であり、加害者としては10万人あたりの死亡事故率は全世代が4.4件に対し65歳以上は5.8件と平均より高いが、一番高いのは16歳から24歳の7.6件ということを示して冷静な議論を求めている(157~159ページ)あたり、好感が持てます。


神里達博 岩波新書 2020年6月19日発行
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文豪の悪態 皮肉・怒り・嘆きのスゴイ語彙力

2020-07-17 21:09:14 | 人文・社会科学系
 明治時代から戦前にかけて活躍した文豪たちが他の作家等に向けて書いた悪評等を紹介する本。
 扱われている言葉には、タイトル通りの悪口、憎まれ口が多いのですが、必ずしもそういうものでないものも紹介され、さらには本文では、紹介されている言葉が発せられた経緯や背景事情の説明ももちろん書かれていますが、印象としてはそれ以上に当時の世情やさらには登場人物の紹介に紙幅が割かれている感じで、全体としては、著者が紹介したい文豪に関するそれほどは知られていない話を書きたくて書いた本かなと思います。
 「はじめに」で最近は世の中に、特に大学に「変な人」がいなくなったという嘆き、昔は大学の先生にはいろいろな変人がいて面白かったのにという嘆きが冒頭に書かれていて、そっちの方が本文よりも私の胸にストンと入りました。それが何故なのだろうと「はじめに」で著者は問うているのですが、もちろん、本文ではそれは解き明かされません。
 本文の方は、関係者の紹介等が多くて少し冗長に思えますが、田山花袋が「蒲団」で蒲団と夜具に残る若い女の匂いを書いたそのモデルの実在の人物岡田美知代の主張とか、太宰治と中原中也の取っ組み合いのけんかとか、菊池寛が実在のカフェの女給杉田キクエを口説く様を小説に書かれて中央公論社の編集者を殴りつけるが作者の広津和郎は友達だからといって抗議せず困った広津和郎が中央公論社の社長に告訴をやめないと連載を打ち切るといって仲裁したなどの話は興味深く読めました。


山口謠司 朝日新聞出版 2020年5月30日発行
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40代からでも波に乗れる はじめてのサーフィン

2020-07-12 18:00:22 | 趣味の本・暇つぶし本
 サーフィンの入門書。
 「40代からでも波に乗れる」「いいオヤジが最短でいい波に乗る方法教えます!」という表紙の言葉につられて、これでおいらもサーハーの仲間入りなんてノリでめくる本です。写真が多く字は少なく、その写真が、プロサーファー44歳の著者の写真ではありますが、茶髪じゃない黒髪短髪のおっさんということで、おじさんにも安心して読める感じがします。
 サーフボードにワックス塗るのねとか、そういうところから感心してしまう門外漢には、10分以上の波チェック、波を観察することがサーフィンの第1歩というあたりで、そうかぁと海辺に座り込み、ふむふむと納得して、そこで終わってしまいそうですが。


市東重明 株式会社KADOKAWA 2020年3月2日発行
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新版英語対訳で読む科学の疑問

2020-07-10 00:19:08 | 実用書・ビジネス書
 宇宙、地球、生物、人体、その他日常生活上の科学に関する疑問79問について、英文と日本語の見開き2ページで解説する本。
 内容が興味が持てて、短く、英文を読む機会を持つにはとてもいい本だと思います。
 ただ英文は、「英語対訳」とタイトルにあるように、日本語から作られたためか、ちょっとくどいというか同じ表現の繰り返しが多く、そこが英語っぽくない印象を持ちました。
 英文の方にも単語や熟語等にアンダーラインを引いて和訳が付いているので助かりますが、 buoyancy という耳慣れない単語に「重力」と振ってあり(52ページ)、重力は gravity じゃないかという疑問に加えて、これを「重力」と訳すとどう考えても話が合いません。日本語訳の方を見ると「浮力」となっていて、そうだよなぁと思いましたが、そういうところチェックが甘いかなと感じました。


松森靖夫、スティーブ・ミルズ 実業之日本社 2020年6月10日発行
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ボーダレス

2020-07-09 21:48:11 | 小説
 高2の夏休みにクラスで群れずに一人ノートに小説を書き続ける片山希莉と希莉に興味を持ち小説の内容と小説の取材で盛り上がる森奈緒、格闘家の父が正体不明の黒ずくめの人物に襲われ視覚障害者の妹圭とともに山中を逃げ歩く八辻芭留、オリジナルのコーヒー「究極の静男」「渾身の静男」「最強の静男」「休日の静男」が評判の喫茶店「カフェ・ドミナン」を経営する市原静男・緑梨夫婦と音大を目指したが果たせず失意の帰郷をして喫茶店を手伝う長女市原琴音と琴音を無視し続ける次女叶音、屋敷内に閉じ込められテラスで読書をしながら近くをよく通る女性に憧れていたらその女性から迫られて知らなかった性愛の世界に溺れる少女らの4つの世界が順番に進行しながら、いずれもカフェ・ドミナンに行き着いて事件になる、サスペンス小説。
 4つの話とも、比較的若い世代の女性がストーリーを引っ張るので、青春小説っぽい読み味です。
 ところで、仕事がら、気になったのは、「1年もあれば、最近は裁判の結果も出る」(316ページ)というフレーズ。被告人が控訴もしなかったという争う気もない被告人の刑事事件なんて、大半が1年どころか1月2月で終わってるのが日本の刑事裁判の実情だと思うのですが。長引くのはごく一握りの事件なのに、その報道に引きずられて日本の刑事裁判は長いって思い込んでいる人が多い。警察小説とか犯罪が出てくる小説を多数書いてるんだから、そこ、もう少し調べて欲しいなと思います。


誉田哲也 光文社 2018年8月30日発行
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あの夏、二人のルカ

2020-07-08 21:30:46 | 小説
 バンドをクビになってそのバンド連中を見返してやりたくてメンバーを物色していたドラマーの佐藤久美子が、女子高の同級生の蓮見翔子と隣のクラスの谷川実悠を誘い出して父が経営するスタジオでギターとベースの練習をさせていたら、実悠の同級生真嶋瑠香が練習を聴きに来るようになり、さらに瑠香が転校生の森久遙(ヨウ)を誘い込んでガールズバンドRUCASを結成し、遙の歌唱と歌作りが注目されて演奏は熱狂的に支持されたが…という高校時代の話と、14年後のメンバーたちの話を交差させて進める青春小説。
 「武士道ジェネレーション」(2015年7月)では、青春小説までも「自虐史観」批判の材料とした作者のネトウヨ志向は、それが見られなくなった「歌舞伎町ゲノム」(2017年空き~2018年)と並行して書かれたこの作品でも見られず、その次の「ボーダレス」でも見られないので、卒業されたように見えます。長編第5作「硝子の太陽 R-ルージュ」と第6作「ノーマンズランド」をネトウヨ的政治宣伝に捧げてしまった姫川玲子シリーズも次は更生できるといいのですが。


誉田哲也 株式会社KADOKAWA 2018年4月27日発行
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リスからアリへの手紙

2020-07-06 21:01:31 | 物語・ファンタジー・SF
 手紙を宙に放りあげると風が配達してくれる世界で、動物たちが互いに手紙を出し合うという童話。
 登場する多数の動物たちの中で、哲学的な思索にふけり思い悩むリス君、木に登ったりカタツムリの殻の上で踊りたがる身軽な象さん、ケーキ、特に蜂蜜ケーキを食べることしか考えていない熊君が、印象的で微笑ましく思えました。
 1996年の作品で、訳者が2016年に死亡しているのですが、何故今出版されたのでしょう。あとがきその他の説明がまったくないので、そのあたりの経緯がわかりません。童話の世界の不思議さよりも、そちらが不思議に思えてしまいました。


原題:Brieven aan niemand anders
トーン・テレヘン 訳:柳瀬尚紀
河出書房新社 2020年3月30日発行(原書は1996年)
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紫式部ひとり語り

2020-07-05 00:06:44 | 人文・社会科学系
 紫式部の若き日、結婚、夫の死、源氏物語の執筆、中宮彰子の女房としての出仕、宮廷と彰子の実家(藤原道長邸:土御門殿)での日々等を、「紫式部日記」「紫式部集」等の文献を元に、紫式部自身の独白という形式で綴った本。
 紫式部が源氏物語を書きその文才を評価されて中宮彰子の女房に取り立てられて宮仕えを始めたが、周囲に馴染めず、自身も馴染もうとせずに同僚たちが冷たいと敵視して数日のうちに(正月だったこともあり)自宅に戻って数か月にわたって引きこもった(122~126ページ)後、職場復帰に際して惚け知れを演じておっとりしているという評価を得て周囲に馴染んでいく(126~132ページ)様子、初期にはまわりに煽られてかつて弘徽殿の女御の女房だった左京馬の落ちぶれた姿をからかういじめを実行した様子(238~255ページ)が描かれ、その後紫式部が彰子の女房としての自覚を持ち後宮の体面を保つべく心得る姿(成長する紫式部…)、死してなお高いイメージを保つ定子の後宮へのライバル意識とそれに大きく貢献した枕草子と清少納言への思いなどが興味深く読めました。
 紫式部自身のことだけではなく周囲のことや当時の様子も書かれています。疫病の脅威におののく様子、それに伴う人心の乱れなど、たまたまですが今の世相とも重なる思いがします。
 百人一首で「名にしおわば逢坂山のさねかずら人に知られで来るよしもがな」が取られている曾祖父の三条右大臣藤原定方が、「昨日見し花の顔とて今朝見れば寝てこそさらに色まさりけれ」と詠んでいる(32ページ:この人はエッチの歌ばかり詠んでいるのか?)なども味わい深いところです。
 紫式部日記等からの古文の引用がそれなりにあり(当然ですね)、古文ってなまじ日本語なだけに今の言葉との類似を見て意味を推し量ってしまいますが、全然違う意味のことが多く、あぁやっぱり古文は難しいと再認識してしまいました。


山本淳子 角川ソフィア文庫 2020年2月25日発行(単行本は2011年10月)
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逆流する津波 河川津波のメカニズム・脅威と防災

2020-07-04 00:07:13 | 自然科学・工学系
 津波のメカニズムや性質、特に内陸部への遡上の危険性と被害防止のために何をすべきかについて説明し論じた本。
 津波というと、沿岸部での直接的な被害を想定しますが、この本では、特に東日本大震災のときの津波の実例を中心に、津波が河川を逆流して遡上し、河川上は陸上よりも摩擦抵抗が少ないために速い速度でかなり上流まで遡上し(北上川では50km近くまで遡上した例がある)予想外の被害に遭う危険があることを強調しています。沿岸部から陸上を遡上したり、河川上を遡上して堤防を決壊させたり越流して市街地に流れ込んだ津波が建物の隙間に流れが集中したり複数の流れが合流・縮流して速度を上げるという予想外の動きをして(通常は陸上に遡上すると次第に速度は落ちると考える)複雑な流れ、双方向からの流れで避難が困難になる事態も指摘されています(47~51ページ)。さらに、東日本大震災の際には海底のヘドロを削り取り巻き込んだ「黒い津波」が、破壊力が強く(比重が大きいことで津波自体の破壊力が増す)、巻き込まれた人の視界を奪い生還が難しくなる、吸い込んだときに重度の肺炎を引き起こす(津波が収まった後も粉塵となって舞い上がり同様に肺炎を引き起こす)など、被害の拡大につながったことも指摘されています(52~54ページ)。
 津波に襲われたときの生還には、日頃の備え(現実的で有効な避難場所や避難経路の検討等)、臨機応変で柔軟な判断力と行動力が重要になります。言うは…言うだけでも難しそうですが、実例を示して言われると、被災例も多々あり悲しいところですが、考えておかないと、と思いました。


今村文彦 成山堂書店 2020年3月28日発行
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僕はロボットごしの君に恋をする

2020-07-02 19:34:17 | 小説
 AIロボット研究所に勤務して人間と見分けが付かない精巧な人型ロボットを遠隔操作してパトロールし警備する業務に就いている大沢健が、研究所のエリート研究員天野陽一郎の妹の咲に恋愛感情を抱き、業務を装って人型ロボットを佐藤と名乗らせて咲に近づき、ロボット越しに会話をして疑似デートを楽しむが、次第に咲がロボットと知らずに「佐藤」に恋心を抱き、大沢は佐藤に嫉妬し始めて悩み…というSF的青春小説。
 前半、容姿にも体力にも恵まれない大沢健が、ルックスも良く作られ怪力で不死身のロボットを操作して、規則に反して様々なことにロボットを使って得意になるようすは、デジャブ感があります。何だろうと考えてみると、ドラえもんにおねだりして魔法のようなおもちゃを出してもらい得意になって振り回すのび太ですね、これ。それが、のび太の場合のような微笑ましさを感じさせないのは、大沢健が28歳の社会人だから。子どもがやるのなら許せるけれども、大人になってこれでは許されないし、見ていてむしろ不愉快に思えます。ロボットや未来の機械でなくても、何らかの権限を手にすると自分勝手に振り回したくなるプチ権力者(もちろん大人)が世の中には少なくありませんが、そういう存在の醜さをも象徴しているのなら、あっぱれと思いますが。
 後半は、ロボットが恋愛感情を抱けるか、ロボットに恋愛感情を抱かせることが、技術的倫理的にできるかというある種哲学的な問題がテーマになります。
 第2章(「プログラム2」)から第6章(「プログラム6」)の冒頭にメインストーリーとは別立てのほのめかし的な短い文章が入っていますが、これは、ない方がいいんじゃないかなぁって思いました。もうひとつひねりを用意しているからそこは見せておいていいという判断なのでしょうけど、それなしで第6章で一気に展開した方がダイナミックだと思います。


山田悠介 河出文庫 2020年4月30日発行(単行本は2017年10月)
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