伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ミニシアターの六人

2022-05-21 21:05:28 | 小説
 銀座シネスイッチをモデルにした銀座のミニシアターで、末永静男という監督の追悼上映として1995年に撮影された「夜、街の隙間」と題する銀座の一夜を描いた映画が1週間限定で上映され、それを最終日前日の水曜日午後4時50分の回に観た客6人、その映画館の受付をしていて監督に子どもの名前をつけてもらった60歳の三輪善乃、20年前の上映で一緒に観た友人から追悼上映を観たという連絡があって一人で観に来たバツイチ教師40歳の山下春子、自主映画を撮り続けていたが落選して入選作の1つだった末永監督の映画を観て能力差を見せつけられて映画を諦めて就職した70歳の安尾昇治、20年前の上映で映画好きの彼女に誘われて観たがそのときに彼女にフラれた過去を引きずる50歳の沢田英和、20歳の誕生日を彼氏とデートのはずが祖母の危篤の報があってドタキャンされて1人でぶらりとミニシアターに入った川越小夏、映画を撮って応募したが芽が出ず先輩の引きでテレビ制作会社に入って仕事に追われ先行きを迷う末永監督の隠し子30歳の本木洋央と、それに加えて証券会社に勤める末永監督の実子末永立男が、映画のストーリーと絡めつつ自分の人生に思いをめぐらせる小説。
 映画も4組の男女と警官と猫がすれ違いながら交錯して行くストーリーになっていて、観客6人もまたその人生でもその一夜でも微妙に交錯する仕立で、ほのぼのと味わい深い読み物になっています。


小野寺史宜 小学館 2021年11月20日発行
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ひきなみ

2022-05-20 22:56:48 | 小説
 父親が挫折してこころの病を持ちそれに付き添う母から瀬戸内海の島の祖父母の元に預けられた小学6年生の桑田葉が、男と女が別々に集まり女が男の顔色を窺う村社会になじめず、祖父にも祖母にも打ち解けられない中で、孤高を保つ同学年の少女桐生真以に憧れと友情を感じつつ裏切られた思いを持つ第1部と、20年近く経ち飲料メーカーに勤め広報を担当しているが部長から嫌われて圧迫され続ける中で真以を探す第2部からなる小説。
 男社会の中での女性の息苦しさをテーマにしているんだとは思うのですが、あまりにわかりやすすぎる露骨な男尊女卑的な言動が、ちょっと今どき…と、わざとらしく感じたり、葉の姿勢がここまで父親を嫌いすべてを父親のせいにできるものか(まぁ小学6年生って、父親を嫌う年頃ですが…)、自分を引き取って面倒を見てくれる祖父母にここまで感謝の気持ちも感じず自分の感情だけで動けるものか(まぁ子どもだから仕方ないか…)と思うところなど、素直に乗って行きにくい印象でした。葉と同い年ながら、子どもの頃から試練をくぐり抜けたこともあって、大人びた真以の様子には、いじらしく思い、素直に共感を持てるのですが。
 タイトルの「ひきなみ」は、「引き波」ではなくて「曳き波」のようです。私は、引波と読んで、最初は津波の話かと思ってしまいました。「しきなみ」と見間違えて/読み間違えて(江戸っ子だってねぇ)アスカ・ラングレー外伝と思う人はいないでしょうけど…


千早茜 株式会社KADOKAWA 2021年4月30日発行
「小説 野性時代」連載
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これってヤラセじゃないですか?

2022-05-19 21:37:09 | 小説
 情熱的でまっすぐな大城了と天才的な企画力を持つが人前で話せない乙木花史のコンビ(園原一二三)が放送作家として育っていく放送業界青春小説。「これでは数字が取れません」の続編。
 シリーズ2作目のこの作品は、音楽番組を舞台に、26歳にして音楽番組では圧倒的な評価を得ている凄腕放送作家宝生真奏との対立が軸となります。
 2作続けて、凄腕の放送作家ながら本人は自分には才能がないとコンプレックスを持ち本当にやりたいことを抑えて数字をたたき出していて、それが暗黒面を作っていたが、大城の「純粋な熱さ」にほだされるという展開で、読み味はいいと思いますが、このパターンで続けられるのかなという疑問を持ちました。
 才能とは何か、その仕事が好きということの意味の問いかけも通しテーマのように思え、考えさせられます。


望月拓海 講談社文庫タイガ 2021年11月16日発行(文庫書き下ろし)
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これでは数字が取れません

2022-05-18 22:27:47 | 小説
 沖縄の底辺高校卒ガテン系で熱くなりたい大城了と天才的な企画力を持つが人見知りが酷く人前で喋れない乙木花史が、日本一売れている放送作家韋駄源太が主宰する「韋駄天」で知り合い、放送作家は作家じゃねぇ、放送作家の仕事は局員の手伝いだ、生き残りたきゃクライアントの犬になれという韋駄に反発して独立し、「日本一の放送作家」を目指して奮闘するという放送作家青春小説。
 元放送作家の作者による業界内幕ものの趣が読ませどころでしょうか。
 シリーズ1作目のこの作品では、バラエティ番組を中心に、大御所の韋駄と新人大城・乙木コンビ(園原一二三:「藤子不二雄」みたい)の対立が軸となります。
 親切すぎる韋駄の元弟子直江ダークや、切れのいい芸人小山田ライト、極道役の「危険な俳優」大河内丈一など、さまざまなキャラが立っていますが、私としては、序盤で登場した元伝説の銀座No.1ホステスの文ちゃん=乙木花史の祖母にもっと活躍して欲しかったと思います。


望月拓海 講談社文庫タイガ 2021年9月15日発行(文庫書き下ろし)
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最後の講義 完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ

2022-05-17 20:37:00 | 人文・社会科学系
 NHKが「もし今日が最後だとしたら、何を語るか」という問いの下に講義を行わせるという番組で、著者が講義を行って2021年3月に放映されたものをベースに出版した本。
 タイトルを見ると、東大の退官講義かと誤解しますが、全然違います。
 2019年の東大入学式の祝辞で著者が述べた「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」というのは、円熟の域に達した著者がたどり着いた境地かなと思います。「別に女は男みたいになりたいわけじゃありません。『男のようになる』ということは、強者、支配者、抑圧者、差別者になることです。女はそんなことをちっとも望んでいません。男も、過去には弱者だったし、いずれは弱者になります。フェミニズムは弱者が強者になりたいという思想ではありません。弱者になっても安心できる社会をつくることが、わたしたちの目的です」(134ページ)と、女が、男が、フェミニズムが均一な特定の誰かが代表できるようなものとして論じるのは、レトリックであり、また自負ではあるのでしょうけれども、そう突っ張らなくてもいいんじゃないかなと感じました。
 講義を起こしたものなので、さらさら読めて、著者の生き様に触れ(クリスチャンファミリーに生まれたけど、思春期に父に背いて教会を離れ、祈ることを自分に禁じたんだとか:140~141ページ)、著者の振り返る過去から現在を知ることができ、著者に関心を持つ読者にはお得な本です。


上野千鶴子 主婦の友社 2022年3月20日発行
『最後の講義 上野千鶴子」NHK 2021年3月放送
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ビジネス心理学の成功法則100を1冊にまとめてみました

2022-05-16 20:40:06 | 実用書・ビジネス書
 どこかの編集者が「ビジネス心理学の第一人者」と勝手に書き始めたものを変更するのも面倒なのでそのまま著者略歴に使っている(229ページ)という著者が、「すべてのネタが心理学の専門雑誌に発表されている論文に基づいています。本の後ろに『出典(参考文献)』をつけておきましたので、それが証拠です。インチキなサイトには、これがありません」(4ページ)として、どの記事がどの文献に基づくのかを素人にはおよそ判断できないリスト(232~235ページ)付きで、100項目の見出しをつけて、人間にはこういう傾向があるよという紹介とコメントを並べた本。
 心理学的な基礎/根拠に関しては、実験の内容やアバウトな条件、サンプル数が時々言及されているだけ(全然触れていないものが多数)で、その実験でそういうことを結論づけてよいかを検討できるような具体的記述はなく、そこは気にしないことにして世間話として受け止めるという本だと思います。1項目見開き2ページかせいぜい3ページで、言われていることも特に意外性のないありがちな話ですから、もともと軽く読み流すものでしょうし。
 「スターバックスのコーヒーがおいしいと思う人は多いと思うのですが、それはおいしいコーヒー豆を使っているからではなくて、『儀式が多いから』ではないでしょうか」(80ページ)とかは、感性としては支持したい気がしますけど。


内藤誼人 青春出版社 2022年3月20日発行
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心理学論文の読み方 学問の世界を旅する

2022-05-15 22:19:02 | 人文・社会科学系
 心理学をこれから学ぶ大学生向けに心理学論文の探し方、読み方を説明した本。
 発達心理学を専門とする大学教授の著者が、「心理学のどの分野の論文でもスラスラと読めるわけではありません。領域が異なる研究分野だと、知らない心理学用語が出てきて、理解できないことがあります。研究の手続きがわからなくて、戸惑ってしまうこともあります。心理学の専門家だからといって、心理学のすべてがわかっているというわけではないのです」と言っている(6ページ)のは、「わかる」のレベルの問題はあると思います(専門家であればあるほど、本当にわかっているのでないと、自分はわかっていないと言うでしょう)が、なるほどと思います。
 さらに、「他の学問分野の論文を読むときには、その戸惑いはさらに大きくなります」として、「教育学や社会学の論文には、本文中に注が付けられていることが多々あります。心理学では、そのような注を用いることはほとんどありません」(6ページ)というのは、ちょっと驚き。学問分野/業界によって、作法が大きく違うということですね。
 日本語の論文で、結果を述べるのに「○○と考えられた」「○○が見いだされた」「○○と推測される」などと受動態で書かれているのが多いのは、論文では「私は」という主語を使わないからで、英語では私( I )を使わなくても、例えば This result suggests …とか、This Figure says …とか能動態で書けるが、日本語で私はを使わないと受動態になってしまう、その結果、主張が弱い/積極的でない印象となり、「日本語で受動態を用いて論文を書いていると、自分がその結果を見出したという意識が薄れていくような気さえする」と述べられています(166ページ、38ページ)。「と思われる」とかいうどこか自信なさげな文章が多いのは、日本人が謙虚だからではなく、日本語が、「私は」を主語にしないとそういう文章になってしまうという性質のためだったんですね。新発見です。
 心理学に限らず、勉強/学問の始め方という趣の優しげな文章で、読んでいて少し初心に帰る思いをしました。


都筑学 有斐閣アルマ 2022年2月25日発行


 
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絶景の成り立ちを学ぶ

2022-05-14 12:20:24 | 自然科学・工学系
 インスタ映えする世界各地の絶景について、それができたり出現する構造・原因を解説した本。
 グランドキャニオンやギアナ高地等の大規模な造山運動と浸食による地形についてはさまざまな本で読みましたが、この本では恒常的に「ある」絶景だけでなくて変動しつつ出現するものも紹介されていて、そちらが目新しい感じです。
 アタカマ砂漠が数年に一度「花咲く砂漠」になる(108~111ページ)話など、私にはただ世界で最も乾燥した砂漠(プレインカのミイラ文化を育んだ)という認識のアタカマ砂漠でエルニーニョの時には大量の降雨があって一斉に花が咲くと聞くと驚きで、108~109ページの写真などショッキングでした。
 ワイトモ洞窟の天井の銀河のような光の帯の正体。「ツチボタル」と呼ばれる正式名称は「ヒカリキノコバエ」という「実は蚊の一種」(124ページ)って、いったい何なんだと思う。何故にそういうややこしい名がつくのでしょう。
 それぞれの説明が見開き2ページ、多くても4ページなので、踏み込んだ説明はなされませんが、美しい写真を見ながらほどほどに納得できて知的好奇心を刺激される本です。


山口耕生 世界文化社 2022年2月20日発行
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税理士も知っておきたい実例から学ぶ同族会社法務トラブル解決集

2022-05-13 21:39:54 | 実用書・ビジネス書
 中小企業、同族会社での紛争に関して、参考になりそうな判例について、事例と裁判所の判断を紹介してコメントした本。
 ふだん、個人の依頼者からだけ受任し、会社の経営者間の覇権争いとかは相談も受けない私には、自分ではなかなか調べてもみない領域の判例を読めて勉強になりました。
 必ずしも、中小企業・同族企業の事案でなく、この判決の趣旨を中小企業法務でどう活かすべきなのかはよくわからないものも見られますが、それは連載を続ける中でのネタ切れという側面があるのでしょう。
 デパートのビル内のテナントのペットショップの行為についてデパートが名板貸し(デパートの一部であるかのような営業を許していた)責任を負うかについての判決(最高裁平成7年11月30日第一小法廷判決)の判断を整理して紹介する表(131ページ)の記載は、何か別の判決と取り違えているものでまったくの誤り(誤記)です。
 タイトルは、月刊「税理」の連載記事を出版したという事情によるのでしょうけれども、税理士は、税理士だけを読者(購入客)と考えた出版ができる規模(日本税理士連合会のサイトの記載によれば2022年3月末現在全国で7万9887人)なんだと再認識しました。


松嶋隆弘 ぎょうせい 2021年4月30日発行
月刊「税理」連載
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学校では学力が伸びない本当の理由

2022-05-12 20:19:49 | 人文・社会科学系
 年齢に応じ能力別でない集合一斉授業を基本とする現在の学校教育を批判して、児童生徒の能力に応じて多段階のメニューを準備しオンライン授業等を基本として自由に選択できるような教育への改革を提言する本。
 暗記力や我慢強さは努力で向上させられない一種の才能(小見出しでは「遺伝子の強い寄与度」とされています:52ページ)とする評価の下で、認知力の低い児童生徒がまったくわからない授業を我慢して聞き続け、他方で上位の児童生徒が落ちこぼれを防ぐことに主眼を置いた授業で時間を持て余しながら我慢してそこに居続ける現在の学校教育の効率の悪さ、教師の低レベル化と授業準備以外に追われて疲弊する現状、それを促進するモンスターペアレントの威圧、少子化による進学の容易化に伴う学習意欲の低下等が、著者の問題意識、現在の学校教育批判の基礎となっています。
 そういう面はあると思いますが、著者の主張を推し進めれば、能力のある児童生徒は自分とは違う能力や環境等の事情の下にある児童生徒の存在に気づかず、社会においてさまざまな人と事情が存在し物事が簡単には進まないことへの想像力を持たないままに成長していく可能性が高まるように思えます。著者は、学校に通わなくてもアルバイトやボランティアをさせてそこで社会性を身につける方が均質の学校よりも有意義な経験となるというのですが、富裕層ではそれが期待できないことも多いと思います。その点については、著者は「理不尽な社会に出て行くのだから、学校で“プチ理不尽”を味わわせておくべきとするならば、現行の学校は合理的なシステムと言えようが、その過程で大量の被害者を生み出している現状は看過できるものではない」(286ページ)と反論しているのですが。
 そして、オンライン授業の個別選択の主張は、よりよい教師への選択と集中を生みますが、人気のある教師は一方通行の授業しかできない(多人数に対しインタラクティブな講義、質疑・応答など無理ですから)ということに繋がります。オンライン授業の成功例として指導者側のモニター画面に「生徒一人ひとりの表情や作業をしている手元がカメラによって映し出され、やる気や理解度が把握できる」(211ページ)というミネルバ大学の事例を挙げていましたが、自由に選択できるオンライン授業ではそういうことはおよそ無理です。そうなると、結局は、オンライン授業を視聴するだけで質問等をしなくても自力で理解できる能力のある児童生徒だけが実力を伸ばしていけるということなのではないかと思います。
 著者の提言どおりにすれば解決できるのかはわかりませんが、児童生徒と教師をめぐるさまざまな事情に気づかせてくれる本だと思います。


林純次 光文社新書 2022年2月28日発行
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