伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

医療崩壊 真犯人は誰だ

2022-09-18 23:04:41 | ノンフィクション
 世界一の病床大国と言われ、世界に冠たる日本の医療などと自画自賛されていたにもかかわらず、しかも世界的に見て桁違いに少ない感染者数・重傷者数にとどまっているにもかかわらず、コロナ禍が始まって2年以上もたつのに、感染者数が少し増えると医療崩壊の危機などと声高に言われ、入院もできずに自宅で亡くなる(自宅待機という名の下に放置され見捨てられる)コロナ患者が続出し、政府は医療体制の充実は二の次で人流抑制策(自粛要請、国民の自由の制限)にばかり頼り続けるのは何故かという、まったくそのとおり、そこが聞きたいと思う疑問をテーマとした本。
 病床数は世界一だが医師数は少ない(2018年時点で人口1000人あたり2.5人。OECD加盟国平均は3.5人:40ページ)、高齢の開業医による民間小規模病院が多くそのような病院はコロナ患者を受け入れにくいし受け入れない、大病院にコロナ重症患者を集中させてコロナ患者以外や軽症コロナ患者は中小病院に移すことが効率的だが、大病院もコロナ重症患者を受け入れているところは少なく東京大学医学部附属病院でさえコロナ重症者病床はわずか8床しか確保されておらず(82~91ページ)、病院間の連携・協力関係が決定的に不足していて(商売敵なわけですから)患者の転院・移送・配分がうまくゆかない(100~116ページ)などが指摘されています。
 政府のガバナンス不足については、「おそらく多くの読者が想像していた通りの『本命』の容疑者」(138ページ)、「まさに『主犯級の犯人』と言えるでしょう」(153ページ)とされているのですが、今ひとつ追及に情熱が感じられず、手ぬるい感じで、読んでいて溜飲が下がらないというか納得できない感が残ります。最初の緊急事態宣言の際に、人流抑制で感染拡大が自然に治まることは考えられず、あくまでも医療体制の崩壊を防ぎ医療体制を充実するための時間を稼ぐことが目的だと言っていたのに、その後どんなに時間がたっても医療体制の充実を進めず、いつまでたっても外出制限・行動制限などの国民の権利を制限することだけに血道を上げる政治家と官僚は、医療体制の充実などまったくやる気がなく、ただ国民の権利を制限する権力を行使したい、国民が権利制限に慣れてくれれば自分たちに都合がいいと思っているのではないかと、わたしには思えてなりません。政府の審議会委員等を務めている著者に政権に対して厳しい発言を求めるのは無理なのかと思いますが、せっかくこのような問題意識を持って本を書くのなら、政治家と官僚はもっと手厳しく評価して欲しかったと思います。


鈴木亘 講談社現代新書 2021年11月20日発行
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ニュートン式超図解 最強に面白い!!理科

2022-09-17 22:17:19 | 自然科学・工学系
 中学と高校で学ぶ理科(生物、化学、物理、地学)の重要項目を1冊に凝縮したという本。
 生物、化学、物理、地学を各11~12項目見開き2ページ(それも半分はイラスト!)の分量で概説しようという意欲的な(ふつうに考えれば無謀な)企画です。これだけわかればいいんだ!と、そうか、それでいいんだと感激できればいいんですが、う~ん、どうだろう…
 動物の分類の項目(5ページ)で、「脊椎動物は、五つに分類される」という見出しと「『恒温動物』は、体温がほぼ一定」という見出しがあるのですが、恒温動物の体温が一定だということは最初の項目(脊椎動物は、五つに分類される)の中に書かれていて、後半の『恒温動物』は体温がほぼ一定の項目には、恒温動物のことは書かれていません。この部分の中身に合わせたら見出しは「無脊椎動物には、昆虫や甲殻類などが含まれる」の方がいいと思います。見出しを書く人と本文を書く人の連携がうまくいっていないのか、ちょっと気になりました。
 また、79ページの吸盤がくっつく仕組みのイラスト、左側(中央と言うべきか)の吸盤の形状はミスリーディングに思えます。やはり右側がフラットな絵(曲面側が気体分子に押されている絵)にすべきでしょう。


武村政春、今井泉、和田純夫、縣秀彦監修 ニュートンプレス 2022年8月15日発行
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世界の発光生物 分類・生態・発光メカニズム

2022-09-16 23:00:26 | 自然科学・工学系
 発光生物について、バクテリアから魚類までの分類(門・綱・目・科・属等)ごとに発光種の有無、代表的な発光種の分布・生活域、発光の態様(発光する部位、発光の色、発光液の放出の有無等)、発光のメカニズム(発光バクテリアによる「共生発光」か、酵素基質反応(ルシフェリンールシフェラーゼ反応)か発光タンパク質(フォトプロテイン)によるものか、発光物質は餌から得ているのか等)、発光の役割(海生の場合に腹側を発光させることで見上げた海面の明るさと同期して捕食者に発見されにくくするカウンターイルミネーション、捕食者を幻惑したり煙幕として逃げる、発光によってより上位の捕食者に捕食者の存在を気づかせる防犯警報機能、食べてもまずいという警告、求愛等の種内コミュニケーション、餌の誘因、自らの視界の確保等)について解説した本。
 基本的に研究者向けに、これまでの世界中・歴代の研究発表・報告を集大成する形でとりまとめたもの。深海魚など、実物(生存中の)を見た者がいない/ほとんどいない報告例で、その後発光の報告がないものも多々あり、その場合に本当に発光したのかが疑わしいと書くか、報告者が信頼できる人物だから間違いないだろうかと書くか、まさに業界内の人でないと書けない類いの本です。
 網羅的に発光生物と発光に関する各項目が整理されて記述されていて(それも、著者によれば、「書かれていることはどれも、日本語の書籍には一度も登場していない事柄ばかりであることだけは請けあおう」とのことです:20ページ)、学術書として素晴らしいものだと思いますが、専門外の読者には、分類についてのゲノム解析等による近時の再考の反映等の記述の専門的難解さ、発光のメカニズムがわかったものについての化学物質の同定や反応の説明の化学的記述の難解さ、他方で発光の役割については生きたまま捕獲できた場合に周囲の明るさを変化させてそれに応じて腹側の発光強度の変化を観察できた場合のカウンターイルミネーション機能以外は概ね推測にとどまることなどから、読み通すには相当な忍耐力を要します。
 四足動物にはこれまで発光種は見つかっていないが、海生生物ではむしろ発光しない生物の方が少ないのだそうです。バミューダ沖中深層(水深500~700m)の魚類を網で集めて調べた結果その81%の属、66%の種、96.5%の個体が発光種だったという報告もあるとのことです(313ページ)。カリフォルニア沖の表層から超深海までを無人探査船でつぶさに調査した27年分の記録をまとめた論文によると表層から超深海まですべてを平均しても確認された生物個体の76%が発光種であったそうです(同ページ)。生物に対する見方を改めて考えさせられました。


大場裕一 名古屋大学出版会 2022年2月28日発行
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おとなの教養3 私たちは、どんな未来を生きるのか?

2022-09-15 21:45:40 | ノンフィクション
 著者が、日本と世界の未来を考える上で重要なポイントとなると考える6つの問題、気候変動、ウィルスと現代社会、データ経済とDX(デジタル・トランスフォーメーション)、米中新冷戦、人種・LGBT差別、ポスト資本主義について解説した本。
 多くは大体想像できる内容でしたが、やはり知らないことも多々あり、勉強になりました。「スペイン風邪」って、元凶は米軍で、米軍がヨーロッパに広めて各国で大流行し、ただ各国がそれを秘密にしていたのにスペインだけが流行を報道されたために「スペイン風邪」になった(70~72ページ)んですね。冤罪だ、冤罪だ…それから、アメリカでは公式統計では発表されない(公式統計がない)が新聞社やNPO団体の調査によれば毎年およそ1000人が警察官によって殺されている(167~168ページ)って。


池上彰 NHK出版新書 2021年4月10日発行
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母の国、父の国

2022-09-14 22:31:05 | 小説
 今はマサチューセッツ州で弁護士のシャーロットと共に児童福祉・支援団体の電話相談のボランティアをしている日本生まれの黒人女性夏木笑美理が、母親に捨てられ義理の伯母に育てられた日本での少女時代を回想する小説。
 アメリカ東海岸を舞台に黒人女性の語りで始まるこの話を、アメリカではなお根強い人種差別が続いているから…と受け止めると、作者自身、読者がそう受け止めることを期待し、見越していると思いますが、自らの思い違い、思い上がりを恥じ入ることになります。このお話は、徹底して、日本社会でいかに外国人差別、とりわけ黒人差別がなされているかをテーマとして紡いでいるものです。作者もそこから着想したのかもしれませんが、テニスの全米オープンで優勝して大坂なおみが注目を浴びた後のネット世論などの暗いいやらしさを思い起こしました。
 明るく強い子どもだった笑美理が翼をもがれていく様は、人種差別であれ性差別であれ、痛ましく思えます。かなりストレートな固さを持っているため小説として楽しめるかには疑問がありますが、問題提起としては成功していると思います。


小手鞠るい さ・え・ら書房 2022年7月22日発行
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with you

2022-09-13 21:56:27 | 小説
 県下トップの公立高校に進学しそこでも努力を続けてトップクラスにいるできのいい兄を持ち、外に女を作って出て行った父をさほどは責めずに非常勤公務員として市役所に勤めて福祉関係の業務に携わる母にも兄と違って期待されていないと、勝手に僻んで自分だけが不幸だとやさぐれる視野の狭いジコチュウの中学3年生柏木悠人が、夜の公園でブランコに座り沈んでいる少女富沢朱音に関心を持ち夜の公園に通うようになり、朱音が父の単身赴任中に母が病気となったために幼い妹を抱えて家事と看護に追われていることを知り、朱音や周囲の友人たちが自分よりも大変な苦労と思いをしていることを知っていくという展開の青春小説。
 親の病気等のために家庭責任を負わされている子どもたちを「ヤングケアラー」と呼び、その実情と支援の必要性を訴えるため、苦労している朱音ではなく、むしろ恵まれた境遇にいながら僻んでいるジコチュウ少年の視点で語らせるというところが巧みです。
 文庫版のあとがきで、作者は、「『with you』はヤングケアラーをテーマにした物語だと見なされることが多く、それは間違っているわけではないのですが、あえてどんな作品かと一言で言うならば、中学生を主人公とする恋愛小説です」(233ページ)と、もっと恋愛小説として読んで/評価して欲しいと訴えているのですが、ちょっとそう読むには直球の問題提起に寄っていて固い印象があります。恋愛小説と読むよりは、僻み少年の成長物語と読む方がよさそうです。


濱野京子 講談社文庫 2022年7月15日発行(単行本は2020年11月、くもん出版)
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修羅奔る夜

2022-09-12 23:31:03 | 小説
 東京に出てアニメーターになるという夢破れて派遣社員として不満を抱え不安な日々を送っていた工藤紗栄子34歳が、郷里の青森で畳職人をしながらねぶた師として大賞を目指す兄春馬が脳腫瘍を患ったと聞き青森に戻って、ねぶた制作を続けると言い張る春馬を手伝い、次々と降りかかる問題に翻弄されつつ対応して行くという生きがい発見小説。
 春馬が、正義は阿修羅の側にあるが阿修羅が相手を許す心を失ったがために天界を追われたという挿話をテーマにする理由を聞かれて、「ネット大衆は、目立ちすぎた者や何かに失敗した者、つまり攻撃対象を見づけると、皆で情け容赦なく攻撃すべ。集団で石を投げづけで、自分たちは正義の側にいると確かめ、安心すとる。つまりネット社会は複雑性を嫌い、善悪の二元すかねえ。だはんで、もっと相手を許す心を持だねばなんねと主張すだいんだ」と答える(47ページ)ところに作者の思いが表れているということでしょうか。
 全編青森弁が飛び交うこの作品を読んで作者のプロフィールを見ると横浜生まれで早稲田大学卒業というのは…


伊東潤 徳間書店 2022年7月31日発行
「読楽」連載
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目からウロコ マンション管理のトリセツ [改訂版]

2022-09-11 22:31:32 | 実用書・ビジネス書
 マンション管理業界では標準管理契約書を多少リメイクしているだけなので管理業務のサービスはどこの管理業者でも大して変わらない、大手の方が人件費が高いだけ、そしてマンション管理業務自体はさほど儲からないので管理会社は大規模修繕工事を自ら請け負うことで儲けており、マンション住人・管理組合はする必要もない大規模修繕・計画修繕を管理会社のいいなりで高い工事代金を払ってやらされている、もっと法令や業界の実情を勉強すればコストを下げてよりよい管理・マンションライフを送ることができるのに…というようなことを述べる本。
 タイトルからは、もっと実務的な解説を期待しましたが、どちらかというと少しだけ断片的に書かれている著者がマンション管理士となりNPO法人(マンション管理者協会)を立ち上げて管理会社と戦い失敗し敗れた経験談の方が読みでがあるかも。もっともそこはあまり詳しくないので、読み物としてはそちらのエピソードを深めてくれた方がよかったかなと思いました。
 管理会社への批判はよくわかるのですが、他方でではどうすればいいのかというと、著者が代表のNPO法人ではこうしている、こちらにお任せあれと言われると、実際にそれが良心的にやられているのかもしれませんが、どこかセールスの匂いを感じてしまいます。


増永久仁郎 幻冬舎メディアコンサルティング 2022年6月29日発行(初版は2020年1月:幻冬舎ルネッサンス新書)
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ありのままの自分に気づけばうまくいく 夫婦と家族の「心の傷」の癒し方

2022-09-11 00:12:18 | 実用書・ビジネス書
 臨床心理士である著者が、夫婦のコミュニケーションの問題解決について論じ説明した本。
 タイトルは一世を風靡した『アナと雪の女王』の Let it go よりは、著者の、夫婦間の相手の真意や状況についての誤解/無理解からの悪循環を断ち切るために、まず相手を変えるというのは無理なので自分が変わろう、その一つのバリュエーションとして素直な自分を知り、それを見せようというあたりによるものかと思います。
 男は弱音を吐けず、また問題は対話によってではなく能力で解決するものと信じているので悩みを相談しない(66~67ページ)、子どもは親が幸せになることをいつも願っており夫婦間に問題があるときに子どもが問題行動を起こすとそれで夫婦が一致団結してそれを解決しようとするので子どもは問題を起こすことで両親の危機を救おうと無意識に目論んでいる(70~71ページ等)、心の傷を癒やそうとするのではなく心の傷も含めて相手を受容することが大事(130~132ページ)など、一概にそう言えるかに少し疑問を残しつつも、そういうものかもと思います。
 とりあえず変えられる方から変えていく(167~168ページ)という著者のアプローチは、一面で大丈夫かなとも思いますが、それが実践というものともいえます。
 ストッキング・フェチで、ずっと妻にストッキングをはいて欲しいと思いつつ言えなかった夫の話(192ページ)。微笑ましいというべきか、身につまされるというべきか…


石川裕理 地道出版 2021年6月22日発行
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きときと夫婦旅

2022-09-09 22:18:13 | 小説
 子どもがいないときには夫とは挨拶もなし、会話は最低限の連絡事項のみ、まともに目を合わせることもしばらくしていないという家庭内別居状態の全国チェーン書店本部勤務の47歳安納みゆきと、1歳年上の出版社で書店営業をしている夫安納範太郎が、中3の息子昴が学校をサボって富山に引っ越した小学生時代の友人の元を尋ねたことを知って慌てて連れ戻しに行くが、息子から今来たらもう絶対帰らない、来るなら日曜日にしてくれと言われて、仕方なく富山で観光をして過ごすという展開の小説。
 倦怠期の夫婦関係を扱いつつも、実質富山観光紹介のような作品ですが、範太郎が濃い鉄道ファン(その同僚の尾形は輪をかけて濃い鉄ちゃん)という設定で、取り上げる観光スポットが鉄道ファン目線の独特のものが多く、興味深くもあり、ついて行けなくもありという感じでした。少し前まで、富山地裁の事件を抱えていたので、そのときに読んでいれば、観光の一つもする気に…なったかな。


椰月美智子 双葉社 2022年7月30日発行
「小説推理」連載
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