伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

お役所仕事が最強の仕事術である

2022-09-08 21:44:39 | ノンフィクション
 公務員歴30年余の著者が、どれだけミスをせず責任を取らずに済むか、減点主義社会でトラブルやクレームを乗り越えて生きるための公務員の話し方、交渉術等を解説した本。
 資料作成にあたり、A4判1枚でまとめ、冒頭で全体を把握させる概要と、資料の目的、相手にして欲しいことを書き、次いでその理由等を論理的で簡潔にまとめ、ビジュアルも活かして一読してわかるようにする(60~63ページ)。国会議員向けの説明資料を作るとき、そういうふうに作れといわれた記憶がありますが、議員に限らず役所の上司や住民向けにもそうすべきだということなんですね。
 話す時間を聞き手が不快を感じない程度にする(42~45ページ)というのは、なるほどと思います。興味のない話を長時間聞かされるのは苦痛ですし、忙しいのに長々と会議をするなということはあるでしょう(しょっちゅう思う)。他方であまり短いと呼んでおいてそれだけかと怒られる。もっとも、時間設定を決められるということ自体、自分が主催者側、呼びつける側だからとも言え、それ自体役所の論理と感覚なのかもしれません。
 モンスタークレイマー対応も、じっくりと聞き取り、順次対応者を変え、気力を削いでいく(何度も繰り返し説明をさせガス抜きをさせ疲れさせ興奮を冷ましていく)、いつまでも帰らないときは結局は警備担当者、最後は警察に任せるというところにとどまっています(160~171ページ)。役人の経験からもっと踏み込んだ解説があるのかと期待しましたが、組織(人員)とたっぷり使える時間、最後には実力行使/警察力があって成り立つ話では、民間人、特に私のような個人自営業者には参考にはなりません。役所が相手だからと無理難題をふっかけるクレイマーに対応させられることがままあることには同情しますが、そういったリソースが潤沢にあるのは羨ましいなぁと思います。


秋田将人 星海社新書 2022年4月25日発行
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ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉

2022-09-07 20:59:26 | 物語・ファンタジー・SF
 アーキタイプと通称される「シミュレーション上は安定して存在するが、現実世界での合成方法は不明」な分子により構成され、尋常ではない速さで進化・変化して行く、既存の生態系とは異なる系統/傾向の怪獣たちが次々と現れるという設定のSF小説。
 最新の宇宙論に依拠しているのか、その議論の雰囲気を利用しているのか、その議論をパロディ化しているのか、私には判断しかねますが、難解・晦渋(かいじゅう)な文章が続きます。怪獣の話だけに…なんちって、とかいう雰囲気ではありません。
 プロローグから、たとえば「《それ》は絶えず自らのはじまりをはじめ、自らの終わりを終わらせ、はじまりをはじめることを終わらせ、終わりを終わらせることをはじめ続けていた」(8ページ)とか、「それは、《それ》にとって終わった過去で、知らない過去で忘れた過去で、起こりえなかった過去であり、これから起こる過去だった」(9ページ)みたいな文章が続いています。このあたりでもうクラクラしてしまう人には、辛い作品です。やたらと指示代名詞が多い文章を、健忘が進んだ老人との会話には慣れていると思って読めれば大丈夫かもしれません(違うか)けど。


円城塔 集英社 2022年7月31日発行
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寝ても覚めてもアザラシ救助隊

2022-09-06 21:23:36 | ノンフィクション
 子どもの頃からアザラシに夢中で、日本で唯一のアザラシ保護施設「オホーツクとっかりセンター」(紋別市)の飼育員となって10年の著者が、アザラシの飼育と保護の経験を語った本。
 子どもの頃からアザラシ一筋の著者がやりたい仕事に就く、夢を叶える物語としても読めますが、やはりこの本は基本的にはアザラシに癒やされる人向けです(私も、水族館等でアザラシをボーッと眺めているのが好きなもので…)。
 とっかりセンター(とっかりは、アザラシのアイヌ語だそうです)ではゴマフアザラシが多くなりすぎてオスとメスでプールを分けているけれども、そうするとオス同士、メス同士の恋が始まる、なぜかオス同士では相思相愛のペアが多いがメス同士ではほとんどの個体が片思いだとか(162~163ページ)。ワモンアザラシのペアは、オスがメスの尻に敷かれることによってうまくいくようになっているのではないかと思う(168ページ)など、たまに眺めているだけではうかがい知れないアザラシ事情が興味深い本です。


岡崎雅子 実業之日本社 2022年6月10日発行
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プリズム

2022-09-05 22:48:42 | 小説
 ソウル中心部の繁華街のビルの13階の玩具メーカーに勤務する27才のイェジンと、イェジンがランチタイムにテイクアウトのコーヒーを飲む空きテナント脇の階段スペースをやはりひとときの憩いの場にしていた同じビルの地下のスタジオで映画の音響ミキシングの仕事をしている元ミュージシャン35才のドウォン、パン屋でバイトを始めて数か月の25才の人付き合いに醒めた25才のホゲ、別れた元夫とセックスパートナーのそれだけの関係を続けるパン屋の店主34才のジェインの4人の絡みあう1年を、夏・真夏・初秋・冬・早春・夏の6つに切り分けたそれぞれの視点からの各4パート合わせて24のパートで描いた小説。
 最初の4パートの「夏」で、いずれも共感しにくい4人の様子に疲れ、読み進めるうちにそれなりに人となりや背景が描き込まれて馴染んでいくものの、まぁ小説なので読み始めたらこの人たちはどうなるのだろうという関心は持ちつつ、何となく最初の「夏」でおおかたの流れが見えてしまう感じがして、そういう予想に沿った展開が心地よいかどうかで好みが分かれるかなぁと思いました。


ソン・ウォンピョン 訳:矢島暁子
祥伝社 2022年7月20日発行(原書は2020年)
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この1冊で「考える力」が面白いほど鍛えられる!思考実験BEST50

2022-09-04 23:59:57 | 趣味の本・暇つぶし本
 さまざまな思考実験を紹介し、思考実験を通じて、観察力、発想力、論理的思考力を無理なく、自然にトレーニングできる方法を紹介する(6~7ページ)という本。
 思考実験として歴史的に有名なもの(アインシュタインの相対性理論に関するものとか、シュレディンガーの猫とか)とともに、思考実験というよりもクイズ本でよく見るような頭の体操的な問題も並べられ、「BEST50」という選択の基準はまったく不明ですし、紹介した思考実験での論理的考察についての踏み込んだ説明は乏しく、羅列的な紹介にとどまっているように思えます。「思考実験」を売りにするのであれば紹介する思考実験をもっと絞って1つ1つを丁寧に解説した方がいいし、思考実験と位置づけるには無理があるクイズの類いは捨てるべきでしょう。
 思考実験や練習問題で、読者に向けて質問がされているとき、設問の前提や質問の趣旨があいまいにされているために解答にたどり着けないという印象を持つことが度々ありました。論理的に考えさせることよりも、読者が用意されている解答をできないことを重視しているのかなと思いました。
 そういうことを真面目に受け止めずにパラパラと雑学的に読むことが期待されているのでしょうね。


笠間リョウ 総合法令出版 2022年7月22日発行
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こんな日のきみには花が似合う

2022-09-03 23:54:36 | 小説
 8月7日に花火をして告白した湯乃渚が名草かえと付き合った日々を、日記のようなポエムのようなスタイルで綴ったもの。
 恋する純情男子の心情と、熱々カップルの行いの描写が微笑ましく、読んでいてもほんわかした幸福感を味わえます。おうちデートでゲームで対戦し負けた方がキスをする:勝っても負けても結局キスする(17ページ)とか。頭を洗いあうときに「かゆいところはありませんか?」と言いあって、「下半身がかゆいです」というカレシ(67ページ)も…
 ベッドの下にパンツ(下着の)穿き忘れて帰る彼女って(39ページ)実際いるものだろうか。
 冒頭に「湯乃渚と名草かえが歩んだ一年の記録」と書かれているのですが、微妙に1年より長い。エンドから1年遡ると、それは(その言葉はないけれど、流れからして明らかに)初Hの日。やっぱり、そこからカウントですか…(*^_^*)


蒼井ブルー NHK出版 2022年6月10日発行
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暮らしのムダをなくす がんばりすぎない家事の時短図鑑

2022-09-02 20:17:00 | 実用書・ビジネス書
 家事を効率的に行うための気構えと道具立て、住まいの設計等を提案する本。
 ムダをなくす、時短とうたっているのですが、それよりも家事を気持ちよく行うための心がけや準備の方にポイントが置かれているように思えます。
 例えば「そのひと時の手軽さのために、長いスパンでの使い勝手を見落としてしまわぬように素材を選ぶ必要がある。手入れが面倒だと敬遠されがちな自然素材は、磨けば味もツヤも出る。工業製品より高価な場合も多いが、手入れをして使い続ければ長持ちするので、トータルで見れば安価とも言える」(126ページ)、「住まいをていねいに扱うと、器や家具をはじめとする身のまわりのものへの意識も高まり、本物と暮らしたくなる。そしてそれらを扱うことで、所作もていねいになる。ラクをすることで手放すものの代償は大きい。時間に追われるギリギリの生活を見直して美しく暮らしたいものだ」(135ページ)というあたりに著者の基本的な志向が表れています。家事についても、「毎日拭く、という小さな手間の積み重ねがきれいな床を守る。それはまわりまわって、自分をラクにすることでもある」(68ページ)といった具合。そういう方向性に共感し憧れるか、自分にはムリと思うかが評価の分かれ目となるでしょう。
 著者自身が描いたイラストもほのぼのとして、読んでいると、自分でもそういう生活をしてみたい、リタイアしたらそういうのもいいなぁと思えてくるのですが、実行するには、生き方についての意識も含めてけっこう決意を要しそうです。中途半端にマネしようとしていろいろ買い込んだ挙げ句に放り出すのが関の山という感じがして、そういうところが「キケン」な本かなと思います。
 気持ちよく家事を行う、効率的な動線を実現するための住まいの設計・リフォーム案が随所に見られるのは、一級建築士の著者ならではのアイディアの提案でもセールスでもあるのでしょう。
 そういう点も含めてみても、パラパラとめくるのに楽しく、手元に置いてみたい本です。


田中ナオミ エクスナレッジ 2022年2月2日発行
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儀式をゲームの理論で考える 協調問題、共通知識とは

2022-09-01 00:16:01 | 人文・社会科学系
 人は他の人々が支持するものを支持しがちであり、人の行動を動機づけるのは、自分が受け取ったメッセージを他の人びとも受け取っただけではなく他の人びとがメッセージを受け取ったということを他の人びとも知っているということを知ること、他の人びとの知識についての知識/メタ知識/共通知識である、その共通知識を作り出す優れた方法/過程が式典や集会などの公共的儀式であることなどを論じた本。
 著者は、政府への抗議行動への参加の動機付けとして、誰もが逮捕されたり警官に制圧されたりしないくらいに抗議者の数が多い場合だけ政府への抗議行動に参加したいと思っているかもしれない(5ページ)、「協調問題」と呼ばれる状況下では他の人びとも同じように参加する限りにおいて自分もある共同的行動に参加したいと思っている(12ページ)、体制に反抗することは協調問題である(16ページ)などと、反体制運動作りを志向するかのような雰囲気を漂わせています。しかし、この本で挙げられ論じられていることの多くは、むしろ権力者が人びとの支持を得熱狂させ反抗など思いもよらぬ体制を構築する様であったり大企業のマーケティングであったりで、私にはそれほど志のあるものには見えませんでした。
 著者は、協調問題では「他の人びとの知識についての知識」(5ページ)、「他の人びとが知っているということを人びとが知っていること」(13ページ)、「集団の中で、ある事象あるいは事実について、皆がそれを知っており、皆がそれについて知っていることを皆が知っており、皆がそれについて知っていることを皆が知っていることを皆が知っている」(14ページ)ことが大事であり、ポイントになることを繰り返しているのですが、著者自身の言葉が足りないのか翻訳の問題なのかわかりませんが、違うだろうと思います。行動あるいは行動しないことの動機付けには、他人が何を「知っているか」の知識ではなく、他人がそれを受けて何を考えているかの評価とどう行動するかの予測、それが自分の考えと一致するのか一致しないのかが問題であり、それを言葉以外からも判断・評価するために多数の他者が目の前にいる状況=集会、行進、「内向きの円形構造」(42~46ページ)、公共的儀式が重要であり有用なのでしょう。著者が言っていることもそういうことに思えるのに、まとめる言葉は「知識」「メタ知識」「共通知識」というどこかズレたところにフラストレーションを持ち続けました。
 この本の原書は2001年に出版され、それが日本でその年のうちに新曜社から出版され、アメリカで2013年に「2013年版へのあとがき」が付されただけの2013年版が出版され、そのアメリカの2013年版に「新版へのまえがき」が付されただけで日本でみすず書房が改題した新訳本として出版したものだそうです。つまり中身は2001年に出版されたもののままとのことです。これを今出版することの意味はどこにあるのでしょう。SNSがなかった頃に書いたものを、「2001年に先取りで考察していた本書を、新たに『序文』『あとがき』を加えて刊行する」(裏表紙)よりも、SNSが、LINEの既読が、Facebookのいいね!が、Retweetが、著者の言う「メタ知識」「共通知識」の形成にどう影響するのか、著者が重視したアイコンタクト、「私たちは経験的に、共通知識が顔を向き合わせて会うことによって形成されることを知っている」(100メージ)という認識が変更/変容されるのか、SNSが代替しうるのかについて論じるべきではないのか、この状況で著者がなぜ無害な短いあとがきやまえがきしか書こうとしないのか、訝しく思います。


原題:RATIONAL RITUAL : Culture, Coordination, and Common Knowledge
マイケル・S-Y.チェ 訳:安田雪
みすず書房 2022年6月10日発行(原書は2001年)
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