伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ヤドカリに愛着はあるが愛情はない

2022-12-21 23:23:50 | 自然科学・工学系
 オス間闘争を中心としたヤドカリの行動生態学を専門とする著者の主として学生・修士・博士課程でのヤドカリ研究の経緯を綴った本。
 タイトルは、ヤドカリ研究をしているからヤドカリ好きなんでしょと「誤解」されている著者が、自分はヤドカリに対して愛情は持っていないと宣言する趣旨だそうです(はじめに)。ヤドカリが交尾相手や貝殻に対して愛情を持たないという趣旨かと誤解して、そんなのどうやって確かめたんだろうという興味で手に取った私にはちょっと残念でした。
 ヤドカリ研究者の業界では、ヤドカリの貝殻選択、貝殻闘争が中心的なテーマで、交尾のためのオス間闘争はほとんど研究例がなかったとか。その研究のために、交尾前にメスを鋏で貝殻部をつかんで持ち歩くという性向のあるヤドカリのペアを捕まえてはガードを外して他のヤドカリとペアリングさせたり、使わない片割れはペアから引き離して放置したりと、ヤドカリの恋路を邪魔することにかけてはかなり経験を積んだと、著者は自負しています(はじめに)。
 海外の論文査読者から倫理面で問題視されたことが記されていますが、確かに、ヤドカリ好きの人が読んだらヤドカリがかわいそうで耐えられないかもしれません。
 著者はすでに博士課程修了から6年を経ていますが、この本ではほぼ博士課程までの研究しか触れられておらず、その後の研究成果が紹介されていないのはどうしてなんでしょう。


石原千晶 海文堂北水ブックス 2022年8月30日発行
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なぜ、その地形は生まれたのか? 自然地理で読み解く日本列島80の不思議

2022-12-20 19:39:02 | 自然科学・工学系
 日本の各地の地形について、その成り立ちを解説した本。
 対象とする地形80箇所の選択は、「選定にあたっては、私が実際に見て感銘を受けたものという前提があります」(おわりに)ということで、有名な景観等が多いのですが、全然知らなかった場所もあり、むしろそういうところが興味深く読めました。
 それぞれについて見開き2ページで、右ページに日本地図上の所在、左ページに原則として写真2枚と周辺のレリーフ(浮き彫り)タイプの地図を掲載するという構成が取られています。写真と地図があるのはいいのですが、「なぜその地形が生まれたのか」という説明の理解のためには、プレート運動や断層運動、噴火やマグマの噴出、地下水等の影響を説明するならば、断面図等に力や流れを書き込んだり、風や多雨、降雪などの影響の場合も断面図や鳥瞰図にそれらを書き込むなどして、そういった説明図というか概念図を1枚付けて欲しいところです。1項目見開き2ページに収めるには辛いところかもしれませんが、その図1枚のあるなしでわかりやすさが全然違ってくると私は思います。そこがちょっと残念だなと感じました。


松本穂高 日本実業出版社 2022年9月10日発行
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特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来

2022-12-19 23:25:16 | 小説
 かつてパテントトロール(自分では事業をする気がない製品の特許を取り特許権侵害だと他の企業にぶつけて金をせびる組織)の側にいたが、中国人弁護士の姚愁林と2人で特許権侵害の主張を受けた企業を守る側の事務所「ミスルトウ特許法律事務所」を開設した弁理士大鳳未来が、人気絶頂のVTuber天ノ川トリィの撮影システムが特許権侵害だという警告を受けたプロダクションの依頼を受けて相手方との交渉に臨むというサスペンス小説。
 作者は元エンジニアで現役の弁理士ということで、CGの撮影技術と特許に関する細部にわたる説明が読みどころです(選評で「話が専門的過ぎ」:265ページ、「唯一の難点が、法律の説明の難解さ」:266ページなどと書かれていますが、いやそこが売りだろうと、私は思うんですけど)。さらに、私の僻目かもしれませんが、弁護士業界で若手に人気の知財領域の業務が、発明者の権利を正しく守りましょうなんていう「清く正しい」ものではなく、現実にはドロドロしたビジネスなんだということが描かれているところが、私には楽しめました。そのあたり、さすが現役の弁理士のなせる技と感じました。


南原詠 宝島社 2022年1月21日発行
2021年このミステリーがすごい!大賞受賞作
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小麦の法廷

2022-12-18 18:38:01 | 小説
 弁護士になったものの就職先もなく事務所を持つ資金もないため「ケータイ弁護士」と呼ばれるフリーランサーとなった25歳の新人弁護士杉浦小麦が、母の知人から依頼された行方不明の相続人捜しと、国選弁護で拾った何の問題もない簡単な事件のはずだった傷害の自白事件に翻弄され奔走する弁護士エンタメ小説。
 行方不明の相続人を見つけて2億円の価値がある不動産を売却するという依頼を、報酬金は売却益の25%というのは、ずいぶんとふっかけたものです。新人にしてそんな請求をするのは度胸があるなぁと、私などは思うのですが、意外に最近の若手で高い報酬を取るケースも耳にします。弁護士を増やして競争を激化させれば報酬が安くなると、司法改革を推進した人びとは目論んでいたようですが、必ずしもそうはならないところは、むしろ爽快感があったりします。
 序盤で、小麦は、弁護士倫理上こんなことが許されるのかと悩む姿を見せますが、後半では明らかにやっちゃいけないことを平気でやっています。父親とともに、アウトロー弁護士というか、「ちょい悪」を超えた、ずぶとい「悪」弁護士、でも憎めないというキャラクターで押してゆく作品かと思います(おそらくシリーズ化)。


木内一裕 講談社文庫 2022年10月14日発行(単行本は2020年11月)
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だからフェイクにだまされる 進化心理学から読み解く

2022-12-17 21:22:40 | 人文・社会科学系
 フェイクに惑わされてはいけないといっても、フェイクは人間の本性に由来する問題でありフェイク情報への対抗は容易ではないことを理解した上でフェイクに対抗する技術を磨いていく必要があると論じる本。
 人間が騙されやすいのは、人類が(地球の寒冷化により森林が縮小し)森林からサバンナ(草原)へと生活の拠点を移したおよそ300万年前から1万年前までの「狩猟採集時代」に、協力生活の必要上、周囲の人の言うことを信じた方が集団の協力が進み生存に有利であったことから、聞いた話はまず本当だと思う「真実バイアス」を抱くようになったが、現代では社会状況が変化しそれがミスマッチとなっているためということが、著者の主張・説明の根幹となっています(44~48ページ、53ページ、54~55ページ、175ページ等)。
 門外漢の素人がこういうことを言うのは恐れ多いことかとは思うのですが、私が基本的に疑問に思うのは、他人の言葉を信用するかとか、思想的な態度・傾向というのは、遺伝するのか、あるいは周囲の言葉に対応する行動パターンや思想傾向は遺伝子に組み込まれている「生来的」なものなのかということです。それが肯定されるのであれば、生存に有利な行動パターンや思想傾向を持つ者が多く生き延びて生殖の機会を持ち人類の多くを占めるに至ったという説明が可能でしょう。しかし、それが遺伝しない、行動パターンや思想傾向は成長の過程で形成される、遺伝との関係でいえば「獲得形質」であれば、それが有利な環境が続いている間は生存に有利な集団内の文化・伝承により構成員が後天的に学ぶことで継承されても、人類の生存環境が大きく変化すればその傾向は継承されないはずで、「ミスマッチ」は生じない(生じても広範囲・一般的にはならない)はずです。「進化心理学」では、他人の言うことを信じる傾向や他人との協力関係を優先する傾向は遺伝する、遺伝子に組み込まれた生来的なものだと考えているのでしょうか。


石川幹人 ちくま新書 2022年5月10日発行
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スウェーデンのフェアと幸福

2022-12-16 23:43:55 | 人文・社会科学系
 スウェーデンの社会・政治制度を紹介し、その情報収集と公開の徹底ぶりなど社会の透明性と、税金の高さとその税金の使途等の監視と公開、社会保障の充実と漏れない支給ぶりを説明した本。
 教育の無償(学費は無料、返還義務のない奨学金等)、年金で十分に安心して暮らせる老後、保育所は4か月以内の入所を国が保証など、スウェーデンの社会保障制度は、それが高い税金とセットであることを踏まえても、いつ聞いても羨ましく思います。情報公開の徹底と少数者が生きやすい社会も、数字の上では税金が低い国とされながら現実には個人には/あるいは個人事業者には消費税や(個人事業者にはさらに個人事業税も)社会保険料(特に医療保険)も合わせればむしろ高課税でありながら社会保障が貧困で老後の安心はほど遠く、とりわけ安倍政権以後情報公開が後退し(開示資料はたいてい真っ黒の「のり弁状態」、都合の悪い資料は保管していないと言い放つ)、都合の悪い報道には平然と圧力をかけ、統計さえ改ざんし、税金はお友達企業の儲けを優先して使い困っている個人には手を差し伸べることはなく、どんな腐敗が発覚しても決して首相は辞めないという日本の政治・社会とは比較するまでもなく溜息が出ます。
 それはさておき、スウェーデンの憲法って、統治法、王位継承法、出版の自由に関する法律、表現の自由に関する法律の4つの基本法によって構成されているんですね(48ページ)。スウェーデンの法律を解説した本をあまり見たことがないので知りませんでした。
 著者は日本からスウェーデンに来て暮らし始めると、①初めはスウェーデンの良いところばかりが目に付き好意的に評価し、②しばらくすると悪いところや不便なところが目につき始め批判的になり、③その後両面を理解するようになるが、多くの人は①か②で日本に帰国してしまい、4、5年滞在している日本人は②が多かったという印象を持っているとしています(204~205ページ)。日本と比べてスウェーデンの不便なところや不快なところを挙げたら切りがないというのですが、そこで紹介されているのは日照時間が極端に短い暗い冬のことくらいです。そんなに陰鬱で辛いものなのでしょうか。
 この本では、パーソナルナンバーに紐付けられた情報収集と利用の徹底が課税逃れを初めとするさまざまな不正を許さず他方で社会保障等の漏れない給付(申請しなくても行政が状況を把握しているので自動的に支給される)の前提となっているとして、肯定的に評価しています(スウェーデンの人びとも概して好意的に評価しているとされています)。日本のような不透明で恣意的な政府とは違うとしても、行政に徹底的な情報収集を許し、個人が管理監視されることには、私はやはり抵抗を感じます。生活の保障と安心の魅力を取ることで、権力からの自由を失ってよいかは、なお考えざるを得ないと思います。


福島淑彦 早稲田新書 2022年9月12日発行
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なぜあなたは自分の「偏見」に気づけないのか 逃れられないバイアスとの「共存」のために

2022-12-14 20:51:42 | 人文・社会科学系
 人種・性別・宗教・性的嗜好等に関する差別的な行動パターンが今なお繰り返されることの原因を(意図的な差別主義者の言動は別として)人が持つ無意識のバイアス(偏見)によるものと分析指摘し、バイアスへの気づきとそれを意識した行動を求める本。
 人が見知らぬ相手を外見・外部に表れた徴表から瞬時に評価判断することは、生存に欠かせない基本的な機能として脳に組み込まれたものだということが、まず解説されています(38ページ、64~65ページ等)。特定の類型的な情報を選択して注視して判断することは、日常でも、また専門的な仕事や趣味を効率的に行うためにも有用だとも(96~97ページ)。
 そして、優位集団に属している者は、その判断における偏見に気付く必要がないので容易に気付かず(100ページ)、自尊心の高い理性的な人ほど自分は公正に振る舞っている、偏見などないと思い続け(54~55ページ)、他方、非優位集団に属している者は他者の些細な振る舞いに気付くことが日々の生存に欠かせないので敏感に感じ取る(99~100ページ)と説明されています。
 バイアスを是正するために研修プログラムで、いかに苦しみ傷ついてきたか、虐待受けたという話を聞かせることは逆効果で非優位集団の人との感情的な溝が拡がるだけでまったく効果がないとされています(224ページ)。偏向していると夢にも思っていない者に対してその偏向を非難しても相手は心を閉ざすだけというのです(277ページ)。偏見は(生存やルーティーンの判断のために)脳にプログラムされているもので誰にでもあり避けられない、従って自分にも当然あるということを認識した上で、だから仕方がないと開き直るのではなく、自分の判断や今相手に持った感情がどこから来るのか、偏見ではないかと立ち止まって考える、また偏見に基づく直観的判断で突き進まないようにさまざまな場面で意識的に検討できるような手立てを準備しましょうというのが、著者のアドバイスになるようです。
 ごもっともな指摘であり、自分を振り返り心がけるべきこととしては、そうだなぁと思うのですが、その偏見に基づく行動(差別、ハラスメント)が裁判の場で問われる場合の対応が業務の1つである者としては、なかなかに悩ましいところです。


原題:EVERY DAY BIAS : updated ed.
ハワード・J・ロス 訳:御舩由美子
原書房 2021年10月25日発行(原書は2020年、原書初版は2014年)
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ソクラテスからの質問 「価値は人それぞれ」でいいのか

2022-12-13 22:14:49 | 人文・社会科学系
 「いつどこで誰が聞いても絶対感動する歌」はあるかというような100%全員が一致して賛同する価値を持つものは存在するかという問い、「美味しい料理が美味しいのはなぜか」といったようなものごとの真の原因(理由)は何かという問い、この2つの問いに答えることをテーマとした哲学の入門書。
 著者は、前者の問いについて、自分が誰もが感動するに違いないと確信している歌を学生約100人に聴かせたが感動したと答えた学生は約80人にとどまった(その80人という数字が学生の著者への遠慮・忖度により水増しされたものではないかを検討もしていないあたり、吟味し続けるのが哲学者だというこの本の主張が実践されているのか疑問に思えましたが)ということを、1名でも反対するなら他の全員に当てはまると言えないと考えつつ、他方でこの約20名はよさに気付いていないだけだ、彼らは何がいい曲なのかということがまるでわかっていないのだとも考えるとしています(30~33ページ)。この例に見られるように、この本の中で、前者の問いは、現実に感動したかという問題(事実)と、本来は感動すべきものであるという問題(価値観)をそのところどころで使い分けているというかごっちゃにしてわかりにくくしているように思えます。
 そして、著者の解説するソクラテスは、知っていること等の概念を通常世間で考えられているのとは異なる極端な現実には不可能なような定義をし(知っているということは実行できるということ、実現できないならば知らないということ等)、それにより相手の主張を否定しつつ、自らが問われれば、自分は無知であるが無知であることを知っている、真実を知ることに向けて吟味し続けることが大事であるということで、端的にいえばどんな主張に対しても反駁否定できるメソッドであり、著者の解説するプラトンは、後者の問いについて料理が美味しいのは「美味しさのイデア」があるからであると答え、そのイデアはむしろ標準的な概念でそれは人が生来的に知っている、思い出せないだけで答は自分の中にあると禅問答のように答えることで、端的にいえばどんな答えもイデアが宿っている、それにあなたは気がついていないだけだと言い張ることで正当化できるメソッドであるように思えます。著者は、ソクラテスとプラトンを、差別主義やホロコーストを支える思想も価値があり尊重しなければならなくなるリスクをはらむ「相対主義」への反論の可能性を切り開くものと評価していますが、その議論自体も観念的な自己満足に陥りかねないように思えますし、著者の議論自体がまた新たなリスクをはらむようにも思えます(著者自身その危険も指摘してはいますが:172ページ等)。
 この本は、「ネム船長の哲学航海記Ⅰ」とされ、3冊のシリーズにすると予告されています。


根無一信 名古屋外国語大学出版会 名古屋外大ワークス 2022年8月31日発行
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基本判例から民事訴訟法を学ぶ

2022-12-11 19:53:58 | 実用書・ビジネス書
 民事訴訟法学上の論点について、主要な学説とその論拠、問題点を概説し、主として最高裁判例を紹介して裁判実務を示し、その当否や残された問題について「課題」を提示するという体裁で解説した本。
 民事訴訟法上の問題は、ふだんあまり考えないんですが(大半の事件では、民法とか、労働事件なら労働契約法とかの「実体法」レベルのことで決着が付くので)、ときどき、あーそういう問題があるのかというように出てくることがあります。弁護士としては、そういうときの備え/嗜みとして判例を読み込むことはとても勉強になります。
 原子炉設置許可処分の取消訴訟において「被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべき」であるのに、安全審査に関する資料をすべて被告行政庁側が所持していることを理由に、「被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである」とした伊方原発訴訟最高裁1992年10月29日第一小法廷判決について、著者自身は「微妙です」「従来の主張・立証責任の理論とは異なる考え方」とし、学説上評価が分かれるとしつつ、批判的な見解が多数紹介されているように感じられます(137~143ページ)。スモン訴訟で東京高裁1974年4月17日決定が別の裁判で別の患者(被害者)から損害賠償請求されている医師の補助参加を認めなかったことについて批判的な見解を述べている(275~276ページ)ことも合わせ、著者は、裁判所が原発訴訟を起こす周辺住民や薬害訴訟の被害者を利するような(国や医師の利益を制限するような)判断をすることには批判的/敵視する姿勢を持っているように見えるというのは、私の偏見/僻目でしょうか。


長谷部由起子 有斐閣 2022年9月30日発行
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シャドウワーク

2022-12-10 21:29:09 | 小説
 DV夫の暴力を受けて救急搬送された病院で出会った看護師間宮路子に紹介されて江ノ島の民間シェルターに逃げ込んで家主の志村昭江の下で同様の境遇の3人の女性たちと共同生活を送る宮内紀子と、警察庁捜査2課のエリートの夫からDVを受けて告訴したために飛ばされた館山警察署で海岸に流れ着いた女性の腐乱死体を自殺処理されたことに納得がいかず調べ続けて上司の不興を買っている刑事北川薫が、物語の進展に従い交差するに至る展開のサスペンス小説。
 DV被害の深刻さ、凄まじさを訴えかける作品なのだとは思いますし、一般読者にはある種溜飲が下がる部分はあると思います。しかし、DV被害者の支援・救済に取り組み、シェルターの運営やサポートに携わっている人たちは、この作品をどんな気持ちで読むのかなぁと、そこが気になりました。


佐野広実 講談社 2022年9月26日発行
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