悪評が立った企業のレピュテーション(評判)改善を業とする著者が、企業の炎上事例を紹介し、悪い対応とよい対応を解説した本。
過去の企業の炎上事例を紹介するなかで、ディズニー公式アカウントの炎上事例を「不謹慎狩り」「自粛警察」という項目立てで、ディズニーは被害者で批判する側に問題があると位置づけている(71~80ページ)ことに、私は強い違和感を持ちました。この本で読むまで私は知らなかったケースですが、ことは2015年8月9日にディズニーの日本公式 twitter アカウントが「なんでもない日おめでとう。」と投稿し、これに非難が集中したというものだそうです。長崎に原爆が投下され今でも毎年慰霊祭が行われ報道されている日に、原爆を投下したアメリカを代表する企業が、被爆国日本の国民に向けて、今日は「なんでもない日」だというメッセージを発したのです。これは「不謹慎狩り」と呼ばれるような単に災害や不幸がある時期に楽しいイベントをするのがけしからんとか自粛しろということとはまったくレベルが違います。この投稿は単に今日は/今日も楽しもうよというのではありません(そういう投稿が批判されたのなら、確かに「不謹慎狩り」でしょう)。大量殺戮がなされた日に、犠牲者の無念と悲しみに思いを至らせ、悲劇を忘れない、繰り返さない/させないと決意を新たにしている人びとに対して、ことさらに今日は「なんでもない日」と言い放つことは、その人びとの思いを否定し踏みにじる行為です。これを批判することが「不謹慎狩り」だと言い、ディズニーを被害者だという著者の姿勢には、私は到底賛同できません。電通やパソナやJTBが利権をむさぼっているのは「まったくの誤解」で、政府や各省庁に無茶ぶりをされているといい(127~128ページ)、「バイトテロ」が発生した企業についてそれが起こるのはバイトが劣悪な労働条件で酷使されているからではないかというのは「根拠のない思い込みによる批判」という(138~139ページ)のも合わせ(大企業でも「昭和的価値観」のシニアなどに対して批判的に述べているところはありますが)、著者のスタンス、センスが表れているところかなと思います。
終盤で、炎上を生じさせた発信者に対する懲戒処分について論じているところは、弁護士の監修もあってか、企業側スタンスの本としてはわりと穏当に書かれていますが、懲戒処分を安易にすると「『不当労働行為』だとして、従業員側から損害賠償を請求されるリスクもある」(276ページ)という記述はお粗末。おそらくは世情言われる「不当解雇」という言葉から、解雇以外の懲戒処分も合わせていうのにそういう表現をしたのでしょうけれど、「不当労働行為」という言葉は労働組合差別や労働組合活動に対する嫌悪による不利益行為を意味するもので、労働組合が絡まない懲戒処分には使いません。せっかく弁護士の監修を受けているというのに、弁護士や労働問題に少しでも造詣のある読者には、この一言で、画竜点睛を欠くものとなってしまいます。
新田龍 徳間書店 2022年11月30日発行
過去の企業の炎上事例を紹介するなかで、ディズニー公式アカウントの炎上事例を「不謹慎狩り」「自粛警察」という項目立てで、ディズニーは被害者で批判する側に問題があると位置づけている(71~80ページ)ことに、私は強い違和感を持ちました。この本で読むまで私は知らなかったケースですが、ことは2015年8月9日にディズニーの日本公式 twitter アカウントが「なんでもない日おめでとう。」と投稿し、これに非難が集中したというものだそうです。長崎に原爆が投下され今でも毎年慰霊祭が行われ報道されている日に、原爆を投下したアメリカを代表する企業が、被爆国日本の国民に向けて、今日は「なんでもない日」だというメッセージを発したのです。これは「不謹慎狩り」と呼ばれるような単に災害や不幸がある時期に楽しいイベントをするのがけしからんとか自粛しろということとはまったくレベルが違います。この投稿は単に今日は/今日も楽しもうよというのではありません(そういう投稿が批判されたのなら、確かに「不謹慎狩り」でしょう)。大量殺戮がなされた日に、犠牲者の無念と悲しみに思いを至らせ、悲劇を忘れない、繰り返さない/させないと決意を新たにしている人びとに対して、ことさらに今日は「なんでもない日」と言い放つことは、その人びとの思いを否定し踏みにじる行為です。これを批判することが「不謹慎狩り」だと言い、ディズニーを被害者だという著者の姿勢には、私は到底賛同できません。電通やパソナやJTBが利権をむさぼっているのは「まったくの誤解」で、政府や各省庁に無茶ぶりをされているといい(127~128ページ)、「バイトテロ」が発生した企業についてそれが起こるのはバイトが劣悪な労働条件で酷使されているからではないかというのは「根拠のない思い込みによる批判」という(138~139ページ)のも合わせ(大企業でも「昭和的価値観」のシニアなどに対して批判的に述べているところはありますが)、著者のスタンス、センスが表れているところかなと思います。
終盤で、炎上を生じさせた発信者に対する懲戒処分について論じているところは、弁護士の監修もあってか、企業側スタンスの本としてはわりと穏当に書かれていますが、懲戒処分を安易にすると「『不当労働行為』だとして、従業員側から損害賠償を請求されるリスクもある」(276ページ)という記述はお粗末。おそらくは世情言われる「不当解雇」という言葉から、解雇以外の懲戒処分も合わせていうのにそういう表現をしたのでしょうけれど、「不当労働行為」という言葉は労働組合差別や労働組合活動に対する嫌悪による不利益行為を意味するもので、労働組合が絡まない懲戒処分には使いません。せっかく弁護士の監修を受けているというのに、弁護士や労働問題に少しでも造詣のある読者には、この一言で、画竜点睛を欠くものとなってしまいます。
新田龍 徳間書店 2022年11月30日発行