伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

炎上回避マニュアル

2023-02-15 21:17:45 | 実用書・ビジネス書
 悪評が立った企業のレピュテーション(評判)改善を業とする著者が、企業の炎上事例を紹介し、悪い対応とよい対応を解説した本。
 過去の企業の炎上事例を紹介するなかで、ディズニー公式アカウントの炎上事例を「不謹慎狩り」「自粛警察」という項目立てで、ディズニーは被害者で批判する側に問題があると位置づけている(71~80ページ)ことに、私は強い違和感を持ちました。この本で読むまで私は知らなかったケースですが、ことは2015年8月9日にディズニーの日本公式 twitter アカウントが「なんでもない日おめでとう。」と投稿し、これに非難が集中したというものだそうです。長崎に原爆が投下され今でも毎年慰霊祭が行われ報道されている日に、原爆を投下したアメリカを代表する企業が、被爆国日本の国民に向けて、今日は「なんでもない日」だというメッセージを発したのです。これは「不謹慎狩り」と呼ばれるような単に災害や不幸がある時期に楽しいイベントをするのがけしからんとか自粛しろということとはまったくレベルが違います。この投稿は単に今日は/今日も楽しもうよというのではありません(そういう投稿が批判されたのなら、確かに「不謹慎狩り」でしょう)。大量殺戮がなされた日に、犠牲者の無念と悲しみに思いを至らせ、悲劇を忘れない、繰り返さない/させないと決意を新たにしている人びとに対して、ことさらに今日は「なんでもない日」と言い放つことは、その人びとの思いを否定し踏みにじる行為です。これを批判することが「不謹慎狩り」だと言い、ディズニーを被害者だという著者の姿勢には、私は到底賛同できません。電通やパソナやJTBが利権をむさぼっているのは「まったくの誤解」で、政府や各省庁に無茶ぶりをされているといい(127~128ページ)、「バイトテロ」が発生した企業についてそれが起こるのはバイトが劣悪な労働条件で酷使されているからではないかというのは「根拠のない思い込みによる批判」という(138~139ページ)のも合わせ(大企業でも「昭和的価値観」のシニアなどに対して批判的に述べているところはありますが)、著者のスタンス、センスが表れているところかなと思います。
 終盤で、炎上を生じさせた発信者に対する懲戒処分について論じているところは、弁護士の監修もあってか、企業側スタンスの本としてはわりと穏当に書かれていますが、懲戒処分を安易にすると「『不当労働行為』だとして、従業員側から損害賠償を請求されるリスクもある」(276ページ)という記述はお粗末。おそらくは世情言われる「不当解雇」という言葉から、解雇以外の懲戒処分も合わせていうのにそういう表現をしたのでしょうけれど、「不当労働行為」という言葉は労働組合差別や労働組合活動に対する嫌悪による不利益行為を意味するもので、労働組合が絡まない懲戒処分には使いません。せっかく弁護士の監修を受けているというのに、弁護士や労働問題に少しでも造詣のある読者には、この一言で、画竜点睛を欠くものとなってしまいます。


新田龍 徳間書店 2022年11月30日発行
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ネットショップ初心者でも売れる商品写真の基礎知識とつくり方

2023-02-14 23:14:49 | 実用書・ビジネス書
 通販サイトやネットショップを運営する個人や企業担当者向けに商品の写真の撮り方・調達方法、掲載のアイディアなどを解説した本。
 写真撮影の技法よりも、閲覧者によい印象を与え購買意欲を起こさせるための写真のポイントに重点が置かれています。商品写真は「引いて」撮れ、引いた写真は後で必要部分だけトリミングできるがアップの写真に後から余白をつけることはできない、コピー(テキスト)を書き込むスペースがない写真はサイトでもSNSでも使いづらい(52~53ページ)とか、商品写真はまわりに黒い紙等を置いてその黒を写り込ませることで商品の輪郭を際立たせ(黒締めというそうです)切り抜いて(トリミングして)使う(黒が望ましくないなら商品と同系のより濃い色を使う)とよい(54~55ページ)とか、人物写真とテキストを並べるときには人物の視線の先にテキストを置く(56~57ページ)とか、レスポンシブサイト(閲覧する側がPCかスマホかによって自動的に表示を変えるサイト)では両方での見え方を確認すべきだが、両方で見やすくするには正方形に近い写真がよい(58~59ページ)とか、サイトの画面上、動きは左から右が自然に感じられ、人物の向きも右向きがポジティブ(左向きはネガティブ)な印象を与える(106~107ページ)など、へぇ~っと思うことがたくさん書かれていて参考になりました。


黒葛原道 玄光社 2022年11月30日発行
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いい写真を撮る100の方法

2023-02-13 21:45:06 | 実用書・ビジネス書
 スナップ写真を想定して、いい写真を撮るために考えること、意識すべきことを説明した本。
 いい写真というときにどのような写真を想定するかは人それぞれで、美しい写真、広告に使われるようなキャッチーな写真を想定すると、この本は、いや違うでしょ、自分はこういう写真を撮りたいわけじゃないということになりそうです。スナップとして、「味わいがある」写真という方が、この本のイメージに合うのではないかと、私は思いました。
 写真家(著者は「あとがき」では、「自分では写真屋だと思っている」と書いていますが)に対しては、写真を撮るのが好きで、いつもカメラを持ち歩き、撮影の機会を狙っている人というイメージを持ってしまうのですが、「好きな写真を撮る人というのも、たぶん少数派だ。『仕事じゃないのにカメラを持ち歩くなんて酔狂だね』と同業者に言われたこともある」(222ページ)と書かれているのにハッとしました。仕事は仕事としてやっているのがふつうで、業務時間外にはできれば仕事のことは考えたくない(実際には考えてしまうのですが)のが人情なのに、写真家は別と考えるのは偏見ですよね。もちろん、人それぞれですけど。


鹿野貴司 玄光社 2022年10月1日発行
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キリンのひづめ、ヒトの指 比べてわかる生き物の進化

2023-02-09 23:13:59 | 自然科学・工学系
 キリンを中心に他の動物の体の構造や臓器(肺、手足、首、皮膚、角、消化器官、心臓、腎臓、呼吸器)が人間とどう違うかを比較して、それぞれの形態、機能がどのような環境/条件でどのような点で利点があるかを論じ、生物の進化やその中での生物の位置づけなどを解説した本。
 キリンの特徴を足がかりにしつつさまざまな器官についての動物による違い/あり得る選択肢とそのメリットについて書かれていて、字数のわりに情報量が多くいろいろなことに気付かされた印象です。いくつかの仮説を並べた上で、結局、理由・原因はわかっていないということも多いのですが。
 進化論について、何か生物の進化が一定の条件に適応できるように目的的になされたかのような論述がなされたり、より合理的効率的に進化して行く/来たかのような捉え方をするものが少なくないのですが、この本では、一番合理的効率的でなくても生き残れる程度に適応できれば子孫を残せる、生存にとってある面では有利でも別の面で不利なことは案外多く変化のプラスマイナスの評価は困難(さまざまな制約があるなかで、デメリットを受け入れたうえで、「それでもなんとかうまくやっていける」という妥協点を探る過程が、進化の本質なのかもしれない:213ページ。もっとも「受け入れ」「探る」という書き方は進化が目的的であるかのような誤解を与えかねないのですが)というような説明がなされていて、私としては、自分が理解している進化論とフィットしているように感じられました。


郡司芽久 NHK出版 2022年9月30日発行
ウェブマガジン「NHK出版 本がひらく」連載
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鹿狩りの季節

2023-02-08 19:38:03 | 小説
 アメリカネブラスカ州の田舎町ガンスラムで女子高生ペギーが行方不明となり、ペギーに思いを寄せていた知的障害のある青年ハルが疑われ、ハルを牧場で雇い親代わりにように世話をしていたバス運転手のアルマと牧場主クライルの夫婦は、友人とともに鹿狩りに行っていたはずなのに車のフロントをボコボコにし血をつけた状態で戻ってきていたことをすぐに知らせなかったハルの不審な態度に疑念と不安を持ちながらハルをかばい続け、ペギーの不在に改めて姉への思慕を募らせる弟マイロの思考は千々に乱れ…というミステリー小説。
 ミステリーとしてより、ハルへの疑惑・疑念をめぐる心理描写、田舎町での濃密で錯綜する対人感情と人間関係の描写を読む作品なのだろうと思います。なかなか事件というか、真相・謎の解明が進まない重苦しい雰囲気の中での心理描写というのが楽しめるかどうかが作品に対する評価を分けることになりそうです。


原題:DEER SEASON
エリン・フラナガン 訳:矢島真理
早川書房(ハヤカワポケットミステリーブックス) 2023年1月15日発行(原書は2021年)
2022年アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作
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日本を味わう366日の旬のもの図鑑

2023-02-07 21:00:55 | エッセイ
 1月1日から12月31日までの日々に、旬のあるいは行事・習わしとして飲食するものをあてがい、各1ページで写真と紹介・説明文をつけた本。
 日付には、その日の意味があるものもありますがて食文化を再認識して味わう本と位置づけるべきでしょう。
 冬瓜は実は夏の野菜(8月9日:225ページ)とか、八朔(8月1日の意味)は冬から春が旬で旧暦8月にはまだ小さくて青くて食べられない(2月21日:55ページ)なんて人を食ったような話ですし、そもそもカステラ(5月3日:127ページ)やコロッケ(5月6日:130ページ)に旬があるとも思えません。
 旬や食文化にも関係なさそうですが、ドドメ色というのが「土留め色」で桑の実の黒に近い紫なのですね(6月21日:176ページ)。謎の色だった(といって、調べてみる気にはならなかった)のですが、初めて知り、また写真で実感できました (*_*)


暦生活 淡交社 2023年1月3日発行
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KAROSHI 過労死 過重労働・ハラスメントによる人間破壊

2023-02-06 22:08:37 | 人文・社会科学系
 過労死についての事例報告と関連論文からなる過労死についての啓発書。
 過労死・過労自殺の事件は、事例として個別性が強くまた通常長期の時系列があってのことなので、なかなか事例の紹介、読む側で言えば事例の把握に労力がかかり、判例雑誌等に掲載された判決を読むときもかなりの長文であることから少し力を入れてと言うか覚悟して読み始める必要があります。そういうことからして、たくさんの事例を紹介するのは難しいのですが、過労死弁護団の著作ということからはもう少し多数の事例を読みたかったなぁと思います。
 その点、代表の川人弁護士の論文の中で、「現在においても、個別事案解決文書作成にあたって会社が事件に関する守秘条項の導入を強く主張し、事件が公にされないことがしばしばあり」(81ページ)としていることが目を引きました。まぁ個別事件の解決という観点からは当然のことと言えますが、多数の事件で記者会見を開き公表している印象からつい見逃しがちなところです。
 2021年5月に公表されたWHOとILOの共同論文で、2016年には世界全体で推定74万5194人が長時間労働(週55時間以上の労働)による虚血性心疾患と脳卒中で死亡したとされていると紹介されています(86~87ページ、100~101ページ)。週55時間以上の労働というのは、概ね月65時間以上の時間外労働を意味しています。それによってそんなにも多くの人が過労死している/するのだとすると本当にたいへんなことで、驚きました。論文は公開されている(こちらのページでダウンロードできます)のですが、英語なので読む意欲が湧きません。どこかに和訳がないものかと思うのですが。


過労死弁護団全国連絡会編 旬報社 2022年12月1日発行
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アスリート盗撮

2023-02-05 17:20:17 | ノンフィクション
 スポーツ選手の競技中やその前後の胸や下半身などをアップにするなど性的な意図を持って写真や動画を撮影しインターネットで拡散する行為について、実態を取材して共同通信が配信した記事をベースに実情をレポートし被害防止の必要性をアピールした本。
 弁護士の立場からは、赤外線透視カメラでの撮影やスカートの中を撮るようなまさしく「盗撮」というべき撮影はもちろんのこと、この本で中心的に取り上げられているユニフォームの上から胸や下半身をアップにして撮影し、それをそのままないしは性的なコメントをつけてネットにアップする行為は、それ自体が肖像権侵害(コメントによっては名誉毀損・侮辱)となり違法とされていることをまず指摘しておきたいと思います。著者の選手に対する選手のインタビューで「肖像権が自分にあったわけでもないので」というのがまったく否定されないままに掲載されています(219ページ)が、それは誤りです。業界では有名な判決として「『街の人』肖像権侵害事件」とか「ドルチェ&ガッバーナ事件」と呼ばれているものがあり(こちらのサイトで判決全文を読むことができます)、一般人が銀座でドルチェ&ガッバーナの胸部に大きく「SEX」と書いたシャツを着て歩いていたのを本人の承諾を得ずにアップで撮影してWebサイトに掲載したことが肖像権侵害とされて損害賠償(35万円ですけど)が認められています。この判決の基準からすればこの本で問題とされているような撮影とネットへのアップは、おそらくすべて民事上違法なものと評価されます。一選手には肖像権がないかのような誤った記述を放置するのではなく、まずはこのことを明記して欲しかったと思います。
 私がこの問題について以前から疑問を感じているのは、例えば陸上競技で何故女子選手がヘソ出しのユニフォームを着ているのかということです。「どんなユニフォームでも性的な画像やコメントをネットに拡散される筋合いはない」(71ページ)、「被害を受ける側が対策を講じ、従来の衣装を変えなくてはならないというのは本来おかしな話」(109ページ)というのはそのとおりで、私はそういう格好をしている選手が悪いというつもりはまったくありません。しかし、果たして本当に選手が望んでそういう露出度の高いユニフォームを着ているのでしょうか。日本陸連のアスリート委員会の委員長のインタビューでは「例えばセパレートのユニフォームも機能性を求めている面もあるので一概に否定せず、嫌なのであれば違う選択もできることが重要」(71~72ページ)と、選手が自発的に選択しているという前提です。セパレート(ヘソ出し)が機能的(例えばそれで記録が伸びる)というなら何故男子は誰もセパレートのユニフォームを着ないのでしょう。規則で強制していないとしても何らかの圧力が本当にかかっていないのでしょうか。元バレーボール選手のインタビューで、2005~6年頃に女子ゴルファーがヘソ出しで話題になり「その流れで女子バレーも、となって、急にユニフォームの丈が短くなって、スパイクを打つときに、おへそが見えるようになりました」、自分はそれがすごく嫌だったということが書かれています(241ページ)。しかしここでインタビュアーは選手が嫌だったというのに誰がどのようにそのへそが見えるようなユニフォーム着用を求め進めたのかについて聞きもしないし何ら問題にもしません。水泳で体を覆う水着が流行ったりハイレグでなくなると途端に隠し撮り被害が減少したと書かれています(48ページ)。競技団体と、そしてマスコミが、女性選手の性的な側面を利用・強調して、競技そのものよりも性的な面への興味で群がる人びとを呼び寄せたことが、この本が取り扱うようなアスリート盗撮被害を増やしたという側面は、きっとあると私は思うのです。競技団体やマスコミの問題点にはまったく触れずに、ただ撮影する個人とWebサイト運営者の問題(もちろん、この人たちが悪いのはそのとおりで、免罪するつもりもその必要もないのですが)だけをいうことには、私は違和感を持ちます。
 被害を取り上げて報じることは大切なことだと思うのですが、競技団体とマスコミの問題にはまったく触れず、盗撮罪の創設と処罰を性急に求めるという姿勢には、警察権力の拡大に賛成し、権力者や大組織には楯突かずに、権力のない者を批判非難しておこうという志向を感じます。もちろん著者たちはそういう意識で書いているのではないでしょうけれど、共同通信にはもう少し権力を監視する矜持を持っていて欲しかったなと寂しく思えました。


共同通信運動部編 ちくま新書 2022年9月10日発行

 
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オーディションから逃げられない

2023-02-03 22:06:36 | 小説
 都心から電車で1時間くらいの温泉がある観光地で、美味しいパンを作るパン屋ワタナベベーカリーを営む父渡辺洋介の背を見て育った三姉妹の長女渡辺展子が、自分は一生懸命やっているのに思うように結果を出せないと苦しみながら生き過ごしてきた半生を語るスタイルの小説。
 展子の自分はこんなに頑張っているのにという思いが周囲への目配りを欠き展子が力んで空回りする様子が描かれ続けますが、この作品では展子は現実に頑張っているだけに、なかなか切ないところがあります。周囲の人が自分と同じようにできると思って自分の尺度で評価し断罪してはいけない(その人ができる面を見つけてそれを評価すべき)というのは、言うは易しですが…やはり肝に銘じておくべきでしょう。
 序盤で中学高校時代に際立つ美人の渡辺久美と親友として付き合い、周囲の男たちが美人の渡辺久美にラブレターを渡して欲しいと言ってくるのに呆れ、自分が好きだった山本徹までが久美にしか興味を持たない様を見せつけられて、久美を羨み美人に生まれなかったことを不満に思う展子が、意外にも久美との友情を育み続け、久美は久美で思うに任せぬ人生を歩みながら展子とはまた違った強さを示すという展開に、味わいがあります。
 展子が母を交通事故で失い、中学生以降父子家庭であったためとは思いますが、パパッ子で中学生でも高校生でもそして40代になってさえ父を慕い敬い続ける様子が、娘を持つ身には羨ましく思え、好感度大でした。


桂望実 幻冬舎 2019年2月5日発行
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お探し物は図書室まで

2023-02-02 20:05:00 | 小説
 東京都「羽鳥区」にある小学校に併設されている「羽鳥コミュニティハウス」内の図書室で司書をしている「穴で冬ごもりをしている白熊」を思わせる、「ゴーストバスターズに出てくるマシュマロマンみたい」、「ベイマックスみたい」、らんま1/2の水をかぶるとパンダになる早乙女玄馬みたい、「正月に神社で飾られる巨大な鏡餅のよう」な小町さゆり47歳から、「何をお探し?」と聞かれてリクエストしたところ、リクエストとは関係なさそうな本が1冊最後に書かれているリストとさゆりが作った羊毛フェルトの「付録」を渡された5人、仕事にやりがいを感じられず転職を漠然と考えていた総合スーパーの婦人服販売員藤木朋香21歳、アンティークショップを開く夢を抱えつつくすぶり悩み続ける家具メーカー経理部勤務の浦瀬諒35歳、産休明けに資料部に異動されて雑誌編集部に戻れないことと夫の育児・家事分担が少ないことをぼやく出版社勤務の崎谷夏美40歳、ニートで周囲に不満を持ち続ける菅田浩弥30歳、定年退職して社会とのつながりを失ったと喪失感を持つ元菓子メーカー勤務の権野正雄65歳が、それを契機に生き方を考え直すというハートウォーミング系短編連作。
 みんなから好かれる高卒1年目の図書館員森永のぞみがまず応対した後で小町さゆりが登場するというパターンが採られているのは、小町さゆりの特異性を際立たせるためですが、全話でそれを繰り返していると、様式美という印象も出てきます。
 すべての話で小町さゆりが共通して出てきますが、小町さゆりは中盤で狂言回しのように出てきてその言葉と勧めた本や渡した羊毛フェルトが大きな影響を与えるものの、登場する場面は多くはなく、基本は、それぞれの話の主人公となる5人の仕事や人生に対する見方、考え方の変化がテーマの読み物です。


青山美智子 ポプラ社 2020年11月9日発行
2021年本屋大賞第2位
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