マンガが原作らしいが、結構リアル感が蔓延し、今や現実そのものが悪夢かどうか分らない現代においては、映画だからと捨ておけない何かがある面白い作品だと思う。
中途半端に大学を卒業し、ただ何となく演劇を目指していた若者が挫折し、普段よく行くパチスロ屋で騙され、借金を背負ったがためにどんどん世の裏街道を歩く羽目になる出だしは、他人事とも思えず変にリアル感はあった。
世の中には裏の稼業も結構あるということよ。
便利屋が極端化するとこういうアブナイ仕事も実際あるのかもしれない。不法投棄のごみ捨て山での警察官とのやり取りもコミカルだけれども結構サスペンスは効いている。生きていくということは毎日本来はこういうことの連続なんだろうなあ、と変に納得している僕。
裏稼業のボスたる【永瀬正敏】がいい。変に正義感を持たさないでいるところがなかなか共感できる。クールだ。【安藤政信)の、変に死に怯える殺し屋も暖かみまで感じるほど いとおしく素敵だ。カッコイイ。安藤は今こういうところ(路線)を行っているんだね。
ビジネス的には超鋭い何でも元締め【松雪泰子】もこの役柄を面白おかしく柔軟に楽しく演じている。この映画のミステリー部分の切り札を担う極道の妻役 【満島ひかり】も、彼女にしてはあまり演技部分がないのだろうか、全編ほとんど無表情で、彼女にとっては物足りない演技を強要されたようだ。ただ、たこ焼きを食らうシーンが印象に残る。若くしてでも立派。
そして肝心の【妻夫木聡】なんだが、この役柄はこれだけ周囲が異常であることが日常化してしまうと、普通の人間は面白くもおかしくもないのである。何故この役が主役なのか僕は不思議に思うのだが、恐らく語り部の役としての機能なのだろう、そう彼は僕たちと同一の観客目線としての役柄なのである。
その気の毒なフツーの彼が、最後に役者として飛翔するラストは実は重要なシーンなのだが、これが映画としてはそれまでの異常周囲が面白すぎて皆目盛り上がらない結果となる。(特に彼を虐める【高嶋政宏】が強すぎて(紙おむつまで着込んで怪演、ただ上半身は筋肉もなく余計キモイ)フツーの彼がスーパーマン化する設定が生かされていない)
でも考えたら妻夫木は主役でなくともよかったのではないか。どう考えてもこの映画、主役の成長映画とも思えないし(そういう演出はされていない)、主役は最後まで観客と同じく観察者のままで居た。それは妻夫木の演技のせいでないことは明らかだ。そういう意味では脇役が主役を食ったのではなく、主役は初めから脇役だったという不思議な映画なんだと僕は思う。
でも、面白かったですよ。ええ、この映画、僕は大好きです。この映画の悪夢は今や我らの日常でもあるのですよ。
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