隠岐の島のことをあまり私は知らない。中世では天皇が流罪されたことでも有名だが、そのイメージで秘境めいてもいる。だが、そんな先入観も一掃される見事な隠岐の姿が映像にクローズアップされる。
ドラマの神髄となるのは神事でもある古典相撲大会である。20年に一回開催されるという島の重要行事である。逃げるようにして島を出た男が帰島し、心技体に優れた者に選ばれる栄えある相撲を取るまでの話である。
カメラは隠岐の自然を撮る。住民の生の顔を撮る。人々の営みを撮る。
親の決めた結婚を拒否し、駆け落ちしてのこのこ戻ってきた息子家族に親たちは会うことはない。そういう意味ではいまだ島は閉鎖社会なのだ。そういう事情が説明されることなく淡々と映像は隠岐の日常を綴っていく。
娘が継母に自然と解けていくくだりはちょっとあざとい気もしたが、それはそれでよろしい。しかし、夫が島に戻る理由を観客に説明しないので、最後まで主人公の内面には入ることなくこの映画を見終わることになる。(心技体に優れた者に選ばれる相撲を取ることにより、自分を再生しようとするのは徐々に分かってくるのだが、表情からはそれがあまり伝わって来ない。)
大会で実の親、妻の親、そして前妻の親に出会うところが究極のドラマチックな部分なのだが、不思議なことに孫を初めて見る前妻の親たちにこの夫は挨拶さえしない。実の親より今は亡き妻の親たちに(初めて孫を見るシーンでもある)せめて目礼ぐらいはさせるべきではなかったか、と思うのである。
主人公の肉体が脚がちょっと弱弱しく正三役大関には程遠いとも思ったが、それよりも妻の伊藤歩に比べて彼の内面演技が出来得ていたかというとちょっと不満気味でもあった。それほどセリフが豊富ではない役柄なので余計目立ってしまっていた。
とは言え、隠岐の神事をカメラで追う目線は確かで、このまなざしがこの映画の強みでもある。2時間は超える上映時間だが、退屈することはない。
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