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12人の怒れる男 (2007/露)(ニキータ・ミハルコフ) 75点

2008-09-18 13:12:28 | 映画遍歴
名作のリメイクとはいえ、これほど変質しているとは思わなかった。設定は一応似せてはいるが、現代のロシアというものを切々と訴えるその手法は驚きの一言であります。

前作は完全ミステリーだが、そこから魂の深遠にいたる心の叫びが感じられた。本作はそのミステリー部分をあっけなく捨て去り、有罪から無罪への立証に重点を置いていない。つまり、娯楽性には見向きもせず、というか前作から飛翔した政治ドラマを目指したかのようでもある。

まず前作との絶対的な違いは少年の最高刑が終身刑に変わっていることだろう。死刑ではないので、彼らの判定で人が死ぬことはない。この違いは大きい。そのためミハルコフはまた思いもよらない大胆などんでん返しをラストに提示することになるが、、。

確かに無罪への立証が全く描かれなく、怒れる男が切々と述べるのは、12人の今までの彼らが生きてきた人生の足跡であります。少年と自分との人生を照合することによりひとりひとりが無罪に傾いてゆく。自ら我が人生を振り返る彼らの話は確かに共感でき、そして納得もさせられる。けれど何故少年の無罪に移行していくのか多少センチメンタルだし明確でない。

そう、これは法廷劇をとった12人の人生回顧劇なのであります。映画的にもテーマ性が明確で秀逸なのだが、どうも僕には立派過ぎて楽しめなかった部分もあります。考えたらミハルコフの政治提唱映画というのは僕は見るのが初めてかもしれない。

まあ、そういう意味で少々驚いたわけですが、彼にとっては名作の逆転リメイクという題材だけで十分エンターテイメントなし得るものなんでしょう。でも、演出、映像それぞれは息を呑むほど秀逸だが、僕の心に入ってくる何かがなかった気がする。やはり映画って人間を描くものだと思う。こういう思わぬリメイクを作ったということは憧憬に値するが、僕にとってはいつもの自由奔放なミハルコフの方がいいなあ、と思いました。

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