今回はいつもより大きな劇場での公演だ。というか、あのアイホールが巨大に見える。これが美術のすごさだろう。まずそのことに驚く。
この劇団の特性は日本人に忘れられかけている作家の復権を題材にしているということだろう。
横光利一の「機械」、倉田百三の「出家とその弟子」、そして今回の梅崎春生の「侵入者」「桜島」、これらの作品は今やよほどの愛読者でない限り読むことのかなわない作品群であります。これらを現代によみがえらせようとする、まずその意気込みが美しい。素晴らしいと思う。ここをまず褒めたい。
今回の劇は最初、原作が「侵入者」だけだと思っていたので、あの桜島の終戦前後の話が妙に不思議だったのだが、途中で二つの話が交互に挿入されていることに気づく。そして、この二つの話がどう結びつくのだろうと思っていたら、何と、ナンと、主人公の二人が入れ替わってしまうのだ。
これは凄い。面白い。度肝を抜かれるとはこのことを言うのだと思う。いやあ、参りました!
現代での「侵入者」と戦争において人を殺さなければならないという「真空感」。すなわちこの両者に共通する者はまさに「不条理」である。
カミュの「異邦人」然り、カフカの作品群然り、現代における生きることの不安と、戦時中の国家の強制による殺人行為はまさに同一であり、不条理と言えるのである。
これを嗅ぎ分けた中條岳青と島原夏海さんは偉い。大したものだと思う。
劇は不条理劇という宣伝が大きかったが、この二つの話が結びつくことによって、より分かりやすくなる仕掛けとなっており、若い人でも理解しやすい作品となっている。僕たちが生きていること自体、不条理であるのだから、それほど構える必要はないのである。
俳優的には中西邦子さんの、大きな包み込むような大きな演技が目を引く。そして堀内充治さんの的確な広い演技。彼は安定感のある俳優である。そして「ハッスルライフ」から突如進歩してきた泉侃生の熱演。(今回は彼の目がまさに点となっていて凄みを感じました。)
ポエムを感じさせるセリフさばき、雰囲気のある駒野侃(何と空晴ではこれほどの人とは気づかなかった新人だ)。ユニークな木本牙狼の個性。みんな素晴らしい。
そして今回は座長の島原夏海さんの舞台に溶け込むような存在感が凄みを放っている。今回、彼女の身体は本当に美しい。蛹のようでもある。
今までこんなに細いと思ったことはなかったが、あの白いバレエ衣装のようなものがそうさせるのか、まるで妖精のようにも思われた。あの衣装のまま、通信兵に乗り移った島原は本当に圧巻でした。
「ハッスルライフ」でベストを尽くした島原、今回で見事それをも乗り越えた感があります。これからどこへ向かって進むのでありましょうか。とても頼もしく、そして興味が尽きないです。
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