ミステリーにはスパイミステリーというジャンルがある。本格、倒叙という本道に一歩譲ってはいるものの立派なジャンルである。しかし米ソの緊張感が続いた時はいざ知らず、現代においてこのジャンルはどうなんだろうか、、。
そんなことを映像を見ながらついつい考えている自分。この映画、ほぼ40年ほど前の東西冷戦時代を引きずった時代の話である。いい意味ではノスタルジー、悪く表現すればちと時代感を感じてしまう映画である。
そしてスパイたちも戦争の時を、あの時は良かったなんてノスタルジーしてる。この作品の核の部分も、スパイでありながら、こういうあったかさを求めては消えていった彼らを、懐かしく哀しくそして人間味豊かに表現しているのだ。
スパイであっても同志感はある。そしてそれが彼らの生きる糧になることもある。スパイであることの哀しみ、それは【T・アルフレッドソン】が前作『ぼくのエリ』で普通の人間ではなく、ヴァンパイアとして永遠に生き続けなくてはいけない哀しみを描いたのと同様のテーマである。底辺に流れる透明な厭世感は酷似している。
ミステリーとしてはモグラ探し(犯人探し)を核としているが、例えばゲイを前面に出したり、スパイとスパイとの恋愛を描いたり、全体の色調は抑制的でさえある。単なるスパイ映画を超えて哀しみを知った人間劇にしてしまっているところが面白いと思う。
それにしてもスゴイ配役陣。よくこれだけ集められたなあと感心する。実に大人の鑑賞に堪える見応えのある秀作だ。好きだなあ、こんな映画。余韻がいつまでも残る。
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