これはなかなか面白かった。映像が1964年を意識していてか、ぐっと色調を落とし、しかしクリアーでどのシーンでも落ち着ける。美しい。映像は誰かなと思ったら、「英国王のスピーチ」「リリーのすべて」のダニー・コーエンだった。なるほど。
どちらかというと、思いがけず肖像画のモデルになってしまったアーミー・ハマーと同じく、芸術家のわがままに付き合わされる18日間の苦痛と退屈感を観客が共有せざるを得ない展開に、この映像は唯一の救いでもある。
とは、ちょっと大げさだが、あの長細い顔の彫刻で有名なジャコメッティはそれほど僕は好みではないが、それでも芸術家たる「産みの苦しみ」は何かを創造している人たちにとっては、共通の悩みであり、苦しみであり、喜びである。一枚の絵画にに仕上げていく過程から、我々はじっくりとそれを確かめることができる。
登場人物は少ない。ジャコメッティと弟、妻、妻公認の娼婦兼モデル、そしてモデルの青年である。ほとんどがジャコメッティのアトリエでの創作シーンなのだが、たまにニューヨークの恋人に電話をしているモデルのシーンが頻繁に出現する。
そしてラスト近くで、なかなか帰国しないモデルを追ってニューヨークからやって来た恋人は、何と男性だったなんて、面白いエピソードも連ねている。
芸術なんて、エンドレスな行為なんだなあと認識させるも、だからこそ同じテーマで作品を追求していくんだなと納得させられる。
実にユニークで、面白い映画であった。こういう映画が巷でもっと公開されないかあと思うけれど、それは贅沢なのかなあ、、。
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