秀作の名高い東野の短編集、と思いきや、一個の長編小説と考えてもいいと思う。それぞれの短編が相互につながり、ラストで一つの解決編を呈するという複雑な仕組みながら、それぞれの編に全く無駄がなく、ひょっとして東野のベストに近い小説ではないか、と思われるほどの出来である。
やはり魅力的なのは、加賀刑事と人形町という東京の下町との関わり合いである。彼は大阪の出身であるのに、随分東京の下町に愛情が深い。というより、一生懸命生きている普通の人への営みへのまなざしが暖かく、それには大阪も東京もないということなのだろう。彼の人間性が強く感じられる部分である。
ただ、ミステリー好きの吾輩からすれば、最後の真犯人とその動機はちょっと軽い気もしないではない。でもそれらを割り引いても、秀作であることには変わりはない。
大阪も夏に向けてまっしぐらです。
実は私は夏が大嫌いなので、あと2か月どう過ごせばいいか、今から悩んでおります。ただ考えたら、8週間、たかが8週間なので、8回週末を過ごせば秋になる、とこう想うようにしました。
さて私のつまらんたわごとは置いといて、東野圭吾さん、出版すればベストセラー間違いなしのミステリー大作家ですね。この方、あまり凡作がないのがすごいです。あれだけ書いておいて、かなりきっちり書いていらっしゃる。すごいことだと思います。ミステリーの基本をいつも考えていらっしゃる。
根がやさしく、読者に真剣なんでしょうね。
私は随分前ですが、「容疑者Xの献身」を読んでいて、声を出して慟哭したのを覚えております。映画を見て泣くのはしょっちゅうですが、読書中はほんと、珍しいです。一生に何回か、しかありません。
好きな作家です。
読み続けたい作家です。
この「新参者」は、加賀刑事のシリーズ8作目ですが、練馬署から日本橋署に異動になっていますね。
この作品の構成はやや変わっていて、普通に犯人逮捕までがストレートに描かれる訳ではありませんね。
加賀刑事は、日本橋の街を歩き回り、煎餅屋、料亭、瀬戸物屋、時計屋、洋菓子屋、民芸品屋などを訪ね歩き、そこで様々な謎を解き明かしていくんですね。
これは事件の解決に繋がるものもありますが、全く関係のない謎もあります。
まず、この謎の解き明かし方が見事なんですね。
営業マンが背広を着ていたか、脱いでいたか、とか。
彼の慧眼振りが細かく描写されていきます。
そして、それらは人情話にもなっており、ちょっとしたすれ違いや意地の張り合いを解決していくんですね。
まるで、彼とともに日本橋の街を歩いている様な感じがしてきます。
東野圭吾さんは、大阪の人なのに、人情あふれる日本橋の描写が、とても上手いですね。
そして、いくつもの話が最後に一つになり、犯人が特定されて、最後の謎だった犯行の動機が解き明かされるんですね。
とにかく、東野圭吾さんの上手さが十分に感じられる作品ですね。