真剣に人間を見つめるまなざし、カメラ、俳優たち、そしてスタッフたち。この汚れてしまい、まるで奈落に進みゆくような現代において一脈の光を放つ秀作です。
「東京物語」を2度見るきっかけとなる二人の出会いが面白く、美しい。その二人が2度とも電車の音にかき消されるセリフ。ここで教えます。紀子「いいんです。あたし年取らないことにきめてますから」でした。
大震災後の避難風景もきっちりと再現されていて見事。この映画のテーマ、人と向き合うことの大切さが描写される。
それにしても、この映画は柄本佑の映画だ。かなり彼の出演作を見ているが、この映画は今までの彼の集大成のような映画だ。まさに安克昌が乗り移ったかのようなカメラとの距離感、そしてまぎれもない関西弁。独自の人間像が陰影されている。「美しい夏キリシマ」から見ているが、こんなにすごい役者だったか。
人間の生と死そして愛の喜び。こういう一つ一つの積み重ねが人生という大きなうねりとなり川となって流れるんだなあと思う。
ラスト近く、死にゆく病院へ一人向かうタクシーの窓から見える街角の風景、空。それは彼だけのものでなく、観客の心に入り込む。静かに流れる涙をぬぐい、そろり映画館を出る。外はいつもの喧騒だ。歩みは遅い。
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