最近の道尾の作品ではしっとりと35年にも上る歳月をうまく生かし、それぞれの人間模様を複雑に紡ぎ出し、ミステリーの手法も取り入れ、満足のいく作品になったのではないか。
読みやすいのも好評価の一因。よく考え、まとめている。だが、遺影専門の写真館「鏡影館」の道具立てがそれほど効果が発揮せず、いかにもの感もする。
恐らくはと感じていた野方建設の真相はやはりこの話の源でもあり、素直に喜べなかった。というか、やはり許せない。読み終わっても、どこか残滓が残る感があるのは否めない。
3つの章では、やはり冒頭の若き男女の切ない恋愛が一番印象に残る。思春期の恋愛から35年経って、今自分の死期を観なければならない女の心情が心を打つ。
全般にいい小説だった。
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