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英国王 給仕人に乾杯! (2006/チェコ)(イジー・メンツェル) 85点

2009-02-04 15:35:13 | 映画遍歴
題名からは計り知れない超娯楽作であり、政治劇であり、民族歴史叙事詩であり、そして何より哀しくも強い人間賛歌の秀作であります。

チェコ、その名を我々日本人はどこまで知っているか。既にスロバキアとは離別している国家だと言うことすら我々はほとんど知らないのではないか、と思う。
この映画はコメディっぽく見せてはいるが小さな大人である主人公(これはチェコそのものを象徴していると思う)から見たチェコの現代史であります。

主人公の夢は百万長者になること。今でこそそんなことを夢に思わない日本人も多いが、昔はみんな「百万長者が夢」だとよく言っていた。100万って当時は円単位だったんだろうか、おぼつかないがとにかくとてつもない額だったのは事実だった。

だから別にこの主人公が遠大なる望みを持って生きたわけではないと思っているが、最初はしがない給仕から始めるのだ。夢は何かといわれ、恋人には給仕長と告げる。実に親しみ深い。僕たちも百万長者になると言ったり、社長になると言ったり、なるわけがないと思ったものを長大な夢のように想っていた。

チェコを擬態化した主人公は、当然自分で望む望まざるに拘わらず数奇な運命に翻弄される。しかし、医療検査でお墨付きの精子検査を通過したにもかかわらず子宝に恵まれない。しかし、常に女には縁があり、ある意味幸福な男である。その女により莫大な財産を受けるが、政治動乱により一瞬にして紙切れと化してしまい、しかもその財産のお陰で逆に15年の刑で自由まで束縛される。

映像は驚くべきクリアさでしかも美しく、すべて美術品のごとく濃密な演出と相まって実に名品のごとく輝いている。数奇な運命に翻弄される主人公はまさに今でも小国であるチェコを象徴している。信望するユダヤ人、愛らしいドイツ人の娘。地の利から列強にいいようにされっぱなしの祖国。

映画は見事。コメディ調ではあるがしっかりとりりしく祖国の現代史を謳っている。我々日本人はチェコの何を知っているだろうか。ガラス器、秀作アニメ群、プラハの春、否実際は何をも知ってはいない。

こういう征服された歴史を一つの叙事詩のように映像化される映画作品も多いが、これだけ明るくむしろ悲しみを抑えてさらりとわが祖国を表現してしまう映画も珍しいと思う。それは哀しみなんか訴えたりしていないその傲慢さにもよるが、わが祖国を超えて広い人間への呼びかけが画面の隅々から聞こえるからではないでしょうか。実に久々の名作と言える作家映画だ。

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