予告編で躓いた映画だったが、大好きな中村義洋監督作品、見なければと強い気持ちで見る。映画の方はぜーん然予告編と違い、素直なやはり中村らしい人間が好きでたまらないといった映画であった。
阿部サダヲもいつもより抑えめの普通の演技である。愛妻役の菅野美穂もまだ純な役ができることを示す秀逸演技。友人役で出番も少なかったが池内博之の頬をつたう一筋の涙も美しい。山崎努はさすがの演技で、この人は恐らく演技そのもののすべてを分かっていらっしゃる方なのだろう、もう完璧です。
津軽、青森、そして美しい岩木山、そのたたずまい、リンゴの白い花、澄んだ青空。もうこれだけで十分絵になる。リンゴの木の10年以上にも及ぶ無農薬との取り組み。それを家族愛、電気も止まらせる貧乏、周辺農家からの蔑視を交えじっくりと描写する。
10年以上収穫がなければそりゃあ農家は立ち行かない。山も失うだろう。その農園だけはリンゴの木が一面に枯れて虫がうじゃうじゃたかっている。そこに2時間も毎日歩いて通う男を見て近所の農家も彼を狂人と思うのは必然だろう。
やっと苦労を重ね見つけ出した無農薬リンゴ栽培は、けれども10年以上かけてやってきた無農薬栽培とは全く違い、それは偶然に発見したものであった。その意味では彼の10年以上の労力は全くの無駄であったとも言える。
「土に戻り土から考える」というのは農家が行う基本中の基本ではないか、とも僕は思うのである。そういう意味ではこの無農薬栽培法は偶然たまたま見出したものであり、彼のすべてを投げ出して行っていた実験はほとんど何の意味もなかったことになる。
このことが見終わった後どうも僕にはしっくり来なかったが、映画は強き絆を持った夫婦愛を確認したところで終わる。
中村にしては全体的にストーリーを追い過ぎたかなといった感もあったが、岩木山に颯爽と流れる風のように、映画は相変わらず清々しく優しさに溢れている。これが彼の持ち味でもあるのだが、この作品はそれを十分生かしている。
いい映画だよ。好きだなあ。
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