僕にとって危険な映画です。最初の2つの挿話。何気なく人を殺戮するその小気味よさ。ほとんどの人間が現代を我慢してかろうじて生きながらえている中、スクリーンでは幻想よろしく、大物小物問わない悪人たちが拳銃の弾に、ばったばったと倒れて行く、、。
1話と2話の男が交差するシーン。トラックがひっくり返ってトマトだか柿だか分からないが、赤い果実が大量に道路に溢れている。その赤の色の鮮やかさと横に、死に絶えた運転手。まるで西部劇のような大胆な構図。
1話の男は馬車の馬を容赦なく叩きのめす男まで簡単に一発で撃ってしまう。解放された馬車の馬。静かに馬車を引っ張っている。それは我々の姿なのだろうか、、。
2話の男は久々に出稼ぎ帰りと称しながら家族の元に帰る。でも彼の息子は男から出された手を本能的に握れない。恐らく違和感を持つのだろう。子供の本能は敏感だ。だが時間がたつと家族として普通の穏やかさに戻ってゆく。しかし男はそこに安住する空気を持てない。また殺戮を伴う虚妄の、さすらいの旅に出る。
3話の不倫女。普通に風俗場の受付で働く女だ。女は風俗嬢ではないと訴えるが、札束を切った男客から執拗に誘いを受ける。女は不倫相手の妻から往復ピンタを受けていた。心がむらむらとうごめき、体の底から憤りがほとばしる。暴力の発生である。
4話の出稼ぎの若い青年。土地を離れ離れても毎日の仕事は結局は下積みの連続。やっとほのかな光に思えた女との恋愛も現実が彼を打ちのめす。格差社会とほんわり見えた自由の錯覚に翻弄され青年は若い命を落とす。
1話と2話がとても好きです。映像の世界、とは言え、死ぬべき人間が小気味よく死んで行ってくれます。僕はその思いがけない溌剌感に驚きもし、うろたえる。
4話だけがちょっと湿感を伴います。同じ死でも人を襲う死と自死とではかなり違います。この格差社会。この閉鎖感。若者が希望を見いだせない現実社会。これはなにも中国だけのことではない。そんなことを沸々と思いながら映画館を出る。
恐らくジャ・ジャンクーの趣旨と違うところで感じ入っている自分。この映画は僕にとってかなりキケンな映画であります。ジャ・ジャンクーも表現がかなりシンプルにそして過激になりました。震える秀作です。
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