あの力作「幕末史」と比べるとかなり分量も少なく、そして半藤をよく読んでいる人からは、それほど新味はないと思われる幕末史であるが、読みやすく講演調でもある。そういう意味で分かりやすいもう一つの幕末史なのである。
でもかなりあちこちで彼の本音が出ている。まず西郷をちょっとこき下ろす。これはある意味僕もそうかなあと思う。あれほど人間味があり、広く世の中を解っている西郷が、一貫して武力で幕府を倒すことを主張していたことが、昔から僕には不思議で仕方なかった。僕の抱いているイメージとそぐわないのだった。そしてそれはやはり事実だったのだ。
そうなんだね。革命で一番効果あるのは相手をぶっ殺すことだ。生きていられては効果が薄くなるのだ。それを半藤はしかし西郷のことを永久革命家だという。ちょっとそれはどうかなあとも思うが、まあそれでも西郷のイメージを崩すものではない。
尊王攘夷運動が実はそれとは裏腹に、実際には「尊王攘幕運動」であったことは目からうろこが落ちた思いがする。これも今までの僕の不信感を一掃するものだ。明快である。
だいたい海外事情をいち早く深く理解していた知識人たちが(アヘン戦争の分析感はみんな鋭かった)、尊王攘夷で日本を守れるものではあるまいと思っていたのである。表向きは尊王攘夷ということにしておき、それは名目で江戸幕府を武力で倒したかったのだ。
とか、あの人気随一の坂本龍馬が実際は思想の骨組みを構築していたのではなく、他人が作った思想(薩長同盟、版籍奉還)をとりなす名人であった、という分析は面白い。ただ実際これは事実なのだから何とも言えないものがありますね。
この本の中では長岡藩の河井継之助に1章を割いているの目立つ。これはやはり彼の故郷の偉人だからなんだろうが、ちょっと強引すぎるかな。西郷、坂本たちと同列の人とは到底思えないのであります。
まあ、これだけの内容を3時間程度で読めるんだから、確かに読みやすい歴史読み物であります。歴史書は勝者が作るものである。明治維新なんてまだ150年前の時代の話なのに、もう真実が僕らから遠のき始めている。そういう意味でもこの本は重要な視点を一本貫いているのが気持ちいい。
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