【原田芳雄】の遺作となった貴重な作品である。【阪本順治】演出というのは後で知った。地芝居とは芸能の原点であり、観客と一体となることで初めてその達成感、芝居の醍醐味が味わえるものなのだ。【原田】は最後ここに拘った。
18年も男と駆け落ちして出奔していた妻が認知症で戻って来て、夫たる男は「はいそうですか」と素直に女を受け入れるわけには行かないだろう、女は許しを乞っているわけではないが、男は心の整理ができない。そんな優しい、田舎の空気もきれいなら心も清純な男の話である。男は女を最後にはやはり許してしまう。
話としてはそれだけの映画なのだが、取り巻きの俳優陣が超豪勢で観客も所々目移りする構成となっている。老齢役者が多い中でやはり【松たか子】【 瑛太】【 冨浦智嗣】の3人はこの映画では清涼飲料水となっている。取り残された田舎にはやはり若い血が必要なのであろう。
惜しむらくはラストの地歌舞伎へと持っていくまでのエピソード群が【阪本】に往年の切れが戻っていないことと、話の中心たるトライアングル関係と地歌舞伎の演目とがほとんどリンクしていないので、冒頭で書いた芸能とは、という素朴な大テーマに気持がそれほど入り込まなかったことだ。【原田】最後の主演作品だけに何とも惜しいと僕は思う。
彼の主演映画を想う時、【阪本】よりは僕はどうしても【黒木和雄】の映画を思い浮かべてしまう。その【黒木】のところに召された彼は二人して相変わらず映画論争をしているんだろうなあと思う。
最後の主演作としてはこの作品より僕はNHKのドラマ「火の島」が心に深く残っている。老作家と不治の病に冒された女性編集者とのやり取りを描いた作品だったが、死を想う時の彼の心情がいかばかりか、今から考えるととても哀切を感じる。大切な俳優を亡くした。合掌。
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