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「阿修羅のごとく」を30年ぶりに見る。

2011-07-22 09:56:11 | 徒然に、、

若い時に見た向田邦子脚本、和田勉等演出による懐かしいドラマをたまたま見る。

実に僕がまだかろうじて20代で、結婚生活を始めたばかりの時である。あのトルコの楽曲がとても心を騒がせる印象的なドラマだった。

女兄弟4人と年老いた父親と妻。それぞれの生活を紐解けば出てくるわ人間の愛憎。何気ない笑顔の裏に隠されているもの、それは阿修羅の姿であったのだ。

長女綱子。50前の設定か。寡婦であるが社会人の息子は家を離れている。生け花で生計を立てているが、料亭の亭主と道ならぬ不倫をしている。向田作品常連の加藤治子が狂わしい女を見事に演じている。

次女巻子。40過ぎの設定か。八千草薫が本当に美しい。彼女はこのとき50前だったらしい。人間としても一番美しい時ではなかったか。彼女の代表作だろう。姉妹の中では一番ドラマ性が薄い一応平凡な主婦を演じている。夫が部下と浮気をしているらしいが、核心はない。そんな彼女も姉の情事の場面を察知して阿修羅になる時もある。ピンと張りつめた空気が炸裂する綱子と巻子の対峙はこのドラマでも白眉の名場面。

お堅い頭でっかちの三女ハイミス滝子をいしだあゆみが演じている。黒っぽい眼鏡で美貌を隠してはいるがかなり美人。女性は30歳ぐらいが一番きれいなのかなあ、、。甲信所員宇崎竜童が今では考えられない頼りない誠実でコミカルな演技をしている。彼女は妹とすべて折り合いが悪い。

四女咲子は風吹ジュン。小さい時から勉強は姉と違いダメだった、が男関係は姉と違い派手目。男がいないと生きていけないタイプのいい女をしっかりと演じている。ボクサーと同棲中。

そんな4人姉妹に衝撃を与えたのが70にもなる父親佐分利信の浮気だ。向田作品の常に中心となる強い父親がここでは少し内省的だ。その分比重が女たちに偏っていく。

浮気を知りながら偽の円満生活を演じる母親に大路三千緒。いつも割烹着を着て家事にいそしむ彼女も実は心の内側は炎の人だったのだ。買い物帰りに夫の別宅をぼんやり見つめているところを、何と娘の巻子に見られてしまう。その時の恥ずかしいやら悲しいやら子供のような無邪気な表情は絶品。そのまま彼女は道路に倒れ崩れてしまう。死出への旅に出ることになる。買い物かごから落ちた生卵の液体がどろどろ流れる光景はいつ見ても恐い。

このドラマ、今回見ても面白さは昔とまったく色あせていないけれど、僕もあれから30年たったこともあるかもしれないが、男性たちの描き方が淡いと思う。浮気をしている父親、巻子の夫緒方拳、滝子の恋人宇崎竜童、咲子の恋人深水三省とそれぞれ性格付けもしっかりしているのだが、やはり女性の描写と較べて軽い。

いわば設定のためだけの役割に過ぎない存在、ともいえるほど深くないのだ。当時も多少は感じたが、これは意外だった。女性たちは水を得た魚のように動き回っているが、男性たちはただ立ちすくんでいるのみ。

若い時には気づかなかったが、男性には結構きついドラマでもあるのだ。でも今から30年前。台所がリビングと兼用だった中流家庭。アパートも隣近所の付き合いが健在。そしてまだ女性がそれほど社会進出もしていなかった時代。この女性群の描き方は当時としては、向田にとって最先端の鋭角表現だったのかもしれない。緒方拳がパート2では出演を拒否したのは有名な話だ。

でも30年前のドラマなんだけどまったく色あせていない。テレビドラマでここまで描き切るすごさ。そして映画と違ったテレビドラマの保存方法の困難さにも強く関心を持つようになった次第である。


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