セントの映画・小演劇 150本

観賞数 2024年 映画 92本、 演劇 70本

象の背中 (2007/日)(井坂聡) 70点

2008-07-30 16:09:57 | 映画遍歴
肺がんで余命6ヶ月を宣言された男の行動とは、、という人間であれば誰でもが到達しなければならない命の終わりという重いテーマを、彩色豊かな水彩絵の具でさらりと書いてしまったような印象の映画であります。

で、まず冒頭で起こる印象的な男のがんの受容。

この映画ではここまでが早すぎる。普通は間違いではないのかと疑うところから始まる。そして神、自然等々への怒り。そして、何かにすがろうとしていく心理状態が過ぎて、無気力状態になり、死を受容していくというプロセスをとる。

この映画の男はすぐ死を受容する。治療もしないで、死ぬまでよく生きようとする。分からないでもないが、これは要するに自殺行為であります。自殺であるから過去に戻り、気になる人々と邂逅しはじめるのです。

彼が死を受容してからの周囲はほとんど男にとっては理想郷と言えるものです。家族からの暖かいまなざし。会社の同僚からの思いやり。愛人との心のつながり。これは現実なこととは思えなく、やはり男としての夢想、ユートピアなのでしょう、、。

ラスト近く愛人がホスピスに訪れ、妻と出くわすシーンがあります。ここで、今まで安らかだった空気が破局に向かうのではないか、と思っていたのですが、ちょっとしたさざ波に終わりました。もうちょっと本音に入ってもよかったかなあ、と思えるシーンです。映画的には、うまいけれどね。

あと、やはり妻にまず告白をしないというのが全然おかしいので後々までわだかまりが残る。また愛人に骨を残そうとして兄がそれを受忍するのも変だ。変過ぎる。そんなことをしたら、愛人は一生重荷を背負ってしまう。本当に愛人のことを愛しているのなら男はそんなことをしないはずだ。また、どうでもいいことだが、妻の髪型が気になった。しっかりしようとしたら髪を後ろに束ねる辺りのことは通常するするものだ。妻の気持ちを考えると不自然極まりない。

とまあ、欠点もかなりある映画ではあるが、いずれ誰もが通り抜けなければならないこの道を自分であればどのように、と考えることも、まあ現代人にとっても必要なことであろう。話は結構長いが、役所広司の力演で十分見せている。酷評の多い映画らしいが、それほど捨てたものでもない、と僕は思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ハプニング (2008/米)(M・ナ... | トップ | 警官の血( 佐々木譲/著 新... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画遍歴」カテゴリの最新記事