えんや談義:大学入試に向けた理想的な教え方とは?

2016-03-08 12:24:48 | 抽象的話題

塾講師をしているIと飲む。その時に、大学入試に向けて歴史をどう教えるのが理想的かという話になった。Iの場合はどこが出題されるかに徹底してこだわり、知識を詰め込む教え方を信条としている。一方で、受講生の中には歴史学なども動員して背景を細かく説明する授業を求めて別のクラスに移ってしまう者もいるらしい(Iに背景知識がないということではない)。確かに私大と国公立大では要求される知識のタイプ(というかアウトプットの仕方)が違うし、I自身は私大メインのクラスを担当しているとはいえ、色々と悩んでいるとのこと。

 

個人的には、二項対立的に考えなくていいんじゃないか、と思う。丸暗記するしかない場合もあるし、論理的に理解した方がいい場合もある。知識がただの記号になると区別できなくなるから、語呂合わせを使うのが有効な場合もあるし、漢字に着目して内容を理解させるというのも方法としてありだろう。たとえば清代の政府機関として有名な理藩院と軍機処だが、これは理=収める、藩=中国周辺部、院=機関と一字一字理化しなくても、「藩」だけ覚えておけば辺境統治を担当する部署ってことは何となくわかるし、軍機処にしても「軍」がついてるからそれに関する機関だということは容易に理解出来るし、混同しようがない(まあもっとも、後代になると軍機処は内閣に代わって行政の中心も担うようになるのだが)。これを応用していくと、総理各国事務衙門みたいな長ったらしくて覚える気の起きなそうな言葉も総理=すべてを取り扱う、各国=色々な国、衙門=部署といちいちすべて分解と理解をせずとも「各国事務」の部分から「外交を取り扱う部署」と大枠は理解できたりする(大学入試ならそのレベルで十分でないかい?)。その他、御士太夫も士大夫を制「御」する機関と考えておけば、監視する部署であるという理解はたやすい。また、これは厳密に検証したわけではないが、土地に関する法律は均田制や占田・課田法などのように「田」がつくが、今挙げた「制」は施行されたもの、「法」は案の段階に留まるもの、と分けて考えることができる(そうすると、たとえば前漢の限田法が施行されていないことを個別具体的に覚える必要がない)。まあ要するに、点数を追求したとしても、いやだからこそ、論理を組み込んだ方が合目的的なこともあるんじゃないか(英語のケースは文末)。

 

特に彼は日本史を担当しているそうなので、漢字で印象付けるのは有効ではないのだろうか?徳川十五代とか丸暗記するしかないの?と聞くと「家」がつくかつかないかには違いがあるそうで。ほう、じゃあそれでエピソードを交えて話すと印象に残りやすくなる(=区別しやすくなる)んじゃん。あと桂・タフト協定と石井・ランシング協定は生徒にとってまぎらわしいだろうが、これを個別に教えるんじゃなくてワシントン体制への繋がり(太平洋を巡る日米の関係性とその変化)も合わせて説明すると理解がスムーズになるのでは?と言ってみたが、そこは私大だと正誤でしか聞かれないそうで。ゆえに「1905年か1917年でどっちの協定か判断せよ」ということを徹底して強調するんだそうな。うーん、なるべく余計な知識を増やしたくないのはわかるけど、そこは背景があることをちゃんと匂わせる方がいいんじゃないか。「こう出るぞ」「覚えろ」だけだと自分でやるのと変わらんやんと思う人が絶対いるので(実際には、出題のされ方や出題頻度ってよほど問題を網羅的に解かないと身につかない視点だと思うけども)、出来事を串刺しにする論理や効果的な覚え方の提示は絶対必要でしょう。言葉悪く言えば生徒への「見せ方」という視点においても。

 

逆に彼としては、論理で通そうとしても矛盾が出る部分があるし、それを無理に整合性があるものとして説明しようとすることに禁欲的・懐疑的なようだった。それはもうその通りだ。この世界がある一定の法則で説明しきれるなんて発想はただの「宗教」なので、マルキシストになりたいんでもなければやめた方が生徒の、そして何より自分のためだろう。麻薬中毒になるとそこから脱却するのは難しく、ましてやそれが麻薬と気づいてないならなおさらである、と。

 

まあIとしては初のサシ飲みということで一つの話のネタとしてこのテーマを振ってくれたみたいだが、話をしながらそんなことを思ったカラヤン伯でありました。

 

 

※補足(英語の場合)
学年が上がるごとに単語は難しくなっていくのは当然だが、そうなればなるほど単語の体系的な理解の方法、たとえば英単語の接頭辞に込められたイメージ、接尾辞が示す品詞などによる整理が有効となる。枚挙に暇がないが、extravagantの「贅沢な」というニュアンスはextra-という接頭辞の「余分な」という概念から理解しやすくなるし、opponentの「敵」はopp-が「反対の」という概念から覚えやすくなるだろう(これはoppositeやoppose、object、obstacleなどにも応用できる)。これは他にも多義語の理解にも活用できて、たとえばstandには「立つ」・「我慢する」という意味がよく出てくるが、私が高校生の時は不思議でしょうがなかった。まあそれを我が不毛な高校時代のように「勃つのを我慢する」と覚えてもよかろうが(←アホ)、しかしこれもst-に「静」という概念があるとわかればすんなり理解できる。つまり、人間は二足歩行の生き物であるから普通はつまり静止状態では「立っている」わけで、また何かをされる(たとえば侮辱)に対して静止つまり動かなければ、それは「我慢する」というニュアンスにつながる。これを応用すると、stayの「滞在する」、stillの「まだ」・「じっとしている」、steady「着実な」、stable「安定した」なども体系的に理解できるし、その方が記憶のリソースを丸暗記より割かなくて済むと思うのである。

しかし一方で、importantはどうだろうか?それはim-port-ant、つまり「中」「港」「ような」→「港の中に入れておきたいような(物)」→「重要な」と説明はできるが、そうやって意味を説明されて有り難がるか。丸暗記した方が速いと思われるのがオチではないか。あるいはもっと言えば、busyの由来やなぜこの単語は[u]を[i]と発音するのか説明して意味があるのか、て話だ。こう考えてくると、結局は入試に合格するという合理性から逆算して話を構成するのを最優先として、興味をもってもらう隠し味として若干の遊びを入れておくぐらいがちょうどいいのではないかと思える。

あとは、タイミングやレベルの問題もあるだろう。たとえば、いわゆる受動態でby~を書く時・書かない時を最初に習う段階で説明するのが有効か否か。まあ話言葉としては、行為者をきちんと示したい・強調したい時はby~としましょうぐらいでいいと思うが、書き言葉として問題演習に対応させたいのなら、英語は(助詞のある)日本語と違って位置が重要な言語であること、そしてそれゆえの情報構造の説明までしないと本質を話したことにならない。でもそれを中学生に話してもつけるかつけないか迷うだけだろうから、最初は「全部つけましょう」でいいんじゃないかね。そして高校生で文型を習った後に本質的な部分を教えればいい。そしたら、日本語で「される」だったら何でも受動態にする訳じゃないとか、文型を軸にした受動態の文の効率の良い作り方を提示するということで、文型をわざわざ勉強する意味も印象付けやすいと思うのだが(まあ中間態とかまで言及するかはともかくとして)。私の記憶が正しければ、高校英語って最初に文型をやった後に時制を教えるけど、むしろ文型と連続する単元として態をやるべきと思うけどね。

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