「ただよび」に見る、教え方とモチベーション維持の工夫について

2020-04-12 13:23:52 | 感想など

 

 

 

 

先日「ただよび」について紹介したが、いくつか動画が上がっているのでその続き。当時浪人して代ゼミに通っていた友達から吉野の本を見せられたことはあるが、授業を見たのはこれが初めだ。

 

一言で感想を言えば、「すばらしい」。もちろん、突っ込もうと思えばいくらでもそうできるだろう。だけど、ちゃんとその中に一つの確固たる軸がある授業は、やはりすばらしいものである。

 

例えば、コメント欄でもしばしば「この繰り返しが重要」・「飛ばさずにそこも聞いてほしい」というかつての受講者と思われる人たちの助言がいくつも書かれているが、これは自分にも実感がある。

 

自分が通っていた高校1年の時の先生は、かなり実践的な文法の覚え方をさせる人だった(余談だが、吉野と同じ國學院の文学部出身)。例えば、「『る・す』は四ナラの未然形」、「『らる・さす』は四ナラ以外の未然形」、「『しむ』はとにかく未然形」、「完了の『り』のみ寂しい(サ未四已)」、「こそなむ君も早かぞ」(係助詞の暗記。これは熊本弁でないとわかりづらいが、「こそなむ君も早いよ」という意味にとれる)などなど。

 

受験が終わると、大学で一般教養として「伊勢物語」と「源氏物語」の授業を受けた時以外は一回も使ってない気がするが(笑)、それでもいまだに暗唱できるレベルで覚えているのである。げに習慣づけというのは恐ろしいものだが、要するに体得すべき事柄というのは、こうして何度も印象付けしつつ繰り返すしかないわけである。

 

なるほど、相手の人となりによっては理屈づけした方がインパクトがあって記憶に残るケースもあるだろう。しかし、その理屈を説明してる間に大抵は脳がバーンアウトしちまうって寸法だ。そういった現実を無視して覚えられる奴だけ覚えろっていう考え方もあるが、教育の機会の平等のために立ち上がった吉野や森田の方針として、そういうスタンスは取りえないものだろう(昨日の宗教関連の記事に絡めて言えば、出家できないヤツは救済お断り=それってもう選民思想やんけ!てなのと同じ話だ)。

 

他にも色々な工夫がなされていると感じる。例えば、入試問題との結びつけ。もちろん「教わったらその場でアウトプットしないと、わかった気になって終わる危険性が映像授業だと特に大きい」という要素はある(自分が東進に通っていた当時も思っていたことだし)。しかしもう一つ重要なのは、今やっている暗記=筋トレがきちんと効果を発揮する重要な行為だと認識させ、モチベーションを保たせることではないかと思う(部活で置き換えれば、筋トレはついサボりがちで、やたら新しい技は覚えたがったり、練習試合はやりたがったり、というのと同じ)。

 

え、そんなの当たり前でそれのどこが工夫なんだって?もし仮に定着させることだけ考えるのなら、問題をいくつか並べてドリル的にやってもいいわけよ。でも、あえて名のある大学の過去問をもってきて、「あ、今やってることって地味だけどちゃんと難関大の入試で生きるんだな」と実感させることにより、ゴールを示すと同時に、これなら俺・私もやれると自信とやる気を持たせる演出なのである(ちなみに「少ない方から覚える」というのも合理性がある。例えば自分の受験科目だった世界史で言うと、イスラム王朝が沢山ありすぎて混乱するが、宗派についてはシーア派が少数なので、そちらだけ覚えて後はスンナ派として処理する、という工夫をしていた)。

 

これは吉野自身がインタビューで言っているが、「ただであるから手放しで素晴らしい」となるほど勉強というのは甘いものではない。むしろ費用を回収しようというモチベーションがないだけに、いつでも離れることができてしまうというのも現実なのだ(逆に、RIZAPがなぜ続くのか、といった事例を想起するとよい。調べればわかるが、無茶苦茶金がかかるのだが、これでハイエンドな顧客に絞り、費用を回収しようというモチベーションと絡めてしっかり管理して結果を出せば、上客を多数口コミで紹介してくれるというビジネスモデルなのだろう)。

 

ゆえにこそ、適度に入る(?)雑談もそうだが、いかにモチベーションを維持させるかは何を教えるかと同じくらい、否それ以上に重要と言えるのである(英語の重要性を笑いの中で印象付けるとか、そもそも勉強に打ち込むマインドセットのために弟さんの話を出すところなど)。

 

逆に言えば、そこまで計算づくで動画にしていることは、この人たちが紛れもなく「本気」であることが伺える。そのような気概を見るにつけ、私は改めて彼らの行動を応援したいと強く思った次第である。


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