『あなたの人生の物語』:予定説的世界観から考えさせられること

2020-04-12 10:33:30 | 本関係

 

皆さん謹慎してますか?土日休みという(今の会社で)滅多にない現象を経験しているムッカーです。昨日が分量的に重たい記事だったので、ちょっと軽めの話を入れときましょう(・∀・)

 

さて、今回冒頭で紹介されているのはテッド=チャンの「あなたの人生の物語」。「Arrival」(邦題は「メッセージ」)という題で映画化もされております。この動画では、理系の人に勧めるというお題なのでいわゆる「フェルマーの原理」(ざっくり言うと光が最短ルートを通るという法則)を絡めて紹介されていますが、この点を広げるとなかなかに面白い。

 

1.光の進み方について

「フェルマーの原理」が発見されたおよそ150年後に、干渉実験をヤングが行ったことが有名ですが、ここでは光が波動であることが示されました。さらにその150年後には、二重スリット実験が行われ、そこから得られた粒子と波動の二重性という性質が、ファインマン(ご冗談でしょうの人w)らの量子力学の土台となっていったりしたわけですね(ちなみに毒書会の本にもシュレーディンガーやノイマンは候補に挙がっており、シュンペーターのヤツが終わったら挑戦してみたいもんです)。

 

さて、量子力学と言えば、SFで好まれるのは「並行世界」。このテーマで連想される著名な作家はグレッグ=イーガンでしょう。このテーマでは、『宇宙消失』『順列都市』などが特に有名ですね。まあ個人的には、並行世界よりも認知科学の方に強い興味があるので、「ぼくになることを」や「祈りの海」なんかの方が好きですが(ちなみに、自分の傑作PCゲームに「沙耶の唄」「euphoria」が入っているのは、そのストーリーの完成度だけでなく、人間ないし人間性というものの境界線を考える上で非常に示唆的だからです[ちなみに境界線侵犯の類稀な表現がなされているという点では、「undertale」も10年に一度の傑作だと私は思います]。これはAIが発達してきてますます人間という存在が問い直される中で、必ずや重要になってくるテーマでしょう)。

 

 

2.宗教的視点との絡み

ちなみに前述の「祈りの海」は宗教と非常に関係の深い作品ですが、実はこれ「あなたの人生の物語」にも当てはまります。動画では「目的論」と説明されていますが、要は「未来はすでに決まっている」という観念が作品と深く関わってるんですね。これだけ聞くと何じゃそりゃと思うかもしれませんが、16世紀の宗教改革で現れたカルヴァン派の「予定説」が有名で、18世紀には自然科学の領域でも「ラプラースの悪魔」という説が提唱されたりもしました。

 

そしてそのような世界を主人公(たち)が知り、世界の見方が変わっていくという話が「あなたの人生の物語」です。こう考えていくと、映画版原題の「Arrival」というのは地球に宇宙人が「到着」したという意味と同時に、我々人類がそのような世界観に「到達」したというマルチリテラルな文言(二重の意味をもっている)とみることができるのではないでしょうか。

 

ちなみに、冒頭でフェルマーの原理に触れましたが、こういった諸々の法則や世界の成り立ちを見ていくと、高名な科学者たちが、むしろ宗教的領域に深くコミットするのも頷けるところですね。これは「そうとでも考えなければ、これほど世界が体系化され絶妙なバランスの上に成立していることが納得しがたい」という心性と考えることができます(これは「神の罰」陰謀論というものがなぜ繰り返し言及されるのかとも関連)。

 

最近ちょいちょい引用している「ぴよぴーよ速報」的なノリ(イデア論のあたり)で説明すれば、我々が一つ一つの出来事を分析して一般化している時、あまりにそのプログラムがよくできているため、そのコードマスターがどこかにいると思わずにはいられない、という感じでしょうか(余談ですが、デモクリトスの万物の根源=原子じゃねって説→エピクロスのアタラクシア=見えない世界なんてねーんだから楽しく生きるぞー→マルクスの唯物論て流れなんかは、いかに新しく見える理論も、古典という基盤の上に成立しているのかを思わせて興味深いですね)。

 

なお、賢明な読者諸兄は、「いやでも今までの話ってニュートン力学的な単線的世界の話であって、量子力学的発想だとそうはならんやろ」と突っ込んでいるところではないかと思います。これは全くその通りで、だからこそ、科学的知見というものを、完全に宗教から切り離して考えることができないんですよね(少なくとも今のところは)。まあこれは12世紀ルネサンスのとこでも話したことの繰り返しになりますが。

 

以上二つの点で話を広げてみましたが、実際「あなたの人生の物語」は色々な意味で興味深い作品なので、もし未読であればぜひどうぞ。

 

・・・って全然軽い記事にならんかったorz


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