自立と孤立について:あるいはなぜ日本組織の構造的腐敗が繰り返されるのか

2024-01-19 11:59:23 | 生活
 
 
 
 
 
 
 
こちらは落合陽一と当事者研究で有名な熊谷晋一郎の対談だが、示唆に富んでいて様々考えさせられるところが多かった。特に、障がい者に投げかけられる「自立せよ」という声に対し、自立とはそもそも何かを考え、それが一人で生きることでは全くなく、「依存先が複数ある事」「支配されない事」だとしていたのは思わず膝を打った部分だった。
 
 
その理由は二つあって、
 
1.「自立」と「孤立」の違い
(個人主義を利己主義ないし「孤人主義」と勘違いする傾向ともつながる)
 
2.閉鎖的組織と悪習・不祥事の構造
 
を思ったからだ。
 
 
1については、つど述べているように、集団主義と対置するものとして個人主義が移入・理解された結果、それがただ自己都合を主張する「利己主義」=エゴイズムとして認知されてしまったり、あるいはそういうものとして抑圧されてしまいがちだ、という話である。人間が一人で生きることはできない以上は、他者との共生や協働といったことが必要不可欠であることは言うまでもない。しかしそれは、集団に埋没してその決定に唯々諾々と従うこととは違い、自分の違和感や主義主張はしっかりと行っていき、必要とあればそこから離脱も辞さない、というのが個人主義なのである(まあトクヴィルなども指摘したアメリカ的アソシエーションがわかりやすいが)。
 
 
いやいやそれは日本でも行われていることだと反論する向きはもちろんあるだろうし、それが部分的に正しいことは否定しないが、大きな枠組みで見た場合は、2の傾向が強く観察されたのが2023年だったことをもう一度思い出す必要がある。
 
 
すなわちジャニーズ問題大手マスメディアの隠蔽宝塚の不祥事ダイハツの不正などなど、老舗も含め多くの業界で閉鎖的組織によるガバナンスの機能不全が明るみに出たわけだが、ではそれらはなぜ生じたのだろうか?特別に邪悪な人間の集まりだったからか?あるいは特別に無能な人々だったからか?そうではないだろう。多くの人間はいわゆる「凡庸な悪」で、組織にどっぷり浸かってそこに過剰適応して悪習に染まり、爪弾きにされないよう保身に走って隠蔽する・・・という行動の集積が巨大な犯罪空間を生み出し、それをこの令和の世まで存命させてしまったのである(なお、こういう閉鎖的組織と構造的腐敗について考えた時、旧日本軍ナチスドイツ、あるいは共産主義国の機能不全といった事例も参考にすべきだろう。その他にも、共同体レベルで考えると以前も触れた津山事件などを想起することができる)。
 
 
このような観点で見れば、チェックアンドバランスのようなシステム的変化が重要なのは言うまでもないとしても(例えば電波利権やクロスオーナーシップ、再販制度に守られた大手マスメディアは、一度解体的出直しをすべきである)、組織にどっぷり浸かってそこと同化してしまう、つまり丸抱え・依存を生み出す仕組み自体がもはや今日ではリスクでしかない(より正確に言えば、メリットよりもデメリットの方が圧倒的に大きくなっている)。こう考えた時に、冒頭で引用した対談の話は、広く人間一般に適応できる話として大変興味深く聞いた次第である。
 
 
なお、今回のテーマは他にも様々広げることができるだろう。一般的な話としては、アマルティア・センが唱えたケイパビリティの発想とつなげるのが最もわかりやすいと思うが、その他にも様々なシュミレート・思考実験にも活かすことができる。例えば思考実験として、「お見合いを復活させて皆婚社会を再来させる」みたいな話は、そもそも多様化が許容される時代に非現実的というだけでなく、それしか選択肢がない社会は、外れれば抑圧されたり爪弾きにされるし、またそこから離脱困難であるがゆえに腐敗が横行・温存されるという点でも許されない選択と言える(そもそも江戸時代の離婚率や単身率などを思い返せば、近代的家族制度を取り入れた明治~昭和が異常だったのであり、それをスタンダードのように思い込んでいる時点で歴史的無知とも言える)。となると、やはり今の「自由恋愛で家族を形成する」という仕組みは変更不可能なので、結婚や出産に関する仕組み・社会通念を大きく変えない限り、非婚化や少子化を止める術はない、という結論に到るだろう(そう腹をくくった上で、労働力不足などの対応をどのようにするかを他国以上に真剣に吟味・実行していく必要がある)。
 
 
以上のように、今回の対談は障がい者の包摂や自立という問題のみならず、広く社会の運営の仕方や日本的組織の機能不全を考える上でも非常に参考になるものだったと感じた次第である。

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