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いわゆる「エロマンガ」と呼ばれるものは、端的に言うと「話の中に必ずエロ描写が必要とされる漫画」である(裏を返せば、エロ要素さえあればかなり幅のある描写ができるという言い方もできる。まあもっとも、これはエロが解放と結びついて、いわゆる左翼的な表現の場ともなった60・70年代的な話で、今もそうであるかは極めて疑問はあるが)。同人誌はともかく、商業誌は増え続けているニッチなアンソロジーを除けば連載形式のものが大半なため、短い話の中で前述の要素をどのように盛り込むかという点、そしてその上でどのように話を構築するかという点に作者の手腕が問われる。
こういった事情のため、セックスに到る必然性の描写をすっ飛ばせる催眠であったり薬物であったりがそこではしばしば登場するのも当然である(あるいは笑花偽の「孕みたい彼女」のように、主人公に特殊能力が備わっているケースもある)。セックスの対象≒女性が簡単に絶頂する必然性をも同時に付与できるという意味では、一石二鳥のガジェットであるとすら言えるだろう(興味深いことに、管見の限り、商業誌で掲載されている作品の大半はセックスの対象がひたすら不快なまま終わるというケースは稀である。まあ要するに、嫌がる女性を無理やりセックスしました終わり、というのだと読者にとって後味が悪いということだろう。だから、嫌がっていても最終的には感じたというある種のエクスキュースが必要とされるわけだ。また、多少無理やりでも感じるはず/感じていればOKなどというのはレイプファンタジーでしかないことを前提に書けば、ガチのレイプはあまりニーズとなっていないとも言える。とはいえそこには、いわゆるふたなり・男の娘モノの流行に見られるように、男性からは女性の快楽構造が明確には見えないという不安も背景にはあるのだが)。ゆえに、短い話の中で絶頂に到らなければならないという制約も負っているわけで、セックスの対象は驚愕するほど感じやすいケースがしばしば見られる。このように考えると、先に述べた催眠・薬物などがいかにエロマンガを描く上で便利なツールかということが容易に理解されるだろう(余談だが、こういう事情ゆえに、同人誌のいわゆるエロパロでありえない組み合わせを描く場合にも使えるなど、非常に汎用性が高い。私はあまり詳しくないが、いわゆる「関係性」重視とされる女性向けのBLなどにおいて、このような、あえて言えば他者「所有」のための、ツールがどの程度利用されているのか興味深いところである)。
ところで、以上のような制約を踏まえた上で最近私が興味深いと思ったのは、アシオミマサトの「クライムガールズ」である(現在四話まで刊行)。題名がcrime girlsなので何らかの「犯罪」を犯した女性の弱みを握ってセックスしていく話である(美人局などはともかく、二話で出てくる「不倫」はcrimeではなく強いて言えばsinでは?と思うが、まあこの際細けーこたぁいいんだよw)。これだけだといわゆる「鬼畜モノ」というジャンル(典型例が「臭作」・「鬼作」など)でありがちな展開で何ら目新しくはないと思われるかもしれない。しかし、そもそも主人公はなぜ少女たちとセックスをしていくのかと言うと、そうしなければ主人公は延々と同じ日を繰り返すことになるからだ(理由は今のところ不明)。さらに言えば、主人公はセックスの際には必ず中出しをするのだが、これまたループを脱する必須条件だからである(前述はしなかったが、エロマンガにおいては、実に不自然ながら、十中八九中出しである)。
ここまで読んで、一体何を私がそんなに評価しているのかと首を傾げる読者もいるかもしれない。その答えは、この作品がエロマンガのいわゆるお約束に近いものになっているものをあえて非自明化していることにある。たとえば先に不倫の話を出したが、主人公が教師の不倫現場を発見した後、マンガの描写自体はセックス(厳密にはフェラチオ)する場面へと移る。しかし、主人公のモノローグでこの教師とのセックスにこぎつけるまで何度も懐柔されたり警察を呼ばれたりしたことが語られている。また前述のように中出しが必須なわけだがそれについても教師からたびたび拒絶されたことが述べられている。最初に述べたように、そもそもエロマンガは「話の中に必ずエロ描写が必要とされる漫画」である。ゆえに、そこへ到る過程が牽強付会であったり、セックス自体の描写も極めて不自然なことが大半である。しかしそれはあまりに自明なので、むしろそれ自体がネタにされるジャンルとなっているほどだ。この「クライムガールズ」は、そのような不自然さを、ネタつまり笑いとして処理するのではなく、むしろループする世界の中での必然として取り込んでいる点が新しい(だから主人公には普通に罪悪感があるし、脅されてセックスする女性が主人公を内面では拒絶する描写もストレートに描かれている。また、中出しのことを主人公に卑近な中出しという言い方ではなくわざわざ「膣内射精」と言わせている点も非自明化の演出として興味深い)。かつ、ここがいっそうすばらしい点だが、だからと言ってスカした突っ込み漫画などではなく、そうしたメタ的なエロ描写の先に「そもそもなぜ世界はループしているのか?」、「このループを最終的にクリアするにはどうしたらいいのか?」といった謎解き要素がきちんとあることだ(傑作euphoriaのような展開の可能性もありえるが、主人公が犯罪の現場近くに飛ばされていることからすると、このループ世界を終わらせようとする意思が少なくとも働いていると見ることができる)。しかも、ループを解く条件が最初は中出しだったが、後にはセックスする相手が同時に二人でないといけないといった変化も生じており、興味が尽きないところである。
以上述べてきたように、アシオミマサトのクライムガールズは、エロマンガというものが「エロ要素さえあれば何でも書ける」という大きな可能性を持ったジャンルであることを改めて感じさせる作品である。今後話が大きく展開していく可能性が高いが、失速することなく完結することを大いに期待したいところである。
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