再論『映画を早送りで観る人たち』:情報のフォラグラになる背景

2022-09-27 11:30:30 | 本関係
古代ローマに関して、「食事をした後に羽で喉を刺激し、嘔吐してからまた別のものを食べた」という逸話がある(これには誇張だとか、背景のある行為をあたかも贅沢のように誇張したなど様々な見解があるが、ここでは置いておく)。なるほど美食を楽しみたい欲求自体はわかるが、そうまでするモチベーションは一体どこから来るのか?と当惑する。
 
 
稲田豊史の『映画を早送りで観る人たち』で紹介されるような、映画やアニメといったコンテンツを倍速視聴する人たちに関する私の印象も似たようなところがある。そうまでして多くのものを見たいのだろうか?と思うわけだ。これは何度も書いているが、私も全く時間が足りないと感じることがしばしばある。昔はそれを「コピーロボット欲しい」と書き(つまり二体ないと回らん)、今ではメタルクウラが必要(何体も分身がほしい)とも言う始末である(まあ現実は戦闘力53なんですがね😭)。その理由は「仕事をする役割」・「旅行をする役割」・「記事を書く役割」・「映画を見る役割」・「本を読む役割」・「動画を見る役割」でそれぞれ一体ずつ必要で、何だったら本や動画は2~3体あってもええわ!という認識による(てかそうじゃねーと身体がもたん😇)。
 
 
ただ、書きながら思うのだが、「やりたいことは無数にある。しかし時間は有限だから、その一部しかやりきれない」。別にそれでいいのではないか?その作品には死ぬまで縁がないかもしれないし、あるいは死ぬ間際に出会って感動し、それまで触れてこなかったことを後悔するかもしれない。でも、それが人生ってもんではないのか?「あれもしたい、これもしたい、もっとしたいもっともっとしたい😀」と言いながら、しかしメフィスト博士になることはできないので、必然的な終焉を迎えるしかない。そういう死=有限を約束された存在が何かに追われることなく生きるには、先に述べたような断念が重要ではないかと思うのである(という認識の元に「拡張現実と熟議型民主主義の黄昏」などは書いている)。
 
 
だが、「倍速視聴」という行為で自分から情報のフォアグラになろうとする。仕事でもないのに、一体何のために?
 
 
そこで筆者が主張するのが「タイムパフォーマンス」つまり「タイパ」の概念だが、考えてみればそのマインドは習慣化してしまうとなかなか逃れがたいものではある。それは喩えて言うなら食べ放題にのぞむマインドに似ている。時間が決まっており定額制だから、少しでも元を取ろうとし、本当はそんなに食べなくてもいいのに無理をして食べた、という経験がある人は少なくないのではないだろうか。そして、動画や映画視聴の仕様変更により、このような消費行動が可能かつ常態化したのがタイパ重視で動画などを消費する姿勢だと考えればその背景は理解しやすいように思う。
 
 
もちろん、食べ放題の仕組みになったからと言って、みなが強欲大食魔[?]になるわけではないように、脳汁ドバドバになるのを見越した上でどこまで食べるか上手くコントロールする人もいれば、好きなものにだけ徹底集中することで過剰に食べ過ぎないようにすような人もいたりするだろう。実際、『映画を~』でも倍速視聴に関する棲み分け(最初等速で見て一部倍速にする等)の話は色々なパターンが出てくるので、全てのコンテンツや全てのシーンを倍速で消費していると考えるのは過剰な一般化である点には注意を要する(また、自分事で恐縮だが、倍速視聴ではないものの動画を見れない環境に身をおいて強制的にデジタルデトックスをすると、上記のような反応が一種のアディクションだと気付く。つまり、見れる状況だと「次溜まってるあれ見なきゃ」という感覚になるが、始めからそれが無理だと「まあ焦ってもしょうがねーべ」というある種のまったり感覚に思考が変化するのである)。
 
 
とここまで書いてきたように、ちょっと聞いただけではぎょっとするかもしれない倍速視聴も、その背景などを多少知るとそれなりに理解できるものになるのではないかと思う。ただ、その状況を踏まえた上でなお、自分が非常に危ういと感じたのは、「なぜそこまでして倍速視聴をするのか?」と聞かれた際、しばしば「仲間内のコミュニケーションについていくため」という理由が挙げられていたことである。そこからは所属の欲求や承認欲求、または危うい「共感」といった問題点を見出すことができるが、次回はこの点について取り上げていきたい(なお、二か月ほど前に書いた「『コスパ』思考の全面化とその影響:コンテンツ消費のあり方と人間関係の変化」に関連してくる)。

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